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第43話 心なき好敵手と、魂の共鳴
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ゴーン…と、先ほどタカシが鳴らした、時計塔の鐘の残響が、静かに、消えていった。
その静寂を破ったのは、ゼノだった。
いや、ゼノの姿をした、神の人形だった。
その動きは、かつてアキラが戦った、あの人間らしい、思考の「間」を持つゼノではなかった。
完璧に、効率化され、最適化された、ただ、敵を排除するためだけの、冷たい機械の動き。
「――来るぞ!」
アキラが叫んだ瞬間、ゼノの姿が、消えた。
次の瞬間には、タカシの背後に回り込み、その首筋に、結晶の刃を、寸分の狂いもなく、振り下ろしていた。
ガキン!
タカシが、咄嗟に、背中の『真実の盾』で、その一撃を受け止める。だが、そのあまりの速さと、重さに、タカシの体は、大きく、よろめいた。
「速え…! あの野郎、前より、ずっと…!」
「無駄口を叩くな、タカシ!」
アキラが叫び、指示を飛ばす。
「ヒトミ、援護を! ヤツの足を止めろ!」
「ええ!」
ヒトミの魔力が、まだ完全ではない体から、振り絞られる。地面から、無数の、岩の槍が突き出し、ゼノの動きを封じようとする。
だが、ゼノは、その全てを、まるで、最初から、そこに出現することが、分かっていたかのように、最小限の動きで、ひらり、ひらりと、かわしていく。
(…読まれてる!)
アキラは、戦慄した。
(ジェスターの野郎が集めた、オレたちの戦闘データ…! こいつの頭脳に、全部、インプットされてやがるんだ!)
タカシの攻撃パターン、ヒトミの魔法の癖、そして、アキラの、戦略の、思考の、その全てを。
今のゼノは、アキラたちの全てを知り尽くした、完璧な、対策プログラム(アンチ・プログラム)と化していた。
防戦一方。
じりじりと、三人は、追い詰められていく。
タカシの鎧が、砕け、ヒトミの魔力が、尽きかけていく。
そして、ついに、ゼノの刃が、アキラの、喉元へと、突きつけられた。
(…ここまで、か)
アキラの脳裏に、敗北の二文字が、浮かんだ、その刹那。
彼は、最後の切り札を使った。
「――『リターン・ワン』!!」
時を歪める砂時計が、輝く。
世界が、一瞬、モノクロームに反転し、三秒前の、世界へと、巻き戻った。
ゼノの刃は、まだ、アキラに届いていない。ほんの、数秒。だが、それは、盤面をひっくり返すには、十分すぎるほどの、「時間」だった。
「…ありがとうよ、ゼノ」アキラは、心の中で、つぶやいた。「お前との戦いを、思い出させてもらったぜ」
アキラは、ゼノの瞳の奥、アインの冷たい光の、さらに、その奥にある、ものを見た。『真実の盾』を通して、彼には、見えていたのだ。
消えかけている、しかし、まだ、確かに、そこに在る、ゼノ自身の、誇り高き、プレイヤーとしての、魂の残光が。
「――この戦い、オレたちの勝ちだ!」
アキラは、叫んだ。
「タカシ! 防御は捨てろ! 次の一撃に、お前の、全パワーを叩き込め! オレたちごと、こいつを、吹き飛ばすつもりでだ!」
「…! 正気か、アキラ!?」
「いいから、やれ! オレを信じろ!」
タカシは、一瞬、ためらった。だが、アキラの、その真剣な瞳を見て、覚悟を決めた。
「…分かった! お前の言う通りにしてやる!」
「ヒトミ!」アキラは、叫び続ける。「『共鳴のホルン』だ! お前の、ありったけの想いを、音に乗せろ! 平和とか、希望とか、そんな、綺麗なもんじゃねえ! この、理不尽な盤面への怒り! 仲間を傷つけられた、悔しさ! そして、それでも、勝ちたいっていう、オレたちの、魂の叫びをだ!」
ヒトミは、こくりと頷くと、ホルンを、強く、握りしめた。
「――うおおおおおおおお!」
タカシが、獣のような咆哮を上げ、ゼノに向かって、特攻する。それは、もはや、技ではない。ただ、巨大な、力の塊だった。
ゼノは、その、あまりに無謀な、しかし、捨て身の一撃を、完璧に、予測し、そして、完璧に、迎え撃とうとした。
全ての思考が、タカシの一点に、集中する。
その、一瞬の隙。
ヒトミが、ホルンを、吹いた。
―――ポオオオオオオオオオオオオオオッ!
