俺と幽霊になったアイツ

鷹匠佑生

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堕ちたのは、アイツだった···

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 ガチャリといつものように俺の部屋のドアが、開く。

「まぁだ、寝てるし! 英くん、いつまで寝てんの?」

 俺が寝てるベッドに腰掛け、くるくると髪をいじるのは···


「···んだよ。またお前かよ」と片目だけ開けて、俺の顔を覗き込んでる幼馴染の大泉亜里沙がいた。

「いいじゃん。別に来たって。うちら幼馴染なんだし」

 亜里沙はそう言うと、ベッドから降り、わざと布団を捲る。

「やめろって、バカ。俺眠いんだよ」

 明け方近くまで、昨日買ったゲームをしていたこと、今日はテスト明けで学校が休みのもあって、昼近くまで眠るつもりだった。

「だぁめっ! ほら、起きて! 約束したじゃん。今日デートするって!」

(んな約束しちゃいねーし! こいつは、また勝手に···)

 昔から亜里沙は、休みになると勝手に予定を作っては、俺と一緒に出たがっていた。

「ほら、おーきーる!」

「いーやーだ! やめろって!」

 布団を剥がそうとする亜里沙と布団を取られては困る俺の短いバトルが、また始まった。

「大丈夫だって。見ても何も言わないからぁ!」

「嘘だ、テメーまた俺に言うだろ」

 前に何度か勃起してる所を亜里沙に見られ、からかわれた事がある。

「はーやーくー! 起きるのー!」

 無理矢理剥がし続ける亜里沙をキレた俺の足が命中し、亜里沙は転がり壁にぶち当たった。

「ったぁぁい!」後頭部に手をやり、抑える亜里沙。

「ごめん···」

 開いた足の奥には、黒い布切れが見えた。

「お、起きるから」

 布団で下半身を隠すように、申し訳なくいい、亜里沙に謝った。

「じゃ、早く支度してよ。おばさんには、私の下着見たの言わないでおくから」

「······。」

(こいつは、また! はかったな!?)

 ベッドから亜里沙を軽く睨み、着替えようとするも。

「いつまでいんだよ! 外にいろ、そーとーにー!」

「え、やだ、なんで? 私と英くん、身体の隅々まで知ってんのに?!」

(なにやらしーこと言ってんだ? バカか? おめー)

 兎に角騒ぐ亜里沙をなんとか部屋から追い出し!

(ドサクサに胸触ったけど。いや、押さえて追い出したから)

「─で、なに? 朝からこうして来たのは」と少し苛つきながら、テーブルに用意された昼権朝飯を食う俺。用意したのは、母さんだけど。

「映画、行こっ!」

 亜里沙は、無い胸を強調しながら俺の目の前に映画のチケットを···

「あ、それ。俺が前から行きたがってたやつだ!」

 俺の好きなアイドル·熊切和嘉ちゃんが、主演してる恋愛ものの映画だった。

「んふふぅ。これパパ! に貰ったんだ! 好きでしょ? 熊切和嘉」

「うん。好き! 大好き!」俺は思わず手を伸ばして、チケットを奪おうとするも、

「だぁめっ! 私と行く? 行くなら、丸秘なプレゼントもあげるんだけど?」と亜里沙は、隣の椅子に置いた鞄から···

「マ? それ本物?」熊切和嘉のサイン色紙を覗かせた。しかも、俺の名前入りで!

「行く! よねぇ?」

 ニマニマ笑って言う亜里沙の誘いに、断る事もなく、

「行きます! 行かせて!」と頭を下げる俺は、むしろ、亜里沙の下僕と言っていいだろう?

