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第47話 秘薬の出自と、新たな探索
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「『月の雫』……隠密行動を可能にする、錬金術の秘薬……」
エレノアさんの書庫で、俺たちは改めてその事実を噛み締めていた。『月影のギルド』、そして『サイラス』が、いかにして痕跡も残さず、厳重な警備を突破してきたのか。その大きな要因の一つが、この秘薬にあったことは間違いないだろう。
「でも、母さん」
リリアが、疑問を口にする。
「その『月の雫』って、作るのがすごく難しいんでしょ? 材料も特殊みたいだし……。サイラスって奴、どうやって手に入れてるのかな?」
「それこそが、次の鍵ですわね」
エレオノラさんは、頷く。
「考えられる可能性はいくつかあります。一つは、『月影のギルド』自身が、高度な技術を持つ錬金術師を抱えている、あるいは組織内で製造している可能性」
「うわ……なんか、ヤバそう……」
リリアが顔をしかめる。確かに、暗殺ギルドがそんな技術まで持っていたら、手に負えなさすぎる。
「もう一つは、外部から調達している可能性。完成品を盗むか、あるいは材料を仕入れて、誰かに作らせているか……。あるいは、ギルドに協力している錬金術師が、この街か、あるいはどこか別の場所にいるのかもしれません」
エレオノラさんは、可能性を一つ一つ挙げていく。
「じゃあ、その秘薬の『出所』を探れば、サイラスやギルドに繋がるかもしれないってことですか?」
俺が尋ねると、エレオノラさんは「その通りですわ」と頷いた。
「幸い、先ほどの古文書には、材料についても記述がありましたわね。『月長石(げっちょうせき)の粉末』と、『夜陰草(やいんそう)の露』……」
彼女は、メモを取りながら言う。
「どちらも、産出場所が限られる、比較的希少な素材です。特に、夜陰草の露は、特定の条件下でしか採取できないとか……。これらの流通経路を調べれば、何か分かるかもしれませんわ」
「流通経路……ですか」
「ええ。これらの素材を大量に、あるいは継続的に入手している人物や組織がいれば、それは非常に怪しい、ということになります」
なるほど。秘薬そのものではなく、その「材料」を追う、というわけか。それなら、少しは現実的な調査かもしれない。
「よし、じゃあ、また手分けして調べようよ!」
リリアが、早速乗り気になる。前の地味な記録調査よりは、こっちの方が面白そうだと感じたのだろう。
「そうですわね。では、役割分担をしましょうか」
エレオノラさんが、再び指示を出す。
「わたくしは、錬金術師ギルドや、懇意にしている薬草商などに当たり、これらの素材の最近の取引記録や、扱いに長けた人物がいないか調べてみます」
「じゃあ、私は……?」
リリアが尋ねる。
「リリアには、冒険者ギルドで、これらの素材の採取依頼や、高額での買取依頼などが出ていないか、聞き込みをお願いできますか? もしかしたら、ギルドを通して材料を集めようとしている可能性もありますから」
「ふーん。まあ、それくらいなら……やってみる!」
「そして、カイトさん」
エレオノラさんが、俺を見る。……今度は、何だろう?
「あなたには、わたくしと一緒に来ていただきたい場所がありますの」
「えっ? 俺もですか?」
てっきり、またリリアと一緒か、あるいはお留守番だと思っていた俺は、少し驚いた。
「ええ。これから向かうのは、この街の『知の宝庫』……王立アカデミーの図書館ですわ。そこの特殊書庫になら、『月長石』の産出地質や、『夜陰草』の生態に関する、より詳細な記録が残されているかもしれません」
「王立アカデミー……って、あの貴族とかが行く、すごい学校ですか!?」
俺は、さらに驚く。そんな場所に、俺みたいな駆け出し冒険者が入っていいのだろうか?
「ふふ、大丈夫ですわ。わたくし、アカデミーには少しばかり『顔』が利きますから。それに……」
エレオノラさんは、俺を見て、意味深に微笑んだ。
「あなたのような『特異な存在』に関する記述も、もしかしたら見つかるかもしれませんし?」
またその話ですかーー!!
