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第32話 埃まみれの記録庫と、過去からの囁き
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冒険者ギルドの記録庫は……想像以上に、地味で、埃っぽくて、そして広かった。
天井まで届く書架には、古びた羊皮紙の巻物や、分厚い革表紙の記録簿がぎっしりと詰め込まれている。空気は乾燥し、紙とインク、そして長年積もったであろう埃の匂いがした。時折、小さな魔法光が浮遊して明かりを補っているが、それでも全体的に薄暗い。
「うへぇ……なんか、カビ臭い……」
リリアが、鼻をつまんで顔をしかめる。
「文句言うなよ。重要な手がかりが見つかるかもしれないんだから」
俺はそう言いながらも、目の前に広がる膨大な記録の山に、内心うんざりしていた。(諦めの境地とは……?)
エレノアさんの指示は、「過去の窃盗事件や、罠の多い遺跡での不可解な事件などを洗い出し、サイラスの手口(隠密行動、罠解除、痕跡を残さない)に似た未解決案件がないか探す」というもの。言うは易し、行うは難し、だ。
「よし、じゃあ分担しよ! 私はこっちの棚!」
リリアは、気合を入れ直したのか、早速手近な書架から巻物を引っ張り出し始めた。……が、数分後には。
「……うーん、これ、ただのゴブリン退治の報告書じゃん……。こっちは……迷子の猫探し? あ、これ面白いかも……」
「こら! 遊ぶな!」
俺は、関係ない記録を読みふけり始めたリリアの頭を軽く叩く。
一方、俺はというと。
(えーっと、『貴族邸宅への侵入窃盗、被害品:宝石多数、侵入経路不明、目撃者なし』……これ、ちょっと怪しいか? でも、罠とかの情報がないな……)
地道に、古文書と格闘していた。古い時代の文字や、独特の言い回しに苦戦しながらも、エレノアさんに教わったキーワード(隠密、罠、窃盗、未解決、痕跡なし…)を頼りに、関連しそうな記録を一つ一つ確認していく。途中、集中するために豆粒『光球』を出したら、リリアに「お、カイト、やるじゃん!」と無駄に褒められたりもした。
時間は、埃っぽさと単調さの中で、ゆっくりと過ぎていく。リリアは早々に飽きて、床で丸くなって居眠りを始めてしまった。……まあ、無理もないか。俺だって、正直、眠気と戦うのに必死だ。
(……やっぱり、そう簡単に見つかるわけないよな……。サイラスって奴、相当な手練れなんだろうし……)
諦めかけた、その時だった。
書架の奥の、忘れ去られたような一角で、ひときわ古びた革表紙の記録簿を見つけた。表紙には、『王都歴842年 事件記録』とだけ記されている。今から……何年前だ? かなり古い。
何気なくページをめくってみると、ある事件の報告書が目に留まった。
『事件概要:大商人ヨハンセン邸 地下宝物庫への侵入窃盗事件』
『被害品:秘蔵の魔導具『時の砂時計』(註:星屑ではない、別の古代遺物)』
『状況:宝物庫は何重もの物理的・魔法的罠で守られていたが、その全てが無力化、あるいは回避された形跡。侵入・脱出経路ともに不明。目撃者なし。犯人の遺留品、痕跡、一切なし』
『担当調査官所見:人間業とは思われぬ手口。あるいは、高度な魔法技術を持つ者、もしくは……「影」に属する者の犯行か? 捜査は難航、未解決』
(……これだ!)
俺は、思わず息を呑んだ。
被害品こそ違うが、手口が酷似している! 厳重な罠の突破、痕跡の完全消去……そして、報告書の最後に書かれた「影に属する者」という、意味深な記述。これは、まさしく『月影のギルド』、そして『サイラス』の仕事ではないだろうか!?
「リ、リリア! 起きろ! これ見てみろ!」
俺は、眠っているリリアを揺り起こし、記録簿の該当ページを見せる。
「ん……? なに……? ……え? これって……」
寝ぼけ眼だったリリアも、内容を読むうちに、次第に真剣な表情になっていく。
「……すごいじゃん、カイト! よく見つけたね!」
「ああ……古い記録だから、見落とされてたのかもしれない」
俺たちは、この古い事件記録の写しを取り(記録庫の管理人に許可をもらうのに少し手間取ったが)、他の記録も念のため一通り確認した後、埃まみれになって記録庫を後にした。
大きな手掛かりを掴んだ、という高揚感。
しかし同時に、何十年も前から、この街(あるいは近く)で『月影のギルド』が暗躍していたかもしれない、という事実に、背筋が少し寒くなるのを感じた。
(……サイラスって奴、一体何者なんだ……?)
