異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん

文字の大きさ
55 / 97
第二部 新規開店

第55話 予期せぬトラブル

しおりを挟む
 コンテストは中盤に差し掛かり、会場の熱気は増すばかりだった。リュミエール・キッチンの屋台の前には、依然として長い行列ができている。一条輝の華麗なパフォーマンスと、芸術品のような料理は、多くの人々を魅了していた。

 一方、マカイ亭の屋台も、その温かい雰囲気と確かな味で、着実にファンを増やしていた。ボルシチやパフェを手に、笑顔で語り合う家族連れ。串焼きを頬張りながら「やっぱりこれだよな!」と頷き合う労働者たち。派手さはないが、そこには確かな「日常の幸せ」の光景があった。

 やがて、審査委員長であるオルロフ公爵一行が、試食のために両店の屋台を訪れた。

 まずリュミエール。一条は、これ以上ないほどの自信に満ちた笑顔で、自身のスペシャリテだという「七色に輝く海の幸のジュレ・魔導クリスタル添え」を差し出した。
 公爵はそれを静かに口に運び、しばし味わった後、言った。
「なるほど、実に華やかで、技術も確かだ。新しい時代の息吹を感じるな。だが……ふむ、少々、心が急(せ)いておるかな? 味に、君の焦りが見え隠れするようだ」
 一条の完璧な笑顔が、わずかに引きつった。

 次にマカイ亭。陽人は、深呼吸一つして、自慢の「じっくり煮込みボルシチ 魔界風」を差し出した。
 公爵は、その素朴な見た目のスープをゆっくりと口にする。そして、目を細め、深く頷いた。

「ふむ……。滋味深い。実に、深い味わいじゃ。特別な食材を使わずとも、これだけの味を引き出すか。君の真っ直ぐな人柄が、よく表れておるな」
 予想外の、しかし心のこもった評価に、陽人は胸が熱くなるのを感じた。リリアとギギも、隣で嬉しそうな顔をしている。

 審査員が去り、コンテストは佳境へ。投票締め切りの時刻が迫り、会場のボルテージは最高潮に達していた。陽人も一条も、最後の追い込みに全力を注ぐ。

 その、まさにその時だった。

「よし、串焼き、どんどん焼くぞ! 炭を追加して……って、なっ!?」
 陽人が串焼き用の炭の袋に手を入れると、指先にじっとりとした湿り気を感じた。慌てて中身を確認すると、そこにあるはずの乾いた炭は、どれも水を吸って重く、黒く変色していたのだ。これでは、火が起こせない。

「嘘だろ……!? なんで……!」
 陽人の顔からサッと血の気が引いた。メインの一つである串焼きが提供できないとなれば、致命的だ。

 そして、まるでタイミングを合わせたかのように、隣のリュミエールの屋台から、「バンッ!!」という鋭い破裂音と、火花が散る音が響いた!
「な、なんだと!? おい、どうした!」
 一条が自慢げに操作していた、炎を自在に操る最新の調理用魔道具が、突然制御不能に陥り、黒い煙を上げて停止してしまったのだ。

「な、なんだこれは! おい、誰の仕業だ! ふざけるなっ!!」
 完璧な計算が狂い、衆人環視の中で醜態を晒すことになった一条は、激昂して近くにいたスタッフを怒鳴りつけた。その顔には、焦りと屈辱がありありと浮かんでいる。

 二つの屋台を同時に襲った、絶体絶命のピンチ。会場は、「どうしたんだ?」「トラブルか?」とざわつき始めた。ボルドア子爵の手下が、混乱に紛れて仕掛けた陰湿な妨害工作が、見事に「成功」した瞬間だった。

「ど、どうしよう、シェフ! 串焼きが……!」リリアが青ざめて陽人に詰め寄る。
「も、もうお終いですぅ……呪いだ……きっと呪いですぅ……」ギギは完全にパニック状態だ。
 客席からは、「おい、マカイ亭! 串焼きまだかー?」「リュミエール、パフォーマンス終わりかよー?」という声が容赦なく飛んでくる。

 陽人は、目の前が真っ暗になりかけた。ここまで頑張ってきたのに、こんな形で……。

「し、シェフ……!」
 その時、震える声で陽人を呼んだのは、ギギだった。彼はリュックサックをごそごそと漁り、黒くて乾燥した、奇妙な形のキノコのようなものを取り出した。
「こ、これ……僕の故郷の……非常食で、燃料にもなる、乾燥キノコ……です。少、少量ですけど、火は……つくはず……」

 その言葉に、陽人はハッと顔を上げた。そうだ、諦めるのはまだ早い!
「ギギ、ナイスだ! それだ!」
 陽人の目に、再び闘志の火が灯る。
「串焼きは無理だが、このキノコ燃料と鉄板があれば……! よし、メニュー変更だ! 『マカイ亭特製・キノコと彩り野菜のホイル焼き・魔界バター風味』でいくぞ!」

「は、はいっ!」
「バルガス! このキノコに火をつけられるか!?」
「……任せろ」
 バルガスは、その巨大な手で乾燥キノコを受け取ると、特別な火打石(魔界製?)を取り出し、一気に高火力の火を熾(おこ)した。その安定した火力は、湿った炭など問題にならないほどだった。

