異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん

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第一部 魔界専属料理人

第17話 新たなる試みと小さな騒動

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 翌日、陽人は早朝から厨房にこもり、新しい料理のアイデアを練っていた。前日、エリザと一緒に作った即席コラボ料理はまずまずの反応を得たが、彼女の疑念を払拭するには遠い道のりだろう。そこで、もう少し踏み込んだ“人間と魔族の融合”を感じさせるメニューを開発することにしたのだ。

「さて、どうまとめようかな……。魔族食材も種類が増えてきたし、人間界からのハーブや味噌っぽい発酵調味料もあるし……」

 陽人は紙にペンを走らせ、レシピ案を下書きする。煮込み、焼き物、揚げ物、パスタのような麺料理まで、考え出すとキリがない。幸い、旅の商会・クラウドがまめに食材を供給してくれるようになったおかげで、材料不足の心配はあまりない。

「問題は、誰が食べても美味しいと感じるか……だよな。魔族と人間の味覚のズレを、どうやって埋めるかが鍵だ」

 作戦会議さながらに唸っていると、厨房の扉がそっと開いた。顔を出したのは騎士団の青年だ。最近は陽人に協力的で、内心では魔王軍に対する先入観を和らげている様子がうかがえる。

「陽人、まだ起きてたのか? ちょっと話したいことがあって来たんだが……」

「おはよう。何かあった?」

 青年は眉をひそめ、声を低める。

「どうやら、大使殿の一部随員が、また勝手に城内を歩き回ってるらしい。先日問題になった“侍女”――エリザさんも、何やら動いているみたいだ」

「ああ……。彼女、結局“監視”って名目で俺に張り付くって言ってたけど、裏で動いてるってこと?」

「詳しくは分からない。ただ、大使殿の許可を得ずに独自行動を取ってるという噂がある。どうも、貴族や商人とは違う出自らしいし、正体を探るべきだって声もあるんだ」

 青年の話を聞きながら、陽人はエリザの冷たい視線と、料理に対して示すかすかな興味を思い出す。あの態度は単なる職務上の警戒だけではない気がするのだ。

「何か企んでるんだろうか……でも、彼女自身にも迷いがあるように見えるんだよな」

 陽人が呟くと、青年は複雑そうに首を振った。

「正直、分からない。少なくとも、あなたの料理には興味があるみたいだが……。その興味が好意によるものなのか、怪しい魔法や毒を疑っているだけなのか、判断がつかない。俺としては、あなたの身を守りたいんだけど、ここは魔王軍の城だから下手に動けないし……」

 陽人は紙に書かれたレシピ案を見つめ、決心したようにペンを置く。

「ありがとう、心配してくれて。俺も、エリザさんが何を考えてるのか確かめたい。そこで、新しい料理を一緒に試作する場を作ろうと思うんだけど、上手くいくかな……」

 青年は目を丸くする。

「まさか、また共同調理を持ちかけるのか? 昨日みたいに、さほど荒れないといいが……」

「うん、リスクはあるけど、彼女も今は『監視』を続けるしかない立場だし。厨房で一緒に作業してもらえれば、少なくとも怪しい動きは取りづらいでしょ。それに、料理を楽しんでもらえれば、彼女の本音に近づけるかもしれない」

 そんな陽人の提案に、青年は半信半疑ながらも、最後には苦笑して頷いた。

「了解。そっちがそういうなら、俺もなるべくサポートする。……正直、料理を通じて仲良くなるなんて、夢物語だと思ってたけど、あなたを見てると『ありかもしれない』って思えてくるよ」

 その言葉に、陽人はやや照れながら笑顔を返す。絶対的な自信はないが、料理を架け橋にするしか自分にはできないのだ。

 ---

 しかし、その裏側では別の“策”が進行していた。城の地下通路で、従来派の魔族たちが密やかな打ち合わせを始めている。

「……あの料理人、エリザとかいう人間の女とまた一緒に何かを作ろうとしているらしい。どうやら、人間と手を組んで新たな毒や呪術を開発している可能性が高いぞ」

 リーダー格の魔族が厳しい表情で言うと、周囲の古参兵らも低い声で唸る。かつて陽人の料理に心を動かされかけた者たちもいるが、強硬派は依然として「骨抜きにされる」という恐怖を捨てきれないようだ。

「魔王様や四天王の一部は、すでに完全に胃袋を掴まれた。いずれ我らも、あの料理人の言いなりになるかもしれん……」

「馬鹿な! そんなことがあってたまるか。戦士としての誇りを守るため、何としてもあの料理人を排除すべきだ」

 激しい意見交換が飛び交う中、誰かが疑わしげな声を上げる。

「しかし、一度あの料理を食べてしまうと……妙に忘れられんのだ。これが奴の狙いなのかもしれんが……」

「お前、それでも魔族か! 我らは不味い物を食ってこそ戦士なのだ!」

 もはや理屈もへったくれもない叫び声に、周囲は苦笑混じりに頷くしかない。美味い物を食べると気持ちが緩んでしまう――それが敵の罠だと考えれば、警戒するのも無理はない。

「とにかく、あの侍女エリザが何者か探りを入れる必要がある。もし奴らが手を組んで魔王軍を内部から崩壊させようとしているなら、早急に策を講じなければ……」

 重苦しい空気の中、従来派の会合は続いていく。正体不明のエリザと、底知れぬ魅力を持つ陽人の料理が組み合わされば、魔族の未来を左右しかねない――彼らはそう信じて疑わないのだ。

 ---

 数時間後、陽人はエリザに声をかけた。昼食を少し過ぎた頃合いで、厨房は比較的空いている。

「もしよかったら、また一緒に料理を作りませんか? 今日はいくつか新しいレシピを試してみたいんです」

 エリザは冷ややかな視線を向けながらも、返答に少し迷いが見えた。しかし、監視役として同行するのも仕事ならば、陽人の申し出は都合がいいのかもしれない。

「……わかりました。どうせ監視するのなら、手伝ったほうが効率がいいですからね」

 そんな言葉とは裏腹に、エリザの目はわずかに好奇心で輝いているように思えた。昨日もそうだったが、彼女は料理という行為自体に少なからず興味を示しているのだ。

「ありがとう。じゃあ、さっそく材料を用意するので、待っててもらえますか?」

 陽人は鍋やフライパンを取り揃え、魔族の助手たちに指示を飛ばす。あちこちから集めた野菜や肉、そして人間界の調味料も取り寄せ、さながら小さなフードフェスのような賑わいだ。

 ――その様子を物陰から見つめる数名の魔族がいたことに、陽人もエリザも気づいてはいなかった。彼らの視線には、警戒と疑念が入り混じっている。従来派の強硬派かもしれないし、あるいはエリザの動向を探る他の人間かもしれない。

 いずれにしても、陽人とエリザの“共同開発”は、大使一行と魔王軍の双方にとって看過できない出来事になりつつあった。

 次回、エリザとの共同作業で生まれる意外なレシピや、周囲の企みが複雑に絡み合い、物語はさらに波乱へと加速していく。陽人が夢見る“料理で世界をつなぐ”理想は、一筋縄ではいかない道のりの先にあるようだ……。

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