俺たちは、見つけた記録の写しを手に、エレノアさんの待つ店へと急いだ。
彼女なら、この古い事件から、何か新たな情報を見つけ出してくれるかもしれない。
地道な調査が、ようやく実を結び始めた。
だが、それは同時に、俺たちが更に深く、危険な影の世界へと足を踏み入れたことを意味していた。
天井まで届く書架には、古びた羊皮紙の巻物や、分厚い革表紙の記録簿がぎっしりと詰め込まれている。空気は乾燥し、紙とインク、そして長年積もったであろう埃の匂いがした。時折、小さな魔法光が浮遊して明かりを補っているが、それでも全体的に薄暗い。
「うへぇ……なんか、カビ臭い……」
リリアが、鼻をつまんで顔をしかめる。
「文句言うなよ。重要な手がかりが見つかるかもしれないんだから」
俺はそう言いながらも、目の前に広がる膨大な記録の山に、内心うんざりしていた。(諦めの境地とは……?)
エレノアさんの指示は、「過去の窃盗事件や、罠の多い遺跡での不可解な事件などを洗い出し、サイラスの手口(隠密行動、罠解除、痕跡を残さない)に似た未解決案件がないか探す」というもの。言うは易し、行うは難し、だ。
「よし、じゃあ分担しよ! 私はこっちの棚!」
リリアは、気合を入れ直したのか、早速手近な書架から巻物を引っ張り出し始めた。……が、数分後には。
「……うーん、これ、ただのゴブリン退治の報告書じゃん……。こっちは……迷子の猫探し? あ、これ面白いかも……」
「こら! 遊ぶな!」
俺は、関係ない記録を読みふけり始めたリリアの頭を軽く叩く。
一方、俺はというと。
(えーっと、『貴族邸宅への侵入窃盗、被害品:宝石多数、侵入経路不明、目撃者なし』……これ、ちょっと怪しいか? でも、罠とかの情報がないな……)
地道に、古文書と格闘していた。古い時代の文字や、独特の言い回しに苦戦しながらも、エレノアさんに教わったキーワード(隠密、罠、窃盗、未解決、痕跡なし…)を頼りに、関連しそうな記録を一つ一つ確認していく。途中、集中するために豆粒『光球』を出したら、リリアに「お、カイト、やるじゃん!」と無駄に褒められたりもした。
時間は、埃っぽさと単調さの中で、ゆっくりと過ぎていく。リリアは早々に飽きて、床で丸くなって居眠りを始めてしまった。……まあ、無理もないか。俺だって、正直、眠気と戦うのに必死だ。
(……やっぱり、そう簡単に見つかるわけないよな……。サイラスって奴、相当な手練れなんだろうし……)
諦めかけた、その時だった。
書架の奥の、忘れ去られたような一角で、ひときわ古びた革表紙の記録簿を見つけた。表紙には、『王都歴842年 事件記録』とだけ記されている。今から……何年前だ? かなり古い。
何気なくページをめくってみると、ある事件の報告書が目に留まった。
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『被害品:秘蔵の魔導具『時の砂時計』(註:星屑ではない、別の古代遺物)』
『状況:宝物庫は何重もの物理的・魔法的罠で守られていたが、その全てが無力化、あるいは回避された形跡。侵入・脱出経路ともに不明。目撃者なし。犯人の遺留品、痕跡、一切なし』
『担当調査官所見:人間業とは思われぬ手口。あるいは、高度な魔法技術を持つ者、もしくは……「影」に属する者の犯行か? 捜査は難航、未解決』
(……これだ!)
俺は、思わず息を呑んだ。
被害品こそ違うが、手口が酷似している! 厳重な罠の突破、痕跡の完全消去……そして、報告書の最後に書かれた「影に属する者」という、意味深な記述。これは、まさしく『月影のギルド』、そして『サイラス』の仕事ではないだろうか!?
「リ、リリア! 起きろ! これ見てみろ!」
俺は、眠っているリリアを揺り起こし、記録簿の該当ページを見せる。
「ん……? なに……? ……え? これって……」
寝ぼけ眼だったリリアも、内容を読むうちに、次第に真剣な表情になっていく。
「……すごいじゃん、カイト! よく見つけたね!」
「ああ……古い記録だから、見落とされてたのかもしれない」
俺たちは、この古い事件記録の写しを取り(記録庫の管理人に許可をもらうのに少し手間取ったが)、他の記録も念のため一通り確認した後、埃まみれになって記録庫を後にした。
大きな手掛かりを掴んだ、という高揚感。
しかし同時に、何十年も前から、この街(あるいは近く)で『月影のギルド』が暗躍していたかもしれない、という事実に、背筋が少し寒くなるのを感じた。
(……サイラスって奴、一体何者なんだ……?)
俺たちは、見つけた記録の写しを手に、エレノアさんの待つ店へと急いだ。
彼女なら、この古い事件から、何か新たな情報を見つけ出してくれるかもしれない。
地道な調査が、ようやく実を結び始めた。
だが、それは同時に、俺たちが更に深く、危険な影の世界へと足を踏み入れたことを意味していた。
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