14 / 40
第14話 虚無への飛翔、魂の灯火
しおりを挟む
「待て、ゼノヴィオス殿!」
レガルドの叫びは、崩壊し続ける聖域の轟音にかき消されそうだった。だが、その瞳に宿る決意の光は、いかなる闇よりも強烈だった。
「まだだ……まだ、終わらせるわけにはいかない!」
彼は、崩れ落ちるドゥルザグの巨体を足場に、一瞬の逡巡もなく、祭壇の奥で渦巻く「終焉の黒龍」の顕現――虚無の闇そのものへと、その身を躍らせた!
「レガルド様ッ!」「おじさんッ!」
ミレーユとキルヴァンの悲痛な叫びが、聖域に木霊する。シリウスもゼノヴィオスも、そのあまりに無謀な行動に言葉を失った。
(友よ、約束の重さを、今こそ俺の魂で受け止めよう……!ミレーユ殿、キルヴァン、シリウス、ゼノヴィオス殿……達者でな……!)
レガルドの心に、仲間たちの顔が次々と浮かんで消える。それは、彼がこの世界で得た、かけがえのない宝物だった。
虚無の闇へと飛び込んだレガルドを待ち受けていたのは、物理的な抵抗ではなかった。そこは、形も方向も時間さえも曖昧な、純粋な破壊の意志と混沌とした負のエネルギーが渦巻く、魂の深淵。全身が押し潰されそうなプレッシャーの中、レガルドは「終焉の黒龍」の巨大な意識の奔流と対峙した。それは、ただひたすらに全てを無に帰そうとする、絶対的な絶望の化身だった。
(これが……終焉の黒龍……!)
武力では抗えない。ならば――!
レガルドは、自身の魂の奥底から、黄金色のオーラを最大限に燃え上がらせた。それは、彼が生きてきた三百年の記憶、料理への情熱、仲間たちとの絆、そして何よりも、亡き龍王と交わした「炉辺の約束」――共存への揺るぎない願い――その全てを凝縮した光だった。
「俺の魂がお前の器となるなら……この身ごと、お前を再び封じてみせるッ!」
古代竜にのみ伝わるという、身を賭した封印の秘術。それは、成功すれば相手を封じ込めるが、術者の魂もまた永遠に闇に囚われるという諸刃の剣だった。
一方、聖域の外では、残された仲間たちが絶望的な状況に抗っていた。
「レガルド様……レガルド様ぁぁッ!」
ミレーユは、崩れ落ちる岩屑の中で、ただレガルドの名を叫び続けることしかできなかった。その頬を伝うのは、雨のような涙。
「おじさぁぁぁん!」
キルヴァンの小さな体から放たれる白金の炎は、もはや戦闘のためではなかった。それは、まるで闇に囚われたレガルドを導く灯台の光のように、虚無の闇の入り口で必死に揺らめき、燃え続けていた。その清浄な光が、レガルドの魂の戦いに、ほんのわずかでも力を与えているかのようだった。
「レガルドの野郎……死ぬんじゃねえぞ……絶対に、帰ってこいよぉぉッ!」
シリウスは、次々と落下してくる岩盤からミレーユとキルヴァンを庇いながら、柄にもなく涙声で叫んでいた。
「レガルド殿が……あやつが、時間を稼いでくれておるうちに……!」
ゼノヴィオスは、震える手で古びた転移の魔石を握りしめ、最後の魔力を振り絞って起動を試みる。だが、聖域全体の魔力の流れが「終焉の黒龍」の奔流によって著しく乱され、転移魔法は不安定な明滅を繰り返すばかりだった。
その時、虚無の闇の奥から、ドゥルザグを操っていた女の声の主の、断末魔にも似た絶叫が微かに響いてきた。
「おのれ……おのれ古代竜め……だが、もはや遅い……封印は……完全に……ああああああっ!」
その声は、レガルドの黄金の光によって浄化されたのか、あるいは「終焉の黒龍」の制御不能な力に飲み込まれたのか、途中で不自然に途切れ、そして完全に掻き消えた。
直後、レガルドの黄金のオーラと、キルヴァンの白金の炎が強く共鳴し合い、一瞬、虚無の闇を貫くかのような凄まじい光芒が迸った!
聖域全体が、これまでで最も激しい揺れに見舞われ、天も地も裂けるかのような轟音が鳴り響く。
「今じゃッ!」
ゼノヴィオスの叫びと共に、彼の持つ転移の魔石が眩い光を放った。不安定ながらも、魔法は発動したのだ!
