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第9話 祝宴と新たなる盤面
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ザルダ帝国との戦争は、ローデリア王国の勝利で幕を閉じた。
ヴァルハラ平原での奇跡的な勝利は、瞬く間に王国全土に伝わり、王都は数日間にわたって祝祭の熱気に包まれた。
その夜、ローデリア城の大広間では、盛大な祝賀会が開かれていた。
天井のシャンデリアは目もくらむほどに輝き、テーブルには見たこともないような御馳走が山と積まれている。楽団が奏でる陽気な音楽と、兵士たちの朗らかな笑い声が、少し前までこの国を覆っていた絶望を、嘘のように溶かしていく。
その中心にいたのは、言うまでもなくアキラたちだった。
「うめえ! アキラ、これ食ってみろよ! 七面鳥の丸焼きだぜ!」
タカシは、自分の顔ほどもある骨付き肉にかぶりつきながら、目を輝かせている。その姿は、戦場での猛々しさが嘘のように、年相応の食いしん坊な少年に戻っていた。
「アキラ様! こちらの果実酒も絶品にございます!」
「英雄殿! あの時のご指示、お見事でございました!」
兵士たちが、次から次へとアキラの元へやって来ては、尊敬の眼差しで酒や食べ物を勧めてくる。アキラは「様とか英雄とかやめろよな!」と照れながらも、満更でもない様子でその輪に応えていた。敗北の夜に流した涙が、彼を少しだけ大人にしていた。
輪から少し離れた場所では、レオンがヒトミに酌をしながら、低い声で話していた。
「…賢者ヒトミ様。此度の勝利、貴女様が彼を信じたおかげです。心より、感謝申し上げる」
「礼を言う相手が違うでしょう、剣士長。私はただ、予言の可能性に賭けただけよ」
ヒトミはすまし顔でワイングラスを傾ける。だがその耳は、兵士たちにもみくちゃにされているアキラの方を向いており、口元には、自分でも気づかないほどの、かすかな笑みが浮かんでいた。
やがて、広間の音楽が止み、王エドリアスが玉座から立ち上がった。あれほど虚ろだった彼の瞳には、今は確かな光が戻っている。
「皆、静粛に! 今宵は、我らが英雄に、相応の敬意を表したい!」
王の言葉と共に、兵士たちが道を空ける。アキラ、タカシ、ヒトミの三人は、玉座の前へと促された。
「異世界より来たりし勇者たちよ。君たちの知恵と勇気が、この国を救った。よって、神谷アキラには『王国付き大軍師』の、タカシには『王国遊撃騎士団長』の地位を与える! そして、予言を信じ、我らを導いた大賢者ヒトミ! 君こそが、この国の至宝だ!」
王の宣言に、広間は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
その中で、アキラは見ていた。広間の隅で、面白くなさそうに、しかし何も言えずに拍手をしているグラド男爵たちの姿を。彼らの顔には、もうアキラを馬鹿にする色はなかった。ただ、自分たちの理解を超えた力に対する、どうしようもない敗北感だけが浮かんでいた。
祝宴が落ち着いた頃。
アキラは、一人で城のバルコニーに出て、王都の夜景を眺めていた。きらめく街の灯りが、まるで宝石箱のようだ。
(本当に、守れてよかった…)
安堵のため息をついた、そのときだった。
「――なあ、アキラ」
「うわっ、なんだよタカシ。驚かすなよ」
「あのさ、最後のアイツ…ゼノが言ってたこと、気にならねえか?」
タカシの言葉に、アキラの表情が引き締まる。ヒトミとレオンも、いつの間にかバルコニーに集まっていた。
「『私を駒として使うプレイヤー』…か。確かに、ただの負け惜しみとは思えないな」とレオンが腕を組む。
アキラは、夜空を見上げながら言った。
「オレも、ずっと考えてたんだ。ゼノの戦い方は、まるでオレたちとは違うゲームのルールで動いてるみたいだった。オレたちの『カードゲーム』が、仲間とのコンボで強くなるなら、アイツの『ゲーム』は、盤面の外から、ルールそのものを書き換えるような…」
その時、今まで黙っていたヒトミが、静かに、しかし重々しく口を開いた。
「…その答えの、手がかりを見つけたかもしれないわ」
全員の視線が、ヒトミに集まる。
