異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん

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第一部 魔界専属料理人

第35話 囁かれる陰謀と料理人の奮闘

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 優雅な調べが大広間を包む。晩餐会の開幕を告げるファンファーレが鳴り、招かれた貴族たちは席に着いて上品な会話を交わしていた。魔王ゼファーをはじめとする魔族幹部たちも特等席に案内され、互いにぎこちなく会釈し合う光景はまさに歴史的とも言える。

「いやはや、人間界の貴族が魔王に膝を向ける日が来るなんて……」

「あまり言うでない。俺たちも魔族に囲まれて内心ビクビクだ……」

 会場の各所でそんな囁きが聞こえ、陽人も厨房の裏からそれをちらりと感じ取る。メインディッシュを出し終え、いよいよデザートの仕上げに取り掛かる時間だ。

「よーし、最後は“異世界風・フルーツコンポート”だ! 魔界の果実を甘く煮詰めて、ちょっとだけ刺激を利かせたソースをかける。仕上げに角の飾りをあしらった糖菓子を乗せるんだ!」

 陽人が息を弾ませながら指示を飛ばすと、魔族助手たちが一斉に動く。すでに段取りはリハーサル済みで、あとはテンポよく盛り付けるだけ……のはずだ。

「兄貴、器はさっき追加した分と合わせて足りるかな?」「大丈夫、今揃えてきた! よし、間に合った……」

 ほっと胸をなでおろす陽人。だが、見渡せば王の宮廷料理人グラントもまた、華麗なスイーツを絶妙な速度で仕上げている。

「さすがだな……負けてられないぞ!」

 陽人は内心で闘志を燃やしつつ、角モチーフの飾りを一つひとつデザートに添える。甘美な果実の香りに、かすかなスパイスの刺激がアクセントになり、見た目も可愛らしくなってきた。

 ――しかし、その時、大広間のほうで小さなざわめきが起こったようだ。

「ん……? 何かあったのか?」

 騎士団の青年が警戒の目を光らせる。続けて厨房に飛び込んできた別の兵士が、小声で報告する。

「どうやら、人間側の過激派と見られる人物が何名か会場内に入り込んでいるようです。騎士団が目をつけてマークしてるんですが……今のところ、大きな動きはありません」

「やっぱり来たか……」

 陽人はぐっと拳を握り締める。さらに兵士は言いにくそうな顔で続けた。

「それだけじゃないんです。魔族の強硬派らしき連中も何人か姿を消してて……城外で確認したはずなのに、いつの間にか会場に潜り込んだかもしれないという話で……」

「うわあ、もう完全に火薬庫だ。みんな武装してたりしないですよね?」

 兵士は肩をすくめる。

「さすがに武器は隠し持っているかもしれませんが、騎士団が厳重にチェックしているので、大きなものは持ち込めないはず。でも、もし何か仕掛けるとしたら……会場が混雑している今が一番危険でしょう」

 騎士団の青年が険しい顔で兵士を送り出し、陽人は一気に不安が増す。デザートを出し終われば、とりあえず厨房での役割はひと段落だが、宴が無事終わる保証はどこにもないのだ。

「……料理は完成させるけど、もし何かあったら、僕も会場へ行きます。トラブルを止められるわけじゃないけど……少なくとも料理人として何か手はあるかもしれないから」

 陽人の決意に、騎士団の青年はやや呆れながらも笑って応じる。

「おまえ、どうやって止める気だ? また食わせて落ち着かせるのか?」

「……そ、それしかできないからなぁ」

 苦笑し合う二人。そんなやり取りを眺めていた魔族助手たちが「俺たちも行くぞ!」と意気込みを見せる。何しろ、自分たちが作ってきた料理を台無しにされるのは勘弁だ。

「よし、まずはデザートを完成させて配膳しよう。みんな、ラストスパートだ!」

 陽人が拍手をして鼓舞し、厨房はまるで嵐のような忙しさになる。湯気と香りが立ち昇り、一瞬そこだけが平和な宴のようだ。だが、その背後で展開される陰謀はすでに動き出している。

 大広間では、前菜とメインディッシュを堪能した客たちが、あちこちで感想を交わしていた。

「魔王軍の料理、なかなかいけるな……しかし、あの盛り付けはちょっと怖いわね」「いやいや、こんな美味い肉料理、初めて食べたぞ」「グラント様の方も負けてはいないが、陽人のソースには独特の衝撃がある」

 魔族幹部たちも自分たちの料理を味わいながら、意外そうに人間側の献立を評価している。そんな中、ゼファーがちらりと視線を走らせた先に、エリザの姿が見えた。

 彼女は人ごみをすり抜け、壁際へと向かう。そこにいるのは数人の貴族風の男たち……いや、どこか胡散臭い雰囲気が漂っている。

(何を企んでいる?)

 ゼファーは静かに立ち上がり、周囲の視線をかわしてその一角へ目をやる。エリザが男たちと何かを話しているようだが、その内容までは聞こえない。どうやら彼女の本当の狙いが、今夜の宴で明らかになるのか。

「魔王様? いかがなさいましたか?」

 隣にいた魔族幹部が怪訝な顔をするが、ゼファーは手で制して、様子を見ることを選ぶ。まだ直接動くべき時ではない。

(陽人の料理は順調だろう。あいつが必死に作り上げたこの宴……台無しにされては困るんだ)

 魔王としてのプライドと、陽人の心意気を尊重する意地が、ゼファーの胸に揺れ動いていた。

 そして、大広間にデザートが運ばれ始める。魔族×人間の混成ウェイターたちが、角モチーフの飾りを施した果実コンポートを順次テーブルへ並べていくと、場がさらに沸き立つ。

「な、なんだ、この愛らしい見た目は? 角がミニサイズで可愛いぞ」「甘い香りが……うわ、何だかスパイシーな匂いが混ざってる?」

 客たちが色とりどりの皿を前に目を輝かせる。陽人は厨房の裏口からこっそりその様子を窺い、ほっと肩をなで下ろす。

(よかった……間に合った。果たして味の評価はどうなるか……)

 しかし、次の瞬間、大広間の奥のほうで「きゃっ!」という悲鳴が上がったのが聞こえた。何かが割れたような音、甲高い声の怒号――一瞬にして会場のざわめきがピリつく空気に変わる。

(まずい……何か始まったぞ)

 騎士団の青年が慌てている。その視線の先は、、、

 次回、なにが大広間に繰り広げられているか?!
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