それは、祈りの音色ではなかった。
それは、三人の、怒りと、悔しさと、そして、それでも、決して折れない、闘争本能そのものが、具現化した、魂の、雄叫びだった。
その、あまりにも、人間的で、熱い響きが、ゼノの、完璧な論理回路に、致命的な『バグ』を生じさせた。
ゼノの体の、青い光が、激しく、明滅する。
そして、その瞳に、一瞬だけ、かつての、黒の軍師としての、理知的な光が、戻った。
「……!」
彼は、全てを、理解した。
自分が、何者で、何をさせられていたのか。
そして、目の前にいる、好敵手が、何をしようとしているのかを。
ゼノは、最後の、プレイヤーとして、自らの、意思で、動いた。
彼は、タカシの、捨て身の攻撃を、かわすでもなく、受けるでもなく、その勢いを、利用して、自らの体を、回転させた。
そして、その勢いのまま、背後にある、巨大な、青い、呪いの大元である、水晶の心臓に向かって、自らの、結晶の刃を、突き立てた。
ガシャアアアアアアン!
「――チェックメイトだ、小僧」
ゼノは、アキラを見て、確かに、そう、笑った。
それは、かつて、アキラが、何度も、夢にまで見た、好敵手の、不敵な笑みだった。
次の瞬間、水晶の心臓が、内部から、崩壊を始めた。
塔全体が、激しく、揺れる。
「ゼノ!」
アキラが叫ぶ。
だが、ゼノの体は、その役目を終えたかのように、足元から、さらさらと、青い光の塵となって、崩れていった。
そして、跡形もなく、消えた。
直後、巨大な、浄化の光の波が、塔全体を、包み込んだ。
アキラは、咄嗟に、『真実の盾』を構え、仲間たちを、その衝撃から、守った。
やがて、光が、収まった時。
そこには、もう、禍々しい、結晶の塔は、存在しなかった。
天井は崩れ落ち、そこから、ニョームガルデの、美しい、夕暮れの空が、見えていた。
呪いは、解かれた。
だが、そこに、勝利を喜ぶ声は、なかった。
あまりにも、大きな、そして、あまりにも、悲しい、犠牲の上にある、勝利だった。
アキラは、ゼノが消えた場所に、静かに、手を合わせた。
そして、心の中で、誓った。
(――見てろよ、アイン。お前の、そのふざけたゲーム盤。オレが、必ず、ひっくり返してやる)
神との戦いは、今、ただの、世界の存亡をかけた戦いから、友の、そして、好敵手の、弔い合戦へと、その意味を、変えたのだった。
その静寂を破ったのは、ゼノだった。
いや、ゼノの姿をした、神の人形だった。
その動きは、かつてアキラが戦った、あの人間らしい、思考の「間」を持つゼノではなかった。
完璧に、効率化され、最適化された、ただ、敵を排除するためだけの、冷たい機械の動き。
「――来るぞ!」
アキラが叫んだ瞬間、ゼノの姿が、消えた。
次の瞬間には、タカシの背後に回り込み、その首筋に、結晶の刃を、寸分の狂いもなく、振り下ろしていた。
ガキン!
タカシが、咄嗟に、背中の『真実の盾』で、その一撃を受け止める。だが、そのあまりの速さと、重さに、タカシの体は、大きく、よろめいた。
「速え…! あの野郎、前より、ずっと…!」
「無駄口を叩くな、タカシ!」
アキラが叫び、指示を飛ばす。
「ヒトミ、援護を! ヤツの足を止めろ!」
「ええ!」
ヒトミの魔力が、まだ完全ではない体から、振り絞られる。地面から、無数の、岩の槍が突き出し、ゼノの動きを封じようとする。
だが、ゼノは、その全てを、まるで、最初から、そこに出現することが、分かっていたかのように、最小限の動きで、ひらり、ひらりと、かわしていく。
(…読まれてる!)
アキラは、戦慄した。
(ジェスターの野郎が集めた、オレたちの戦闘データ…! こいつの頭脳に、全部、インプットされてやがるんだ!)