ミレーユ、キルヴァン、シリウス、そしてゼノヴィオス自身が、抗いがたい力で光の中に引きずり込まれていく。
「レガルド様ァァァッ!」
ミレーユの最後の叫びが、崩壊する聖域に虚しく響いた。
どれほどの時間が経ったのか。
ミレーユたちが意識を取り戻したのは、霧隠れ山脈の麓に近い、比較的安全な森の中だった。転移魔法の衝撃で、全員が地面に倒れ伏している。
「……ここは……?」
ミレーユが最初に身を起こし、周囲を見渡した。キルヴァンは気を失っており、シリウスもゼノヴィオスもぐったりとしているが、幸い命に別状はなさそうだ。
そして、彼女は息をのんだ。
霧隠れ山脈――かつて「古の龍の聖域」があったはずの場所は、その山頂部分がごっそりと抉り取られ、まるで巨大な隕石が落下したかのような、禍々しいクレーターへと変貌していたのだ。もうもうと黒い煙が立ち上り、焦げ付くような異臭が風に乗って運ばれてくる。
「終焉の黒龍」の圧倒的な気配は、不思議と消え失せているように感じられた。だが、代わりに、そこには言い知れぬ喪失感と、不気味なまでの静寂が広がっているだけだった。
レガルドの姿は、どこにもなかった。
彼の温かい炎も、力強い声も、もう感じられない。
ただ、クレーターの中心から、空に向かって一条の、細く、しかしどこまでも清浄な黄金色の光の柱が、まるで道しるべのように、静かに立ち昇っているのが見えた。
それは、まるで古代竜の魂が、最後の力を振り絞って何かを成し遂げた証のようにも、あるいは、いつか帰る場所を示す道標のようにも見えた。
ミレーユは、その光を見つめながら、ただ静かに涙を流し続けた。
「レガルド……様……」
「炎の一献」の店主、古代竜レガルド。彼の戦いは、本当に終わってしまったのだろうか。
そして、「終焉の黒龍」の脅威は、本当に去ったのだろうか。
答えは、まだ誰にも分からなかった。
レガルドの叫びは、崩壊し続ける聖域の轟音にかき消されそうだった。だが、その瞳に宿る決意の光は、いかなる闇よりも強烈だった。
「まだだ……まだ、終わらせるわけにはいかない!」
彼は、崩れ落ちるドゥルザグの巨体を足場に、一瞬の逡巡もなく、祭壇の奥で渦巻く「終焉の黒龍」の顕現――虚無の闇そのものへと、その身を躍らせた!
「レガルド様ッ!」「おじさんッ!」
ミレーユとキルヴァンの悲痛な叫びが、聖域に木霊する。シリウスもゼノヴィオスも、そのあまりに無謀な行動に言葉を失った。
(友よ、約束の重さを、今こそ俺の魂で受け止めよう……!ミレーユ殿、キルヴァン、シリウス、ゼノヴィオス殿……達者でな……!)
レガルドの心に、仲間たちの顔が次々と浮かんで消える。それは、彼がこの世界で得た、かけがえのない宝物だった。
虚無の闇へと飛び込んだレガルドを待ち受けていたのは、物理的な抵抗ではなかった。そこは、形も方向も時間さえも曖昧な、純粋な破壊の意志と混沌とした負のエネルギーが渦巻く、魂の深淵。全身が押し潰されそうなプレッシャーの中、レガルドは「終焉の黒龍」の巨大な意識の奔流と対峙した。それは、ただひたすらに全てを無に帰そうとする、絶対的な絶望の化身だった。
(これが……終焉の黒龍……!)
武力では抗えない。ならば――!
レガルドは、自身の魂の奥底から、黄金色のオーラを最大限に燃え上がらせた。それは、彼が生きてきた三百年の記憶、料理への情熱、仲間たちとの絆、そして何よりも、亡き龍王と交わした「炉辺の約束」――共存への揺るぎない願い――その全てを凝縮した光だった。
「俺の魂がお前の器となるなら……この身ごと、お前を再び封じてみせるッ!」
古代竜にのみ伝わるという、身を賭した封印の秘術。それは、成功すれば相手を封じ込めるが、術者の魂もまた永遠に闇に囚われるという諸刃の剣だった。
一方、聖域の外では、残された仲間たちが絶望的な状況に抗っていた。
「レガルド様……レガルド様ぁぁッ!」
ミレーユは、崩れ落ちる岩屑の中で、ただレガルドの名を叫び続けることしかできなかった。その頬を伝うのは、雨のような涙。
「おじさぁぁぁん!」
キルヴァンの小さな体から放たれる白金の炎は、もはや戦闘のためではなかった。それは、まるで闇に囚われたレガルドを導く灯台の光のように、虚無の闇の入り口で必死に揺らめき、燃え続けていた。その清浄な光が、レガルドの魂の戦いに、ほんのわずかでも力を与えているかのようだった。
「レガルドの野郎……死ぬんじゃねえぞ……絶対に、帰ってこいよぉぉッ!」
シリウスは、次々と落下してくる岩盤からミレーユとキルヴァンを庇いながら、柄にもなく涙声で叫んでいた。
「レガルド殿が……あやつが、時間を稼いでくれておるうちに……!」
ゼノヴィオスは、震える手で古びた転移の魔石を握りしめ、最後の魔力を振り絞って起動を試みる。だが、聖域全体の魔力の流れが「終焉の黒龍」の奔流によって著しく乱され、転移魔法は不安定な明滅を繰り返すばかりだった。
その時、虚無の闇の奥から、ドゥルザグを操っていた女の声の主の、断末魔にも似た絶叫が微かに響いてきた。
「おのれ……おのれ古代竜め……だが、もはや遅い……封印は……完全に……ああああああっ!」
その声は、レガルドの黄金の光によって浄化されたのか、あるいは「終焉の黒龍」の制御不能な力に飲み込まれたのか、途中で不自然に途切れ、そして完全に掻き消えた。
直後、レガルドの黄金のオーラと、キルヴァンの白金の炎が強く共鳴し合い、一瞬、虚無の闇を貫くかのような凄まじい光芒が迸った!
