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第44話 雨降りの心と、固まる大地
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ニョームガルデでの戦いは、終わった。
街のシステムは、技師たちの手によって、急速に復旧へと向かっている。三人は、街の賓客として、豪華な一室を与えられた。テーブルの上には、手に入れたばかりの『時を歪める砂時計』が、静かな光を放っている。
だが、部屋の空気は、鉛のように、重かった。
タカシも、ヒトミも、口を開かない。
アキラは、そんな二人を気にするでもなく、部屋に運び込まれた、最新の世界地図を広げ、次の目的地を、冷徹な目で、指し示していた。
「…傷が癒え次第、すぐに出発する。次なる神器は、『巨獣の揺りかご』にある。休息は、不要だ」
その、あまりに、ビジネスライクで、感情のない声に、タカシが、初めて、低い声で、反論した。
「…おい、アキラ」
「なんだ」
「お前、さっきから、何なんだよ。ゼノが、死んだんだぞ。オレたちの、目の前で。なのに、お前は…」
「それが、どうした?」
アキラは、地図から目を離さずに、言い放った。
「彼は、プレイヤーとして、最善の一手を打った。オレも、プレイヤーとして、それを利用した。結果、オレたちは勝ち、呪いは解かれた。それ以上でも、それ以下でもない。感傷に浸っている、時間はない」
その言葉に、タカシの中で、何かが、切れた。
彼は、アキラの胸ぐらを、掴み上げた。
「―――感傷だと!?」
タカシの、怒りに震える声が、部屋に響く。
「あれは、ただの駒じゃねえ! 人間が、死んだんだぞ! なのに、お前は、なんだ! まるで、ゲームの駒が一つ、盤面から消えただけみてえに! お前の心は、いつから、あの鉄クズ人形と、同じになっちまったんだよ!」
「やめなさい、タカシ!」ヒトミが、悲痛な声で、止めに入る。
だが、アキラは、そんなタカシを、冷たい目で見返した。
「ああ、そうだよ。オレは、プレイヤーだ。この、クソみたいな世界の、たった一人の、な。盤面を動かすためには、時に、駒の犠牲も、厭わない。それが、勝利への、最短ルートだ」
「…なんだと…?」
「言ったはずだ。『リターン・ワン』は、究極の戦略兵器だってな。一手、間違えたら、巻き戻せばいい。一手、足りなきゃ、何かを犠牲にすればいい。それだけのことだ」
「―――じゃあ!」
タカシの目から、涙が、こぼれた。
「オレや、ヒトミもか!? オレたちも、お前の『駒』なのかよ! いつか、お前にとって、都合のいい『犠牲』になったら、そん時は、『リターン・ワン』で、巻き戻して、また、オレたちを、死なせんのかよ!」
それは、タカシの、心の底からの、叫びだった。
その言葉は、アキラの、硬い、理論武装の鎧を、貫いた。
アキラの顔が、苦痛に、歪む。
「―――うるさい!」
アキラは、タカシを、突き飛ばした。
だが、その声は、震えていた。
「分かってるもんか! お前らに、オレの気持ちが、分かってたまるか! あの時、ゼノが、オレを見て、笑ったんだぞ! 『チェックメイトだ』って! まるで、オレに、自分の命を、最高の駒として、使えって、言ってるみたいに!」
アキラは、その場に、崩れ落ちた。
完璧なプレイヤーの仮面は、剥がれ落ち、そこには、ただ、友の死の重さに、押しつぶされそうになっている、一人の、泣きそうな少年が、いただけだった。
「…怖かったんだよ…」
アキラの声は、もう、か細い、囁きにしか、なっていなかった。
「ゼノみたいに、強くならなきゃって…。アインみたいに、冷徹にならなきゃって…。そうでもしなきゃ、この先、また、誰かが、死んじまうって…。お前らまで、失っちまうって…! そう思ったら、もう、どうすればいいか、分かんなくて…!」
アキラは、子供のように、声を殺して、泣いていた。
それを見て、タカシの怒りは、一瞬で、消え去った。
彼は、アキラの隣に、どかっと、座り込むと、その背中を、不器用に、しかし、優しく、さすった。
「…バーカ。一人で、全部、背負ってんじゃねえよ」
タカシの声も、涙で、濡れていた。
「オレたちは、駒なんかじゃねえ。お前の、仲間だろ。デッキだろ。だったら、辛いことも、怖いことも、ぜーんぶ、三人で、分けっこすりゃ、いいじゃねえか」
ヒトミも、静かに、アキラの隣に、膝をついた。そして、その冷たくなった手を、自分の両手で、そっと、包み込んだ。
「そうよ、アキラ。あなたの強さは、神のように、冷徹なことじゃないわ。こんなにも、人のために、心を痛めて、泣けること。それこそが、アインには、決して、真似できない、あなたの、本当の、強さよ」
三人は、言葉もなく、ただ、互いの存在を、確かめるように、そこに、うずくまっていた。
嵐のような、喧嘩。
雨のように、流した、涙。
そして、その雨に、打たれた、三人の、絆という名の大地は、以前よりも、ずっと、強く、固く、なっていた。
翌朝。
部屋の空気は、澄み渡っていた。
アキラは、仲間たちの前で、地図を広げた。その顔には、もう、迷いはない。
「…二人とも、すまんかった。そして、ありがとう」
彼は、深く、頭を下げた。
「…もう、一人で、突っ走るのは、やめだ。―――聞いてくれるか? オレたちの、次の、一手」