タカシの攻撃パターン、ヒトミの魔法の癖、そして、アキラの、戦略の、思考の、その全てを。
今のゼノは、アキラたちの全てを知り尽くした、完璧な、対策プログラム(アンチ・プログラム)と化していた。
防戦一方。
じりじりと、三人は、追い詰められていく。
タカシの鎧が、砕け、ヒトミの魔力が、尽きかけていく。
そして、ついに、ゼノの刃が、アキラの、喉元へと、突きつけられた。
(…ここまで、か)
アキラの脳裏に、敗北の二文字が、浮かんだ、その刹那。
彼は、最後の切り札を使った。
「――『リターン・ワン』!!」
時を歪める砂時計が、輝く。
世界が、一瞬、モノクロームに反転し、三秒前の、世界へと、巻き戻った。
ゼノの刃は、まだ、アキラに届いていない。ほんの、数秒。だが、それは、盤面をひっくり返すには、十分すぎるほどの、「時間」だった。
「…ありがとうよ、ゼノ」アキラは、心の中で、つぶやいた。「お前との戦いを、思い出させてもらったぜ」
アキラは、ゼノの瞳の奥、アインの冷たい光の、さらに、その奥にある、ものを見た。『真実の盾』を通して、彼には、見えていたのだ。
消えかけている、しかし、まだ、確かに、そこに在る、ゼノ自身の、誇り高き、プレイヤーとしての、魂の残光が。
「――この戦い、オレたちの勝ちだ!」
アキラは、叫んだ。
「タカシ! 防御は捨てろ! 次の一撃に、お前の、全パワーを叩き込め! オレたちごと、こいつを、吹き飛ばすつもりでだ!」
「…! 正気か、アキラ!?」
「いいから、やれ! オレを信じろ!」
タカシは、一瞬、ためらった。だが、アキラの、その真剣な瞳を見て、覚悟を決めた。
「…分かった! お前の言う通りにしてやる!」
「ヒトミ!」アキラは、叫び続ける。「『共鳴のホルン』だ! お前の、ありったけの想いを、音に乗せろ! 平和とか、希望とか、そんな、綺麗なもんじゃねえ! この、理不尽な盤面への怒り! 仲間を傷つけられた、悔しさ! そして、それでも、勝ちたいっていう、オレたちの、魂の叫びをだ!」
ヒトミは、こくりと頷くと、ホルンを、強く、握りしめた。
「――うおおおおおおおお!」
タカシが、獣のような咆哮を上げ、ゼノに向かって、特攻する。それは、もはや、技ではない。ただ、巨大な、力の塊だった。
ゼノは、その、あまりに無謀な、しかし、捨て身の一撃を、完璧に、予測し、そして、完璧に、迎え撃とうとした。
全ての思考が、タカシの一点に、集中する。
その、一瞬の隙。
ヒトミが、ホルンを、吹いた。
―――ポオオオオオオオオオオオオオオッ!
それは、祈りの音色ではなかった。
それは、三人の、怒りと、悔しさと、そして、それでも、決して折れない、闘争本能そのものが、具現化した、魂の、雄叫びだった。
その、あまりにも、人間的で、熱い響きが、ゼノの、完璧な論理回路に、致命的な『バグ』を生じさせた。
ゼノの体の、青い光が、激しく、明滅する。
そして、その瞳に、一瞬だけ、かつての、黒の軍師としての、理知的な光が、戻った。
「……!」
彼は、全てを、理解した。
自分が、何者で、何をさせられていたのか。
そして、目の前にいる、好敵手が、何をしようとしているのかを。
ゼノは、最後の、プレイヤーとして、自らの、意思で、動いた。
彼は、タカシの、捨て身の攻撃を、かわすでもなく、受けるでもなく、その勢いを、利用して、自らの体を、回転させた。
そして、その勢いのまま、背後にある、巨大な、青い、呪いの大元である、水晶の心臓に向かって、自らの、結晶の刃を、突き立てた。
ガシャアアアアアアン!
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それは、かつて、アキラが、何度も、夢にまで見た、好敵手の、不敵な笑みだった。
次の瞬間、水晶の心臓が、内部から、崩壊を始めた。
塔全体が、激しく、揺れる。
「ゼノ!」
アキラが叫ぶ。
だが、ゼノの体は、その役目を終えたかのように、足元から、さらさらと、青い光の塵となって、崩れていった。
そして、跡形もなく、消えた。
直後、巨大な、浄化の光の波が、塔全体を、包み込んだ。
アキラは、咄嗟に、『真実の盾』を構え、仲間たちを、その衝撃から、守った。
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アキラは、ゼノが消えた場所に、静かに、手を合わせた。
そして、心の中で、誓った。
(――見てろよ、アイン。お前の、そのふざけたゲーム盤。オレが、必ず、ひっくり返してやる)
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※小説家になろう様にも掲載しています。
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