聖域全体が、これまでで最も激しい揺れに見舞われ、天も地も裂けるかのような轟音が鳴り響く。
「今じゃッ!」
ゼノヴィオスの叫びと共に、彼の持つ転移の魔石が眩い光を放った。不安定ながらも、魔法は発動したのだ!
ミレーユ、キルヴァン、シリウス、そしてゼノヴィオス自身が、抗いがたい力で光の中に引きずり込まれていく。
「レガルド様ァァァッ!」
ミレーユの最後の叫びが、崩壊する聖域に虚しく響いた。
どれほどの時間が経ったのか。
ミレーユたちが意識を取り戻したのは、霧隠れ山脈の麓に近い、比較的安全な森の中だった。転移魔法の衝撃で、全員が地面に倒れ伏している。
「……ここは……?」
ミレーユが最初に身を起こし、周囲を見渡した。キルヴァンは気を失っており、シリウスもゼノヴィオスもぐったりとしているが、幸い命に別状はなさそうだ。
そして、彼女は息をのんだ。
霧隠れ山脈――かつて「古の龍の聖域」があったはずの場所は、その山頂部分がごっそりと抉り取られ、まるで巨大な隕石が落下したかのような、禍々しいクレーターへと変貌していたのだ。もうもうと黒い煙が立ち上り、焦げ付くような異臭が風に乗って運ばれてくる。
「終焉の黒龍」の圧倒的な気配は、不思議と消え失せているように感じられた。だが、代わりに、そこには言い知れぬ喪失感と、不気味なまでの静寂が広がっているだけだった。
レガルドの姿は、どこにもなかった。
彼の温かい炎も、力強い声も、もう感じられない。
ただ、クレーターの中心から、空に向かって一条の、細く、しかしどこまでも清浄な黄金色の光の柱が、まるで道しるべのように、静かに立ち昇っているのが見えた。
それは、まるで古代竜の魂が、最後の力を振り絞って何かを成し遂げた証のようにも、あるいは、いつか帰る場所を示す道標のようにも見えた。
ミレーユは、その光を見つめながら、ただ静かに涙を流し続けた。
「レガルド……様……」
「炎の一献」の店主、古代竜レガルド。彼の戦いは、本当に終わってしまったのだろうか。
そして、「終焉の黒龍」の脅威は、本当に去ったのだろうか。
答えは、まだ誰にも分からなかった。
0
あなたにおすすめの小説
無才能で孤独な王子は辺境の島で優雅なスローライフを送りたい〜愛され王子は愉快なもふもふと友達になる才能があったようです〜
k-ing /きんぐ★商業5作品
ファンタジー
2023/5/26 男性向けホトラン1位になりました!
読みやすくするために一話の文字数少なめです!
頭を空っぽにして読んで頂けると楽しめます笑
王族は英才教育によって才能を開花する。そんな王族に生まれたアドルは成人しても才能が開花しなかった。
そんなアドルには友達と言える人は誰もおらず、孤独な日々を送っていた。
ある日、王である父親に好きに生きるようにと、王族から追放される。
ただ、才能に気づいていないのは王のみだった。
地図で一番奥にある辺境の島から、王国に戻りながら旅をしたら才能に気づくだろう。
そんなつもりで旅をしたが、着いた島は地図上にない島だった。
そこには存在しないと思われるもふもふ達が住む島だった。
帰ることもできないアドルはもふもふ達と暮らすことを決意する。
あれ?
こいつらも少し頭がおかしいぞ?
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』
チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。
家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!?
主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる