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悪意のある魔術1
しおりを挟むそれでも大量に余るルルベ草の使い道や保存方法を離宮の人たちで頭を悩ませながら考え続けることしばし。
塩漬けもたくさんできた。もしルルベ草が採れなくなっても、これでしばらくは食べることができるだろう。
油漬けも作ってみた。今や料理に使う油は全てルルベ草をつけ込んだ魔力たっぷりの油になった。
それでもまだ大量に余るルルベ草は、もはや乾燥させる意外に保存方法は思い浮かばなかった。いくら効能が減るといっても、それはゼロではないのだから。
ということで、ひたすら涼しい場所にせっせと並べられるルルベ草。もはやこの離宮はどこに行ってもルルベ草の爽やかな香りで満たされている。
でもだからといって、採らないという選択もないのだった。
なにしろ採らないと、生えない。
採ると、生える。
ならばひたすら採り続け、できる限り保存するべきである。
どんな形であれとても貴重なものなのだから、採らないよりは、採って在庫を増やすのだ。
とはいえ現状ではひたすら乾燥させたものの在庫が増え続けているのだけれど。
乾燥させると効果は半分から三分の一くらいになるらしい。
そうこうしているうちに、王妃様の魔力は一杯になってしまったようだった。
「まさかルルベ草を見るのも嫌になる日が来ようとは……」
普段は気丈な王妃様が、とうとうそう呟いて遠い目をし始めた。
マルガレーテはというと、まだそこまでではなかったが、まあ王妃様の気持ちもわからなくもないとは思った。
「体が受け付けないのならばもう食べない方がよろしいかと……」
見るのも嫌ということは、きっともう今の王妃様には必要がなくなったのだろう。
「そうだねえ。もったいないけど、だからといって嫌々食べるものでもないしね。ということで、この大量のルルベ草を乾燥させる小屋を庭に作ろうと思うんだ」
王妃様が唐突にまたなんか言い出した。
「小屋ですか?」
「そう! めでたくこの離宮を管理地に出来たから、これからは堂々と好きなようにできるんだよね。離宮を建て替えようが庭を掘り起こそうが王宮には文句を言われない。小屋の一つや二つ建てたところで何の問題もないのさ。そしてそれをする理由を言う必要もない。なら好きにやろうじゃないか」
王妃様は晴れ晴れとした顔になっていた。
一応は今まではマルガレーテの寝室の改装とか東屋の撤去とか、いちいち王宮に申請して許可をもらうという形式上の手続きは必要だった。
第一王妃様という立場の方が、この誰からも見捨てられているような離宮で何をしようとも王宮側、というか第二王妃様的には勝手にやってくれという態度ではあったようだけれど、それでもこの離宮で何をしているのかを今までは知らさなければならなかった。
しかし自身の管理地となれば、それも知らさなくていいらしい。
なんというか、自室をもらった子供のようだな、と思ったマルガレーテだった。
管理地は本来は自分の暮らす邸宅や宮にするのが普通のようだけれど、希望すれば他のものでもいいそうだ。過去の王妃様には王宮から離れたところの別荘を管理地にしていた前例も一応はあるらしいのだから。
それに、今第一王妃様はこの離宮に住んでいるわけで。
そしてその住まいを快適に改装したり小屋を建てたり庭を掘り返したりすることは端から見ても不自然には映らない。
ちなみにマルガレーテには管理地はまだない。
なにしろ正式にはまだルトリアの王族になってはいないから。でも、
「マルガレーテは王子妃になったら小さな管理地がもらえるから、今からどこにするか考えておくといいよ。魔力のたくさん湧く場所を探してそこにするといいかもしれないね。なんならこの離宮の隣にして、あの東屋の場所を共同で持ってもいいけれどね。そしてそこにマルガレーテの宮を建てよう。宮はいいぞ。夫婦喧嘩をしたときには特に」
そう言って王妃様はにやりと笑ったものだった。
そういえば、自分の管理地には王様でさえも無断で入れないという話だった気が。
「ワッフ……」
クラウス様がすぐ近くで不安げに何やら呟いていたけれど、何を言ったのかはマルガレーテにはちょっとわからない。
クラウス様はまだまだ呪いの魔術が消えていないので、相変わらずのんびりとした犬としての生活を満喫しているように見える。
たまにルルベ草を食べたりもしているようだけれど、それほど執着しているようにも見えない。
王妃様と同じで、きっと自身の魔力がたくさんあっても、他人にかけられた呪いは自力で解除は出来ないということだろう。
白い色の魔力。
それは不思議な魔力だった。
大抵の魔力は、何かに対して作用する。
何かを成そうと思ったときに、はじめて自分の意志で魔力が使われるのだ。
でも白い魔力というものは、どうも近くに魔術のかけられた人がいると、その人に触れたときに魔力が勝手にその魔術に吸い取られてしまい、その結果かけられていた魔術の作用を消してしまう。
そんな仕組みがイグナーツ先生やマルガレーテによる、マルガレーテの魔力の観察によってわかってきた。
そう、問題は勝手に吸い取られてしまう点である。
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