二度捨てられた白魔女王女は、もうのんびりワンコと暮らすことにしました ~え? ワンコが王子とか聞いてません~

吉高 花

文字の大きさ
35 / 64

悪意のある魔術1

しおりを挟む

 それでも大量に余るルルベ草の使い道や保存方法を離宮の人たちで頭を悩ませながら考え続けることしばし。

 塩漬けもたくさんできた。もしルルベ草が採れなくなっても、これでしばらくは食べることができるだろう。
 油漬けも作ってみた。今や料理に使う油は全てルルベ草をつけ込んだ魔力たっぷりの油になった。
 それでもまだ大量に余るルルベ草は、もはや乾燥させる意外に保存方法は思い浮かばなかった。いくら効能が減るといっても、それはゼロではないのだから。
 
 ということで、ひたすら涼しい場所にせっせと並べられるルルベ草。もはやこの離宮はどこに行ってもルルベ草の爽やかな香りで満たされている。

 でもだからといって、採らないという選択もないのだった。
 なにしろ採らないと、生えない。
 採ると、生える。
 ならばひたすら採り続け、できる限り保存するべきである。
 どんな形であれとても貴重なものなのだから、採らないよりは、採って在庫を増やすのだ。

 とはいえ現状ではひたすら乾燥させたものの在庫が増え続けているのだけれど。

 乾燥させると効果は半分から三分の一くらいになるらしい。

 そうこうしているうちに、王妃様の魔力は一杯になってしまったようだった。

「まさかルルベ草を見るのも嫌になる日が来ようとは……」

 普段は気丈な王妃様が、とうとうそう呟いて遠い目をし始めた。
 マルガレーテはというと、まだそこまでではなかったが、まあ王妃様の気持ちもわからなくもないとは思った。

「体が受け付けないのならばもう食べない方がよろしいかと……」

 見るのも嫌ということは、きっともう今の王妃様には必要がなくなったのだろう。

「そうだねえ。もったいないけど、だからといって嫌々食べるものでもないしね。ということで、この大量のルルベ草を乾燥させる小屋を庭に作ろうと思うんだ」

 王妃様が唐突にまたなんか言い出した。

「小屋ですか?」
「そう! めでたくこの離宮を管理地に出来たから、これからは堂々と好きなようにできるんだよね。離宮を建て替えようが庭を掘り起こそうが王宮には文句を言われない。小屋の一つや二つ建てたところで何の問題もないのさ。そしてそれをする理由を言う必要もない。なら好きにやろうじゃないか」

 王妃様は晴れ晴れとした顔になっていた。
 
 一応は今まではマルガレーテの寝室の改装とか東屋の撤去とか、いちいち王宮に申請して許可をもらうという形式上の手続きは必要だった。
 第一王妃様という立場の方が、この誰からも見捨てられているような離宮で何をしようとも王宮側、というか第二王妃様的には勝手にやってくれという態度ではあったようだけれど、それでもこの離宮で何をしているのかを今までは知らさなければならなかった。

 しかし自身の管理地となれば、それも知らさなくていいらしい。
 なんというか、自室をもらった子供のようだな、と思ったマルガレーテだった。

 管理地は本来は自分の暮らす邸宅や宮にするのが普通のようだけれど、希望すれば他のものでもいいそうだ。過去の王妃様には王宮から離れたところの別荘を管理地にしていた前例も一応はあるらしいのだから。

 それに、今第一王妃様はこの離宮に住んでいるわけで。
 そしてその住まいを快適に改装したり小屋を建てたり庭を掘り返したりすることは端から見ても不自然には映らない。

 ちなみにマルガレーテには管理地はまだない。
 なにしろ正式にはまだルトリアの王族になってはいないから。でも、

「マルガレーテは王子妃になったら小さな管理地がもらえるから、今からどこにするか考えておくといいよ。魔力のたくさん湧く場所を探してそこにするといいかもしれないね。なんならこの離宮の隣にして、あの東屋の場所を共同で持ってもいいけれどね。そしてそこにマルガレーテの宮を建てよう。宮はいいぞ。夫婦喧嘩をしたときには特に」

 そう言って王妃様はにやりと笑ったものだった。
 そういえば、自分の管理地には王様でさえも無断で入れないという話だった気が。

「ワッフ……」

 クラウス様がすぐ近くで不安げに何やら呟いていたけれど、何を言ったのかはマルガレーテにはちょっとわからない。

 クラウス様はまだまだ呪いの魔術が消えていないので、相変わらずのんびりとした犬としての生活を満喫しているように見える。
 たまにルルベ草を食べたりもしているようだけれど、それほど執着しているようにも見えない。

 王妃様と同じで、きっと自身の魔力がたくさんあっても、他人にかけられた呪いは自力で解除は出来ないということだろう。

 白い色の魔力。
 それは不思議な魔力だった。
 
 大抵の魔力は、何かに対して作用する。
 何かを成そうと思ったときに、はじめて自分の意志で魔力が使われるのだ。
 
 でも白い魔力というものは、どうも近くに魔術のかけられた人がいると、その人に触れたときに魔力が勝手にその魔術に吸い取られてしまい、その結果かけられていた魔術の作用を消してしまう。
 
 そんな仕組みがイグナーツ先生やマルガレーテによる、マルガレーテの魔力の観察によってわかってきた。

 そう、問題は勝手に吸い取られてしまう点である。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました

鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎて、可愛げがない」  その理不尽な理由で、王都の名門令嬢エリーカは婚約を破棄された。  努力も実績も、すべてを否定された――はずだった。  だが彼女は、嘆かなかった。  なぜなら婚約破棄は、自由の始まりだったから。  行き場を失ったエリーカを迎え入れたのは、  “冷徹”と噂される隣国の公爵アンクレイブ。  条件はただ一つ――白い結婚。  感情を交えない、合理的な契約。  それが最善のはずだった。  しかし、エリーカの有能さは次第に国を変え、  彼女自身もまた「役割」ではなく「選択」で生きるようになる。  気づけば、冷徹だった公爵は彼女を誰よりも尊重し、  誰よりも守り、誰よりも――選び続けていた。  一方、彼女を捨てた元婚約者と王都は、  エリーカを失ったことで、静かに崩れていく。  婚約破棄ざまぁ×白い結婚×溺愛。  完璧すぎる令嬢が、“選ばれる側”から“選ぶ側”へ。  これは、復讐ではなく、  選ばれ続ける未来を手に入れた物語。 ---

『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。 涙を流して見せた彼女だったが── 内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。 実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。 エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。 そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。 彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、 **「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。 「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」 利害一致の契約婚が始まった……はずが、 有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、 気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。 ――白い結婚、どこへ? 「君が笑ってくれるなら、それでいい」 不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。 一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。 婚約破棄ざまぁから始まる、 天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー! ---

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

処理中です...