聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~

さかーん

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第51話 残された痕跡と、闇に響く音

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「……間違いありませんわ。この削り跡……つけられてから、まだ一日か二日といったところでしょう」
 エレノアさんが、廃坑道の壁に残された真新しい採掘痕を、厳しい表情で調べている。彼女が指先でそっと触れると、そこから微かな魔力の残滓が感じ取れるという。
「そして、この魔力の質……先日、あのアジトで感じた、隠蔽や探知妨害に使われていたものと同質ですわ。……やはり、『彼ら』がここに来ていた」

(一日か二日……って、めちゃくちゃ最近じゃないか!)
 俺は、ゴクリと唾を飲み込む。もしかしたら、俺たちがこうしている間にも、まだ近くに……?

「じゃあ、サイラスも……!?」
 リリアが、期待と緊張の入り混じった声で尋ねる。
「それは分かりません。サイラス本人が来たのか、あるいは別の構成員か……。ですが、彼らがここで『月長石』を採掘していたことは、ほぼ確実でしょう」
 エレオノラさんは、削り跡の周辺をさらに注意深く調べ始める。

 俺も、言われた通り『魔力感知の水晶』をかざしてみるが……やはり、エレオノラさんが言うような微弱な魔力の残滓までは感じ取れない。ただ、この場所だけ、他の場所よりも、水晶がほんの少しだけ……冷たく感じるような……? 気のせいかもしれないが。

「……カイト」
 リリアが、小声で俺の服の袖を引っ張った。
「ん? どうした?」
「あそこ……見て」
 リリアが指差すのは、採掘跡からさらに奥へと続く、別の坑道の入り口だった。その地面に……何か、引きずったような跡と、微かな足跡が残っているように見えた。

「……!」
 俺たち三人は、顔を見合わせる。この足跡は、かなり新しい。そして、明らかに、奥へと続いている!

「……追いますか?」
 俺は、震える声で尋ねてしまう。内心は「絶対やめよう!」と叫んでいたが。

「……追うしかないでしょ!」
 リリアが、決意を込めた目で言う。彼女も、さすがに状況の危険さは理解しているのだろう。だが、ここで引き返すという選択肢は、彼女の中にはないらしい。

 エレオノラさんは、しばらく黙って考え込んでいたが、やがて静かに頷いた。
「……ええ。ですが、これまで以上に慎重に。少しでも危険を感じたら、すぐに退却しますわよ。目的は、あくまで情報収集と痕跡の追跡。戦闘は避ける。よろしいですわね?」
「「はい!」」
(俺は、か細い声で……)

 俺たちは、改めて気配を消し、足跡を辿って、さらに坑道の奥深くへと足を踏み入れた。エレノラさんが先頭で魔法による探知を行い、リリアが物理的な警戒、俺は水晶を握りしめて後方支援(という名の最後尾)だ。

 坑道は、さらに狭く、暗くなっていく。壁からは絶えず水が染み出し、足元もぬかるんで歩きにくい。時折、遠くで魔物らしき鳴き声が聞こえ、そのたびに俺の心臓は跳ね上がるが、幸い、こちらへ近づいてくる様子はなかった。

(頼む……! 何も起こらないでくれ……!)
 俺は、ただただ祈るような気持ちで、前を進む二人の背中を追う。

 どれくらい進んだだろうか。
 エレオノラさんが、不意に足を止め、俺たちに「静かに」と手で合図した。

 俺たちも、その場で息を殺す。
 耳を澄ますと……聞こえる。

 ……カツン……コツン……。

 不規則な、硬いものがぶつかるような音。
 そして……微かにだが、人の話し声のようなものも……!?

(……!!)

 俺たちは、顔を見合わせる。間違いない。この先に、誰かいる!
 それも、おそらくは……俺たちが追っている、『月影のギルド』の者たち!

 エレノラさんが、俺たちに「伏せて」と合図する。俺たちは、近くの岩陰に身を隠し、音のする方へと、全神経を集中させる。

 音は、すぐそこの角を曲がった先から聞こえてくるようだ。
 会話の内容までは聞き取れないが、複数の人間がいるのは確かだろう。

(ど、どうする……!? このまま近づくのか!? それとも……!?)
 俺は、パニックになりそうな頭で、必死に考える。

 エレオノラさんは、静かに俺たちの様子を窺い、次の指示を待っている。
 リリアは、剣の柄を強く握りしめ、いつでも飛び出せるように身構えている。

 そして俺は……ただただ、心臓の音だけがうるさいくらいに鳴り響くのを感じていた。

 ついに、俺たちは、敵のすぐそばまで来てしまったのかもしれない。
 この角を曲がれば……そこには、一体何が待っているのだろうか?
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