その声は、もう、孤独なプレイヤーのものではなかった。
仲間を信じ、仲間に信じられる、本当のリーダーの声だった。
街のシステムは、技師たちの手によって、急速に復旧へと向かっている。三人は、街の賓客として、豪華な一室を与えられた。テーブルの上には、手に入れたばかりの『時を歪める砂時計』が、静かな光を放っている。
だが、部屋の空気は、鉛のように、重かった。
タカシも、ヒトミも、口を開かない。
アキラは、そんな二人を気にするでもなく、部屋に運び込まれた、最新の世界地図を広げ、次の目的地を、冷徹な目で、指し示していた。
「…傷が癒え次第、すぐに出発する。次なる神器は、『巨獣の揺りかご』にある。休息は、不要だ」
その、あまりに、ビジネスライクで、感情のない声に、タカシが、初めて、低い声で、反論した。
「…おい、アキラ」
「なんだ」
「お前、さっきから、何なんだよ。ゼノが、死んだんだぞ。オレたちの、目の前で。なのに、お前は…」
「それが、どうした?」
アキラは、地図から目を離さずに、言い放った。
「彼は、プレイヤーとして、最善の一手を打った。オレも、プレイヤーとして、それを利用した。結果、オレたちは勝ち、呪いは解かれた。それ以上でも、それ以下でもない。感傷に浸っている、時間はない」
その言葉に、タカシの中で、何かが、切れた。
彼は、アキラの胸ぐらを、掴み上げた。
「―――感傷だと!?」
タカシの、怒りに震える声が、部屋に響く。
「あれは、ただの駒じゃねえ! 人間が、死んだんだぞ! なのに、お前は、なんだ! まるで、ゲームの駒が一つ、盤面から消えただけみてえに! お前の心は、いつから、あの鉄クズ人形と、同じになっちまったんだよ!」
「やめなさい、タカシ!」ヒトミが、悲痛な声で、止めに入る。
だが、アキラは、そんなタカシを、冷たい目で見返した。
「ああ、そうだよ。オレは、プレイヤーだ。この、クソみたいな世界の、たった一人の、な。盤面を動かすためには、時に、駒の犠牲も、厭わない。それが、勝利への、最短ルートだ」
「…なんだと…?」
「言ったはずだ。『リターン・ワン』は、究極の戦略兵器だってな。一手、間違えたら、巻き戻せばいい。一手、足りなきゃ、何かを犠牲にすればいい。それだけのことだ」
「―――じゃあ!」
タカシの目から、涙が、こぼれた。
「オレや、ヒトミもか!? オレたちも、お前の『駒』なのかよ! いつか、お前にとって、都合のいい『犠牲』になったら、そん時は、『リターン・ワン』で、巻き戻して、また、オレたちを、死なせんのかよ!」
それは、タカシの、心の底からの、叫びだった。
その言葉は、アキラの、硬い、理論武装の鎧を、貫いた。
アキラの顔が、苦痛に、歪む。
「―――うるさい!」
アキラは、タカシを、突き飛ばした。
だが、その声は、震えていた。
「分かってるもんか! お前らに、オレの気持ちが、分かってたまるか! あの時、ゼノが、オレを見て、笑ったんだぞ! 『チェックメイトだ』って! まるで、オレに、自分の命を、最高の駒として、使えって、言ってるみたいに!」
アキラは、その場に、崩れ落ちた。
完璧なプレイヤーの仮面は、剥がれ落ち、そこには、ただ、友の死の重さに、押しつぶされそうになっている、一人の、泣きそうな少年が、いただけだった。
「…怖かったんだよ…」
アキラの声は、もう、か細い、囁きにしか、なっていなかった。
「ゼノみたいに、強くならなきゃって…。アインみたいに、冷徹にならなきゃって…。そうでもしなきゃ、この先、また、誰かが、死んじまうって…。お前らまで、失っちまうって…! そう思ったら、もう、どうすればいいか、分かんなくて…!」
アキラは、子供のように、声を殺して、泣いていた。
それを見て、タカシの怒りは、一瞬で、消え去った。
彼は、アキラの隣に、どかっと、座り込むと、その背中を、不器用に、しかし、優しく、さすった。
「…バーカ。一人で、全部、背負ってんじゃねえよ」
タカシの声も、涙で、濡れていた。
「オレたちは、駒なんかじゃねえ。お前の、仲間だろ。デッキだろ。だったら、辛いことも、怖いことも、ぜーんぶ、三人で、分けっこすりゃ、いいじゃねえか」
ヒトミも、静かに、アキラの隣に、膝をついた。そして、その冷たくなった手を、自分の両手で、そっと、包み込んだ。
「そうよ、アキラ。あなたの強さは、神のように、冷徹なことじゃないわ。こんなにも、人のために、心を痛めて、泣けること。それこそが、アインには、決して、真似できない、あなたの、本当の、強さよ」
三人は、言葉もなく、ただ、互いの存在を、確かめるように、そこに、うずくまっていた。
嵐のような、喧嘩。
雨のように、流した、涙。
そして、その雨に、打たれた、三人の、絆という名の大地は、以前よりも、ずっと、強く、固く、なっていた。
翌朝。
部屋の空気は、澄み渡っていた。
アキラは、仲間たちの前で、地図を広げた。その顔には、もう、迷いはない。
「…二人とも、すまんかった。そして、ありがとう」
彼は、深く、頭を下げた。
「…もう、一人で、突っ走るのは、やめだ。―――聞いてくれるか? オレたちの、次の、一手」
その声は、もう、孤独なプレイヤーのものではなかった。
仲間を信じ、仲間に信じられる、本当のリーダーの声だった。
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