「この城の禁書庫で、一つの文献を見つけたの。『神々の遊戯盤』と呼ばれる、この世界の成り立ちについて書かれたものよ」
「神々の…遊戯盤?」
「ええ。それによれば、この世界は、遥か高次元に存在する『プレイヤー』たちによって、駒や盤面を創造され、遊ばれているという記述があった。そして、歴史上、幾度となく、私たちのように異世界から『駒』として召喚された者たちがいる、とも…」
ヒトミの言葉に、全員が息をのんだ。
「予言にあった『盤上の遊戯の覇者』というのは、その中の、ほんの一節に過ぎなかった。文献には、こうも書かれていたわ。『プレイヤーの中には、世界を救う者もいれば、ただ弄び、破壊する者もいる。そして、その頂点に立つ『グランドマスター』と呼ばれる存在は、世界そのものを、自らの娯楽のために作り変えることすら厭わない』、と」
ゼノは、ただの敵国の軍師ではなかった。彼もまた、誰かの駒。そして、その背後にいる『プレイヤー』は、ローデリアやザルダという国の存亡など、ゲームの些細なイベントの一つとしか考えていないのかもしれない。
とんでもない話だった。戦うべき相手は、国や軍隊ではなかったのだ。
この世界そのものを、自分たちの娯楽のために支配しようとする、神のような存在。
タカシがゴクリと唾を飲み込む。レオンは、厳しい顔で押し黙っている。
だが、アキラの瞳には、恐怖ではなく、かつてないほどの闘志の炎が燃え上がっていた。
それは、まだ見ぬ最強の対戦相手を前にした、無類のゲーマーとしての魂の輝きだった。
「……そうか」
アキラは、夜空の遥か彼方、そこにいるはずの「敵」を睨みつけるようにして、不敵に笑った。
「相手は、国や軍隊じゃない。この世界そのものを盤面にしてる、とんでもない『プレイヤー』…。面白い。やってやろうじゃないか。そんなヤツに、オレたちの世界を、好き勝手にさせてたまるかよ」
ローデリア王国を救った戦いは終わった。
だが、本当のゲームは、まだ始まったばかり。
アキラと仲間たちの、神に挑むための、新たな戦いが、今、静かに幕を開けた。
ーーーーー
次回、神との戦いに向けて準備を進める主人公たち。そこで遭遇した事実とは?
ヴァルハラ平原での奇跡的な勝利は、瞬く間に王国全土に伝わり、王都は数日間にわたって祝祭の熱気に包まれた。
その夜、ローデリア城の大広間では、盛大な祝賀会が開かれていた。
天井のシャンデリアは目もくらむほどに輝き、テーブルには見たこともないような御馳走が山と積まれている。楽団が奏でる陽気な音楽と、兵士たちの朗らかな笑い声が、少し前までこの国を覆っていた絶望を、嘘のように溶かしていく。
その中心にいたのは、言うまでもなくアキラたちだった。
「うめえ! アキラ、これ食ってみろよ! 七面鳥の丸焼きだぜ!」
タカシは、自分の顔ほどもある骨付き肉にかぶりつきながら、目を輝かせている。その姿は、戦場での猛々しさが嘘のように、年相応の食いしん坊な少年に戻っていた。
「アキラ様! こちらの果実酒も絶品にございます!」
「英雄殿! あの時のご指示、お見事でございました!」
兵士たちが、次から次へとアキラの元へやって来ては、尊敬の眼差しで酒や食べ物を勧めてくる。アキラは「様とか英雄とかやめろよな!」と照れながらも、満更でもない様子でその輪に応えていた。敗北の夜に流した涙が、彼を少しだけ大人にしていた。
輪から少し離れた場所では、レオンがヒトミに酌をしながら、低い声で話していた。
「…賢者ヒトミ様。此度の勝利、貴女様が彼を信じたおかげです。心より、感謝申し上げる」
「礼を言う相手が違うでしょう、剣士長。私はただ、予言の可能性に賭けただけよ」
ヒトミはすまし顔でワイングラスを傾ける。だがその耳は、兵士たちにもみくちゃにされているアキラの方を向いており、口元には、自分でも気づかないほどの、かすかな笑みが浮かんでいた。
やがて、広間の音楽が止み、王エドリアスが玉座から立ち上がった。あれほど虚ろだった彼の瞳には、今は確かな光が戻っている。
「皆、静粛に! 今宵は、我らが英雄に、相応の敬意を表したい!」
王の言葉と共に、兵士たちが道を空ける。アキラ、タカシ、ヒトミの三人は、玉座の前へと促された。