こうして、俺たちの新たな調査方針が決まった。
エレノラさんと俺は王立アカデミーの図書館へ。
リリアは冒険者ギルドと商人方面へ。
それぞれが、『月の雫』の材料である『月長石』と『夜陰草』の情報を追うことになった。
事件を当局に委ねたとはいえ、俺たちの奇妙な探求は、まだ終わってはいなかったのだ。
今度は、どんな騒動が待ち受けているのやら……。
俺は、王立アカデミーという、自分には縁遠い世界の響きに、少しばかりの緊張と、ほんのちょっぴりの好奇心(主にエレオノラさんのコネに対する)を感じながら、新たな調査へと臨むのだった。
エレノアさんの書庫で、俺たちは改めてその事実を噛み締めていた。『月影のギルド』、そして『サイラス』が、いかにして痕跡も残さず、厳重な警備を突破してきたのか。その大きな要因の一つが、この秘薬にあったことは間違いないだろう。
「でも、母さん」
リリアが、疑問を口にする。
「その『月の雫』って、作るのがすごく難しいんでしょ? 材料も特殊みたいだし……。サイラスって奴、どうやって手に入れてるのかな?」
「それこそが、次の鍵ですわね」
エレオノラさんは、頷く。
「考えられる可能性はいくつかあります。一つは、『月影のギルド』自身が、高度な技術を持つ錬金術師を抱えている、あるいは組織内で製造している可能性」
「うわ……なんか、ヤバそう……」
リリアが顔をしかめる。確かに、暗殺ギルドがそんな技術まで持っていたら、手に負えなさすぎる。
「もう一つは、外部から調達している可能性。完成品を盗むか、あるいは材料を仕入れて、誰かに作らせているか……。あるいは、ギルドに協力している錬金術師が、この街か、あるいはどこか別の場所にいるのかもしれません」
エレオノラさんは、可能性を一つ一つ挙げていく。
「じゃあ、その秘薬の『出所』を探れば、サイラスやギルドに繋がるかもしれないってことですか?」
俺が尋ねると、エレオノラさんは「その通りですわ」と頷いた。
「幸い、先ほどの古文書には、材料についても記述がありましたわね。『月長石(げっちょうせき)の粉末』と、『夜陰草(やいんそう)の露』……」
彼女は、メモを取りながら言う。
「どちらも、産出場所が限られる、比較的希少な素材です。特に、夜陰草の露は、特定の条件下でしか採取できないとか……。これらの流通経路を調べれば、何か分かるかもしれませんわ」
「流通経路……ですか」
「ええ。これらの素材を大量に、あるいは継続的に入手している人物や組織がいれば、それは非常に怪しい、ということになります」
なるほど。秘薬そのものではなく、その「材料」を追う、というわけか。それなら、少しは現実的な調査かもしれない。
「よし、じゃあ、また手分けして調べようよ!」
リリアが、早速乗り気になる。前の地味な記録調査よりは、こっちの方が面白そうだと感じたのだろう。
「そうですわね。では、役割分担をしましょうか」
エレオノラさんが、再び指示を出す。
「わたくしは、錬金術師ギルドや、懇意にしている薬草商などに当たり、これらの素材の最近の取引記録や、扱いに長けた人物がいないか調べてみます」
「じゃあ、私は……?」
リリアが尋ねる。
「リリアには、冒険者ギルドで、これらの素材の採取依頼や、高額での買取依頼などが出ていないか、聞き込みをお願いできますか? もしかしたら、ギルドを通して材料を集めようとしている可能性もありますから」
「ふーん。まあ、それくらいなら……やってみる!」
「そして、カイトさん」
エレオノラさんが、俺を見る。……今度は、何だろう?
「あなたには、わたくしと一緒に来ていただきたい場所がありますの」
「えっ? 俺もですか?」
てっきり、またリリアと一緒か、あるいはお留守番だと思っていた俺は、少し驚いた。
「ええ。これから向かうのは、この街の『知の宝庫』……王立アカデミーの図書館ですわ。そこの特殊書庫になら、『月長石』の産出地質や、『夜陰草』の生態に関する、より詳細な記録が残されているかもしれません」
「王立アカデミー……って、あの貴族とかが行く、すごい学校ですか!?」
俺は、さらに驚く。そんな場所に、俺みたいな駆け出し冒険者が入っていいのだろうか?
「ふふ、大丈夫ですわ。わたくし、アカデミーには少しばかり『顔』が利きますから。それに……」
エレオノラさんは、俺を見て、意味深に微笑んだ。
「あなたのような『特異な存在』に関する記述も、もしかしたら見つかるかもしれませんし?」
またその話ですかーー!!
こうして、俺たちの新たな調査方針が決まった。
エレノラさんと俺は王立アカデミーの図書館へ。
リリアは冒険者ギルドと商人方面へ。
それぞれが、『月の雫』の材料である『月長石』と『夜陰草』の情報を追うことになった。
事件を当局に委ねたとはいえ、俺たちの奇妙な探求は、まだ終わってはいなかったのだ。
今度は、どんな騒動が待ち受けているのやら……。
俺は、王立アカデミーという、自分には縁遠い世界の響きに、少しばかりの緊張と、ほんのちょっぴりの好奇心(主にエレオノラさんのコネに対する)を感じながら、新たな調査へと臨むのだった。
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