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呪いを解く3
しおりを挟む「アオォーーーーーーーン!」
ひたすら悲しげに叫ぶクラウス様。
でも王妃様は、そちらを見もせずに一喝した。
「煩いよ! このバカ息子! おやめ!」
「アオーン……」
そして王妃様は冷静な声で続けた。
「大丈夫、マルガレーテは死んでないから。ちゃんと意識もある。今魔力も補給したから、遠吠えはやめなさい。うるさい」
「ワン!? ワッフウ! ワンワン!」
すると突然ニコニコとした顔になって、尻尾もちぎれんばかりに振りながらマルガレーテたち三人の中に飛び込んできたクラウス様だった。
ひゃっほう!
マルガレーテにはそんな声が聞こえる気がするくらいには喜んでいるようだ。
でもマルガレーテは、クラウス様が人間の姿になっていないのがショックだった。
頑張ったのに。出来る限りの魔力を送ったのに……。
「クラウス様、すみません、私の魔力が足りなかったみたいで……」
大喜びでマルガレーテに飛びついて顔をなめ回し始めたクラウス様を見たマルガレーテは心から悲しかった。
私では役に立たなかった……。
色が変わっただけだなんて。
そう、クラウス様の今まで黒かった体毛が、濃紺に変わっていた。
でも一見、ただそれだけ。
濃紺、それはクラウス様の髪の色。
これは、より人間に近づいたということだろうか。少しは呪いが消えたのだろうか? 少しは頑張ったかいがあったのだろうか?
しかし。
そのとき王妃様が、ぶんぶんと尻尾を振っていまだにマルガレーテの顔をなめ回そうとしているクラウス様を見て冷静に言ったのだった。
「ふむ、戻ったな」
「そうですね。さすが『レイテの白魔女』といったところでしょう」
イグナーツ先生もうんうんと満足そうにしていた。
「白魔女、なるほど。しかし我が息子ながらこれは呆れるな」
「まあ、嬉しいんでしょうね。ちょっと我を忘れていらっしゃるようで」
って、二人とも腕を組んで何を嬉しそうに納得しているんですか。
そんな視線をつい二人に向けたマルガレーテ。
なんだかとても満足そうだけれど、私にはまだクラウス様がワンコの姿に見えているんですけれど?
と思っていたら。
「さて、いいかげん落ち着け、このバカ息子。お前の嫁が混乱しているじゃないか」
「ワッフ、キュウン」
そんな情けない声を出して、王妃様に首輪をむんずと掴んで持ち上げられたクラウス様だった。
ん? なんだか王妃様、慣れていらっしゃる?
そんな不思議な感覚を感じたマルガレーテは、その後の王妃様の台詞に驚いた。
「ありがとうマルガレーテ。見事な白の魔力だ。クラウスを戻してくれて心から感謝する」
「……はい? 戻っては、いないようですけれど……?」
「いや実は、戻っている。完全に。体の色が戻っているし、体もクロの時より少し大きくなっているだろう?」
「え……?」
でも一体そこにどんな違いが?
そんな風に混乱しているマルガレーテに、王妃様はクラウス様の首輪を掴みつつ説明してくれた。
「これは王家の中でしか知られていない極秘事項なんだが、もともとラングリー公爵家には狼男の血が流れていてね。で、こいつは先祖返りらしくて特にその血が濃いんだ。もちろん表向きにはバレないようにしろと言っているんだが、こいつはどうやら普段は狼の姿の方がお気に入りらしくて」
「キュウーン」
「ですから今回この犬化の魔術との相性が特別に良くて本当に困りました。おかげで私がどんなに診ても魔術と本来の狼の部分との境目がわからなくて」
「え……? 狼……?」
茫然とするマルガレーテ。
だって、レイテでは聞いたことがなかったから。
そういうのって、物語の中の話なのではないの?
「この国の東には、獣人が多く住む国があってね。西のレイテとは反対方向だから、レイテはおそらく交流はないんだろう。で、ラングリー公爵家の祖先が、その国から嫁をもらったことがあった。それからはたまに狼に変身出来る子が生まれるようになった」
「ワフ……」
『そういうことだ……』
王妃様に首輪を抑え付けられて、クラウス様が弱々しく鳴いたとき、同時に人の言葉が聞こえて来てマルガレーテは心から驚いた。
「な? これが戻った証拠だな。クラウスお前、もう人間としての意識が完全に戻ったんだろう?」
「ウッフ」
『はい。戻りました。すっきりです』
「クラウス様は、狼の姿の時でもその魔力を使って人と話をすることが出来るのです。相手が魔術師の場合に限られますが」
イグナーツ先生が、マルガレーテが立ち上がるのを手を貸しながら教えてくれた。
「ワン! ワンワン! ワウ! バウ!」
『おい! イグナーツ! マルガレーテから手を離せ! 馴れ馴れしく触るんじゃない! おい!』
クラウス様がいつものように突然激しく吠えたかと思ったら、そんな言葉も一緒に聞こえて来て心からびっくりするマルガレーテ。でも王妃様は、
「戻ったとたんに何難癖つけているんだ。だったらお前も人間に戻って自分で助ければいいだろうが。そんなこと言える立場か」
と呆れていた。
「バウー? ワウワウ? バウ!」
『ほんとにいいんだな? 今このまま戻っていいんだな!? 俺今、首輪しかしてないぞ? いいんだな!?』
抗議をするように吠えるクラウス様。
たしかに、首輪意外に何も身につけてはいなかった。なにしろついさっきまで犬として生活していたのだから。
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