聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~

さかーん

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第39話 嵐の前の休息と、工房の灯り

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 エレノアさんによる『月影のギルド』のロックピック解析が始まってから、数日が過ぎた。
 その間、俺とリリアは、エレノアさんに言われた通り、「休息と準備」に努めていた。……まあ、半分は、だ。

 休息と言っても、俺の心は完全に休まっていたわけではない。数日後に、あの不気味な地下遺跡の通路へ、今度は調査のために足を踏み入れるのだ。相手はプロの暗殺者かもしれない。そう考えると、安宿のベッドの中でも、なかなか寝付けなかった。

 一方のリリアは、最初のうちは「退屈だー!」と騒いでいたが、エレノアさんに「来るべき時に備えて、体を鈍らせないように」と諭されてからは、妙に張り切って自主トレーニングに励んでいた。

「よっ! はっ! せいやっ!」
 店の裏庭で、リリアが汗だくになって剣を振るっている。その気迫は、普段以上かもしれない。俺も、それに付き合わされる形で、棍棒を構えて相手をすることになった。
「カイト、もっと本気で来いって! そのヘナチョコバリアじゃ、私の剣は止められないぞ!」
「無茶言うな! 本気でやったら、俺が死ぬわ!」
「大丈夫だって! 私がちゃんと手加減するから!」
 その手加減が一番信用できない……と思いつつも、俺は必死に応戦する。最近覚えた『障壁』も、リリアの猛攻の前には、相変わらず一瞬で砕け散る。……まあ、それでも、前よりはほんの少しだけ、マシになった……気がしないでもない。

 訓練の合間には、エレノアさんの店の簡単な手伝いをしたりもした。
 エレノアさん本人は、工房に籠もりきりで、難しい顔をしてロックピックや文献とにらめっこしている。時折、工房からパチパチという魔法の火花や、フラスコの沸騰する音、そしてエレノアさんの「むぅ……」とか「なるほど……」とかいう唸り声が聞こえてくる。邪魔しちゃ悪いと思い、俺たちはそっとしておくことにした。
(……エレノアさん、大丈夫かな。無理してないといいけど……)
 俺がそんなことを考えていると、隣で棚の整理をしていたリリアが、俺の心を読んだかのように言った。
「母さんなら大丈夫だよ。ああ見えて、ああいう研究とか始めると、寝食忘れて没頭するタイプだから」
「……詳しいんだな」
「まあね! 伊達に娘やってないって!」
 リリアは、少し得意げに笑った。……普段はガサツだけど、やっぱり母親のことはよく見ているんだな。

 そんな風に、比較的穏やかな(訓練はキツかったが)数日が過ぎていった。
 街での俺の悪評(?)も、少しは落ち着いた……かと思いきや、相変わらず遠巻きにヒソヒソされたり、妙な敬意(?)を払われたりすることはあったが、もう慣れた。諦めたのだ。

 そして、運命の日(というほど大げさではないかもしれないが)は、やってきた。
 その日の夕方、工房の扉が開き、少しやつれたような、しかしその目には確かな光を宿したエレノアさんが出てきたのだ。

「カイトさん、リリア。お待たせしましたわ」
 彼女の手には、あのロックピックと、数枚の羊皮紙が握られている。
「解析が、終わりました。そして……いくつか、重要なことが分かりましたわ」

 俺とリリアは、ゴクリと唾を飲み込み、エレノアさんの言葉を待つ。
 工房の奥から漂ってくる、複雑な魔法薬の匂いが、これから始まるであろう、新たな作戦の幕開けを告げているようだった。

 束の間の休息は終わりだ。
 いよいよ、俺たちは再び、あの地下遺跡の暗がりへ、そして『月影のギルド』の影へと足を踏み入れることになる。

(……よし)

 俺は、腹を括った。
 もう、怖がってばかりもいられない。エレノアさんやリリアを守るためにも……そして、この厄介な事件に、俺自身の手で決着をつける(手伝いをする)ためにも!

 俺は、決意を新たに、エレノアさんの次の言葉を待つのだった。
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