 一方、隣のリュミエールでは、一条がまだ動揺から立ち直れずにいた。故障した魔道具を蹴り飛ばし、スタッフに当たり散らしている。
(くそっ、くそっ! なぜだ! 僕の完璧なプランが……! これじゃ、まるで……元の世界の時の、俺と……同じじゃないか……!)
 彼の脳裏に、過去の挫折の記憶が蘇る。

 だが、その時、必死に立て直しを図る隣のマカイ亭の姿と、自分の店の前で、心配そうに、しかし期待を込めてこちらを見つめる子供たちの顔が、彼の目に飛び込んできた。
(……ここで諦めて、どうする……!)
 一条は、ギリッと奥歯を噛み締めた。
「……原始的だろうが、関係ない! どんな状況でも、最高の料理を作り上げるのが、一流のシェフだ!」

 彼は故障した魔道具を脇に放り投げ、予備で用意していた古典的な炭火コンロの前に立った。しかし、最新魔道具に頼り切っていた彼は、基本的な炭火の扱いに戸惑ってしまう。

 その様子を見ていた陽人は、思わず舌打ちした。
「チッ……見てられねえな……」
 彼は、自分の屋台の準備で忙しい合間を縫って、一条の隣を通り過ぎる際に、ボソッと呟いた。
「おい、キラキラ王子。火加減はそうじゃない。もっと空気の通り道を考えろ。炭の置き方が下手なんだよ」
「なっ……!?」
 一条は驚いて陽人を振り返るが、陽人はもう自分の持ち場に戻っていた。一条は一瞬、屈辱に顔を歪めたが、陽人のアドバイスが的確であることに気づき、悔しさを噛み殺しながら炭の配置をやり直した。

 さらに、市場のマギルおばちゃんが「ほら、どっちも困ってるんだろ! これ使いな!」と、どこからか良質の炭を差し入れてくれたり、見かねた「モグラ穴」の冒険者たちが、両店の周りを固めて、さらなる妨害がないように見張ってくれたりした。

 予期せぬトラブルと、予期せぬ協力(?)。
 コンテスト会場は、異様な熱気に包まれていた。

 陽人も、一条も、持てる技術と、そして迸(ほとばし)る意地の全てを注ぎ込み、料理を完成させた。

 マカイ亭からは、アルミホイル(これも異世界の道具か?)に包まれ、熱々の湯気を立てる「キノコと彩り野菜のホイル焼き」。開けると、魔界キノコの芳醇な香りと、溶けた魔界バターの濃厚な香りがふわりと広がる。素朴だが、心と体が芯から温まるような、優しい味がした。

 リュミエールからは、派手さこそないものの、完璧な火加減で焼き上げられた「厳選鶏のグリル・焦がしバターソース」。素材の良さを最大限に引き出した、一条の確かな技術が光る一品。そこには、トラブルを乗り越えた彼の、わずかな悔しさと、それでも揺るがないプライドが滲み出ているようだった。

 料理を受け取った客たちは、ただ「美味しい」と言うだけではなかった。
「トラブルがあったのに、どっちも凄い!」
「諦めないでよく作ったな!」
「料理人の魂を見た気がするぜ!」
 その味だけでなく、困難を乗り越えて生み出された料理の背景にあるドラマに、多くの人々が感動し、惜しみない拍手を送っていた。

 審査員席のオルロフ公爵も、両者の料理を静かに味わい、そして、深く満足げに頷いていた。その表情は、単なる料理の評価を超えた、何か大きなものを見届けた者のそれのようだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」 「え?」 「は?」 「いせかい……?」 異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。 ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。 そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!? 異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。 時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。 目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』 半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。 そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。 伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。 信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。 少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。 ==== ※お気に入り、感想がありましたら励みになります ※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。 ※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります ※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります

長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ
ファンタジー
とある片田舎で貧困の末に殺された3きょうだい。 その3人が目覚めた先は日本語が通じてしまうのに魔物はいるわ魔法はあるわのファンタジー世界……そこで出会った首が取れるおねーさん事、アンドロイドのエキドナ・アルカーノと共に大陸で一番大きい鍛冶国家ウェイランドへ向かう。 魔物が生息する世界で生き抜こうと弥生は真司と文香を護るためギルドへと就職、エキドナもまた家族を探すという目的のために弥生と生活を共にしていた。 首尾よく仕事と家、仲間を得た弥生は別世界での生活に慣れていく、そんな中ウェイランド王城での見学イベントで不思議な男性に狙われてしまう。 訳も分からぬまま再び死ぬかと思われた時、新たな来訪者『神楽洞爺』に命を救われた。 そしてひょんなことからこの世界に実の両親が生存していることを知り、弥生は妹と弟を守りつつ、生活向上に全力で遊んでみたり、合流するために路銀稼ぎや体力づくり、なし崩し的に侵略者の撃退に奮闘する。 座敷童や女郎蜘蛛、古代の優しき竜。 全ての家族と仲間が集まる時、物語の始まりである弥生が選んだ道がこの世界の始まりでもあった。 ほのぼののんびり、時たまハードな弥生の家族探しの物語

元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「エレンはね、スレイがたくさん褒めてくれるから、ここに居ていいんだって思えたの」 ***  魔法はないが、神から授かる特殊な力――スキルが存在する世界。  王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。  しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。  解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。  ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。  しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。  スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。  何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……? 「今日は野菜の苗植えをします」 「おー!」 「めぇー!!」  友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。  そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。  子育て成長、お仕事ストーリー。  ここに爆誕!

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

処理中です...