二度捨てられた白魔女王女は、もうのんびりワンコと暮らすことにしました ~え? ワンコが王子とか聞いてません~

吉高 花

文字の大きさ
23 / 64

イグナーツ先生1

しおりを挟む

「それでは王妃様、姫の訓練は高度な専門技術になりますので特別料金になりますが」

 イグナーツ先生が最近頻繁にこの離宮に来るようになって、マルガレーテはどうやら本来のイグナーツ先生の素の顔を見るようになった。つまりは、

「ふん、仕方なかろう。相変わらずちゃっかりしてるな」

 と王妃様も認めるほどの守銭奴具合である。
 しかしイグナーツ先生はそんな王妃様の言葉にも全く意に介することはなく、しれっと、
 
「私どもは技術と知識を売るものですから。私が魔術とその技術を安売りすると、この国の魔術師全体の立場が悪くなるのですよ。王妃様とラングリー公爵家は大変気前がよろしいので、もちろん不満はございません」

 輝く笑顔で堂々とそう王妃様に答えてしまうイグナーツ先生は、きっと魔術師の中でも実力と立場が最高なんだろうとマルガレーテは最近わかってきた。

 ということは、そんな素晴らしい人に教えを請うことができると言うことは、なんて幸運なことだろう。
 なにしろ今まで、マルガレーテは本当に何も知らずにきてしまったのだから。
 この国に来て、本当に魔術師としての知識が全くないことを思い知らされた。
 でも、きっと今からでも成長できる。少しでも。
 

 そんなマルガレーテの意気込みを知り、自分の魔力を感じる訓練は早速その日から始まった。
 
「まずは私の魔力を感じてみましょう」

 そう言ってイグナーツ先生がマルガレーテの両手を握る。すると、

「ワンワンワンワン! ワン!」

 それを見て、突然クラウス様が吠え立てた。なんだかとても怒っているようだ。なぜだ。
 イグナーツ先生は決して怪しい人ではないというのに。

 だけれどなぜかイグナーツ先生に敵意むき出しになったクラウス様に驚いたマルガレーテは、仕方なく優しく、

「私はこの方から勉強を教えてもらうのです。だからクラウス様も静かに見守ってくださいますよね?」

 とお願いしたのだった。
 そんなマルガレーテの言葉を理解したのか雰囲気を察したのか、クラウス様は渋々と言った感じで口をつぐむ。
  
 それでもマルガレーテの足下に陣取ってイグナーツ先生をずっと睨んでいるのは、まだもしかしたら大事なご主人様をイグナーツ先生が傷つけるかもしれないとでも心配しているのだろうか。

 しかしそんなクラウス様のために、マルガレーテは先生から学ぶことを決めたのだ。少々クラウス様が不満だろうと、マルガレーテの学ぶと決めた意思は固かった。

「先生お願いします」 
「よろしいですか。では始めましょう」

 そしてイグナーツ先生は改めてマルガレーテの手を握った。
 すぐにマルガレーテはその手から何か温かな、それでいてピリピリするような感触を両手に感じて驚いた。

「これが……?」

「そうです。これが私の魔力です。感じることが出来ましたね。では次に、同じような感触をご自分の中に探してみてください。最初は体全体を感じるのです。そして――」

 最初はなんだか雲を掴むような話で難しいと思ったマルガレーテだったが、それでもイグナーツ先生が帰ったあとも思い出してはいろいろ試行錯誤をしているうちに、だんだん自分の中の魔力をぼんやりと感じることが出来るようになっていった。

 自分の体の中に輝く炉のようなものを感じるようになったのは、そのもう少し後だった。
 その炉の炎は常にゆらゆらとゆらめいて燃え続けているようだった。
 そしてその炎はゆっくりとその周りを照らし、温めて、じわじわと自らも大きく成長していく。
 少しずつ、少しずつ……。

 その炎はクロを撫でると風に吹かれたように揺らめいて、そしてちょっと元気がなくなる。炎の周りの明るさが、まるで吸い取られたように少しだけ暗くなるのもわかるようになった。

 あの炎が私の魔力なのだろう。
 そう学んだマルガレーテだった。


「なるほど、炉、ですか」

 次の日イグナーツ先生は、ふむふむと納得した顔をしてそう言った。
 最近は、王妃様からの要望とそれを受けてのラングリー公爵の意向で、毎日のように離宮を訪れているイグナーツ先生だった。きっと出張料を取っている。

 用件はもちろん主にマルガレーテの訓練である。
 しかしこの人は、その美しいご尊顔を毎日のように拝めるようになった侍女や使用人の人たちが大喜びをしているのを知っているのだろうか。

 しかし物心ついた時から「美しい」とされる「レイテの魔女」たちに囲まれて育ったマルガレーテには、どうも容姿の美しさに対しては耐性があるようでしかも毎日見ているとそこそこ慣れるのである。

 なんだか後光が差しているようなオーラを放つイグナーツ先生の笑顔にぽーっとなったり中には立ちくらみを起こすような侍女や使用人たちを、妙に冷静に眺めるマルガレーテだった。

「マルガレーテ様もとてもお綺麗ですけど、イグナーツ先生の美しさはまた格別ですよね……!」

 などとリズもうっとりと語るのだから、それはもう最近の離宮の中が妙にそわそわと活気づいているのだった。

 しかしイグナーツ先生は、見かけによらず結構中身は俗物である。間違っても見かけ通りの天使ではない。

 なにかとマルガレーテがここまでしていただいていいのでしょうか、などと懸念を口にするたびに、

「大丈夫ですよ、ちゃんとお手当をいただいていますから」

 そう言いつつ満面の笑みとともに小さく手でお金のマークをかたどるイグナーツ先生の笑顔はいつも輝いていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました

鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎて、可愛げがない」  その理不尽な理由で、王都の名門令嬢エリーカは婚約を破棄された。  努力も実績も、すべてを否定された――はずだった。  だが彼女は、嘆かなかった。  なぜなら婚約破棄は、自由の始まりだったから。  行き場を失ったエリーカを迎え入れたのは、  “冷徹”と噂される隣国の公爵アンクレイブ。  条件はただ一つ――白い結婚。  感情を交えない、合理的な契約。  それが最善のはずだった。  しかし、エリーカの有能さは次第に国を変え、  彼女自身もまた「役割」ではなく「選択」で生きるようになる。  気づけば、冷徹だった公爵は彼女を誰よりも尊重し、  誰よりも守り、誰よりも――選び続けていた。  一方、彼女を捨てた元婚約者と王都は、  エリーカを失ったことで、静かに崩れていく。  婚約破棄ざまぁ×白い結婚×溺愛。  完璧すぎる令嬢が、“選ばれる側”から“選ぶ側”へ。  これは、復讐ではなく、  選ばれ続ける未来を手に入れた物語。 ---

『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。 涙を流して見せた彼女だったが── 内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。 実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。 エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。 そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。 彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、 **「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。 「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」 利害一致の契約婚が始まった……はずが、 有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、 気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。 ――白い結婚、どこへ? 「君が笑ってくれるなら、それでいい」 不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。 一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。 婚約破棄ざまぁから始まる、 天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー! ---

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

処理中です...