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お気に入りの場所1
しおりを挟むクロはマルガレーテに撫でられるのが好きなようで、しょっちゅうマルガレーテに撫でろと言うように自分の頭をグイグイとマルガレーテの手に押しつけてくる。
だからそのたびに、マルガレーテは撫でてやる。
とにかくクロが可愛くて、ますます溺愛するマルガレーテ。
純粋に自分を信頼して見つめてくるその目が嬉しかった。そして誰よりも一途に自分を愛してくれるその態度が嬉しかったのだ。
今日もマルガレーテとクロは、一緒に離宮の庭を散歩していた。
よく晴れた気持ちの良い日だったので、マルガレーテたちはちょっと遠くまで行くことにした。
それは、離宮の庭の端。王宮を囲む高い塀を隠すように茂る森の中。
すっかり雑草に覆われてはいたけれど、石で舗装された道のようなものを見つけたのでその道をたどってみることにしたのだ。
クロが先導して、マルガレーテが着いていく。
それはまるでクロがマルガレーテに危ないことには遭わせないぞと頑張っているような感じがして、マルガレーテは微笑ましく思いつつ嬉しかった。
「ワンワン!」
クロが何かを見つけたらしい。クロの指し示す方向を見ると、森の中にどうやら古い建物があるようだ。
近づいて見てみると、それは立派な石造りの東屋だった。
半分森に埋もれていたその場所にマルガレーテが立ってみると、暗い森の中なのになんだか気持ちの良い風を感じてそこだけ爽やかである。
「ワオン」
クロも、マルガレーテの足下に座って目を瞑りながら気持ちよさそうにしている。
「こんな所があったのね」
その場所がすっかり気に入ったマルガレーテはその場にしばらくいた後に、離宮に帰って早速王妃様にも報告したのだった。
「ほう。そんなものがあったか。知らなかったな」
王妃様が意外そうな顔をして言った。
「森の中で暗いのですが、とても気持ちの良いところでした」
マルガレーテがそう言うと。
「へえ。マルガレーテが気に入ったのか。じゃあそこ、ちゃんと整備しようか。公爵家に連絡を」
そう言って、すぐさまその場でハンナに指示した王妃様だった。
早い。決断が早い。
整備って、人を雇って木を切って、あれこれ大がかりなことになるのよね?
でも今まで誰も行かなかったから放っておかれていたのよね?
なのに? 私がまた行くだろうからという理由だけで!?
などとマルガレーテが慌てているうちに、やっぱりあっというまに森に埋もれていた廃墟のような東屋は、綺麗な花に囲まれた素敵なレンガが敷き詰められた小道の先にある綺麗な東屋に生まれ変わったのだった。
さすが王妃様……。
そのありあまる財力と行動力にただ驚くマルガレーテ。
「なんだかすみません、私が好きだと言ったせいで……」
「ん? マルガレーテが好きなら、理由は十分ではないか? どうせならあの東屋ももっと立派なものに建て替えようかと思ったんだが、もしかしたら歴史的な意味があったら困るからそこは保留な。調査してからまた考えようね」
「いえいえ、保留じゃなくていいです……もう十分です……」
だって、もう東屋はマルガレーテの想像を超える美しい姿になっていたのだから。
苔は落とされ傷は補修され、すっかりぴかぴかな東屋よ?
一体これ以上どこを改善する余地があるというの?
贅沢を知っている人はすごいのだな、とマルガレーテはただただ感心するしかなかった。
新しく整備された東屋の周りは広々とした広場になっていて、クロの遊び場にもちょうどいい広さになっている。
クロも気に入ったようで、毎日もうそれは大喜びで走り回っていた。
あまりにクロが喜ぶものだから、マルガレーテもそのすっかり居心地が良くなった東屋でのんびり過ごすことが多くなった。
最近はクロと一緒に散歩に出ると、侍女のリズがすかさず東屋用のクッションやら毛布やら膝掛けやらを持って着いてくるくらいには毎日通うようになった。
小さな広場の素敵な東屋で、美味しいお茶とお菓子をつまみつつのんびりする日々。
こんなに豊かな上に幸せでいいのかしら。
生き生きと広場を探検するクロを眺めながら、そんなことをつい考えてしまうマルガレーテだった。
ここにはマルガレーテが魔女だから、魔力があるからといって非難する人は誰もいない。
もう外国から来たお客様という感じでもなくなって、すっかりこの離宮の住人として使用人たちにも仲良くしてもらっていた。
ラングリー公爵も、離宮を訪れるたびにマルガレーテにもお土産のお菓子やちょっとしたアクセサリーをくれたりして甘やかされ放題だし、優しい王妃様はまるで本当の母のようにいつもマルガレーテを気にかけ大切にしてくれて、ずっと家族のいなかったマルガレーテはここで本当に幸せだったのだ。
なんだか、今までずっと欲しかったものを全て手に入れた気がする。
しみじみそう思って幸せを噛みしめるマルガレーテ。
だから。
この命がもうそう長くはないとしても、それほど後悔はない――
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