「異世界より来たりし勇者たちよ。君たちの知恵と勇気が、この国を救った。よって、神谷アキラには『王国付き大軍師』の、タカシには『王国遊撃騎士団長』の地位を与える! そして、予言を信じ、我らを導いた大賢者ヒトミ! 君こそが、この国の至宝だ!」
王の宣言に、広間は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
その中で、アキラは見ていた。広間の隅で、面白くなさそうに、しかし何も言えずに拍手をしているグラド男爵たちの姿を。彼らの顔には、もうアキラを馬鹿にする色はなかった。ただ、自分たちの理解を超えた力に対する、どうしようもない敗北感だけが浮かんでいた。
祝宴が落ち着いた頃。
アキラは、一人で城のバルコニーに出て、王都の夜景を眺めていた。きらめく街の灯りが、まるで宝石箱のようだ。
(本当に、守れてよかった…)
安堵のため息をついた、そのときだった。
「――なあ、アキラ」
「うわっ、なんだよタカシ。驚かすなよ」
「あのさ、最後のアイツ…ゼノが言ってたこと、気にならねえか?」
タカシの言葉に、アキラの表情が引き締まる。ヒトミとレオンも、いつの間にかバルコニーに集まっていた。
「『私を駒として使うプレイヤー』…か。確かに、ただの負け惜しみとは思えないな」とレオンが腕を組む。
アキラは、夜空を見上げながら言った。
「オレも、ずっと考えてたんだ。ゼノの戦い方は、まるでオレたちとは違うゲームのルールで動いてるみたいだった。オレたちの『カードゲーム』が、仲間とのコンボで強くなるなら、アイツの『ゲーム』は、盤面の外から、ルールそのものを書き換えるような…」
その時、今まで黙っていたヒトミが、静かに、しかし重々しく口を開いた。
「…その答えの、手がかりを見つけたかもしれないわ」
全員の視線が、ヒトミに集まる。
「この城の禁書庫で、一つの文献を見つけたの。『神々の遊戯盤』と呼ばれる、この世界の成り立ちについて書かれたものよ」
「神々の…遊戯盤?」
「ええ。それによれば、この世界は、遥か高次元に存在する『プレイヤー』たちによって、駒や盤面を創造され、遊ばれているという記述があった。そして、歴史上、幾度となく、私たちのように異世界から『駒』として召喚された者たちがいる、とも…」
ヒトミの言葉に、全員が息をのんだ。
「予言にあった『盤上の遊戯の覇者』というのは、その中の、ほんの一節に過ぎなかった。文献には、こうも書かれていたわ。『プレイヤーの中には、世界を救う者もいれば、ただ弄び、破壊する者もいる。そして、その頂点に立つ『グランドマスター』と呼ばれる存在は、世界そのものを、自らの娯楽のために作り変えることすら厭わない』、と」
ゼノは、ただの敵国の軍師ではなかった。彼もまた、誰かの駒。そして、その背後にいる『プレイヤー』は、ローデリアやザルダという国の存亡など、ゲームの些細なイベントの一つとしか考えていないのかもしれない。
とんでもない話だった。戦うべき相手は、国や軍隊ではなかったのだ。
この世界そのものを、自分たちの娯楽のために支配しようとする、神のような存在。
タカシがゴクリと唾を飲み込む。レオンは、厳しい顔で押し黙っている。
だが、アキラの瞳には、恐怖ではなく、かつてないほどの闘志の炎が燃え上がっていた。
それは、まだ見ぬ最強の対戦相手を前にした、無類のゲーマーとしての魂の輝きだった。
「……そうか」
アキラは、夜空の遥か彼方、そこにいるはずの「敵」を睨みつけるようにして、不敵に笑った。
「相手は、国や軍隊じゃない。この世界そのものを盤面にしてる、とんでもない『プレイヤー』…。面白い。やってやろうじゃないか。そんなヤツに、オレたちの世界を、好き勝手にさせてたまるかよ」
ローデリア王国を救った戦いは終わった。
だが、本当のゲームは、まだ始まったばかり。
アキラと仲間たちの、神に挑むための、新たな戦いが、今、静かに幕を開けた。
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※小説家になろう様にも掲載しています。
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