 早々に飯を平らげ、支度をした俺の腕に絡みつく亜里沙。

「早く映画行こ! デート! デート!」

 たかが、映画に行くだけで、亜里沙はなんでこんなに喜ぶんだろう?とこの時の俺には、亜里沙の気持ちなんか到底予測だに出来なかった。


「あ···」

「げ···」

「亜里沙、ちゃん?」

 映画館の中で、滝川茜率いるクラスの女子数人と偶然会った。

「なに、お前らも?」

「ううん。うちらは、もう終わったの」

「亜里沙ちゃん。デート?」茜ちゃんが、亜里沙を少し見上げて言ったが、亜里沙は俺の後ろに隠れて小さく返事を返した。

「じゃ、また学校でね!」何人かが笑いながらエスカレーターを降りるのを見送り、俺は亜里沙と一緒にポップコーンや飲み物を買いに売店へと向かった。

「驚いたな」

「うん。ね、ペアセットにしようよ! たまにはいいよね?」

 お互い好きな味が違うから、ポップコーンは別々だったけど、今回は亜里沙が俺の好きな味に合わせてくれた。

「へへ。このチケット、宝物にするんだ」

 映画の半券を俺のと合わせて2枚を大事にお財布に入れた亜里沙は、ポップコーンのトレイを持ってる俺の隣を歩き、席に座った。

「ね、映画終わった後にさ、私行きたいとこあるんだけどいい?」

「うん。でも、ありがとな。色紙」

 実際に貰ったのは、亜里沙の父親だったらしく、本人と一緒に写ってる写真まで見せてくれた。

「いいよ。変なとこじゃなきゃ!」

「だから、あれはちょっと興味があったから···ね」

(興味があったからって、普通ラブホに誘うか?!)

 幾ら幼馴染でも、俺は亜里沙に対してドキッとはするけど、恋愛的な感情は沸かない。

 映画はかなりよく、亜里沙は周りの客と一緒に鼻をすすっていた。

「だから、男の子って···」

 男と女は、感動する場面が違うというのに、亜里沙は理解してくれない。

「で、どこなんだよ。お前の行きたいとこって」

「うん。その前に、ね、お腹すかない?」

 今しがた、ポップコーンや炭酸で腹を満たしたというのに?と思ったが、若干腹に隙間を感じた俺は、その案にのった。

 映画館は、駅ビルの中にあるから、飲食や買い物も大半はここで賄える。

 cafe·ドンクで、軽くお茶をし、亜里沙の買い物に···。

「誕生日? だって、俺来月だよ?」

 俺の誕生日は、7月1日。亜里沙は、同じ月の18日。

「んぅ、なんとなくね。ほら、部活とかもあるし。一緒にお祝い出来ないかも知れないから」

「別に。一緒にって、お前が毎年強引に予定組んでんだろが」

「ほら、これなんかどう?」と亜里沙は、いくつか俺に合いそうな雑貨を見ながら、あるコーナーで止まった。

(ペア? コイツと?)と思ったが、亜里沙はソッと素通りし、また外の所へ。

「······。」

 他の商品を手に取り眺める亜里沙とペアコーナーの商品を交互に眺め、

「おい、亜里沙!」とこちらへ手招いた。

「いいの? 誕生日プレゼントだよ? 英くんの」

「いいよ。たまには。幼馴染でも、友達でも、こういうのつけてるのいるだろ?」

 クラスで、何人か居るのを知っている。

 亜里沙は、少し考えてたが、喜んでいろいろと見ていた。

「ありがとう!」

(たかだか、ペアのネックレスだぜ? 合わせて1500円!)

 お互いにつけ合って、亜里沙は凄く嬉しかったのか、チラチラその感触を楽しんでいた。

「ごめんね。なんか。英くんの誕生日プレゼント選ぶ筈だったのに」申し訳なさそうに言ってはいるが、亜里沙は笑みを浮かべていた。

「いいさ。それ位···」

「へへ。しかも、いつも送ってくれるし。彼氏か!」

「んな訳ねーよ。お前は、仮にも女の子だからだ。じゃ、明日な」

「うん。明日、時間に間に合うように来てよ」

 明日は、学校は休みだが、部活はある。テニス部の俺と亜里沙は、学校で練習試合があるから···。

「わかったって! って、いつもお前が起こしにくるんだろ!」

 いつもの調子で、俺は言ったが、亜里沙は明日は行かないと言った。

「ん。友達と先に練習するからね。勝たないと」

 少し日が落ちてきたから、亜里沙の表情は見れなかった。

 そして、この時の亜里沙を見たのが、最期だった。


「ね、あれ何?」

 俺があくびをしながら亜里沙の帰りを待っていた時、バスに乗ろうとしていた敵チームのメンバーが、校舎の上を見ながら言い合っていた。

「や、ちょっと危ないよ」

「ねぇー、そこで何してるのー?」

 女の子数人の騒ぎや声に、その場にいた生徒が集まって上を見上げ、指さしていた。中には、スマホで撮影してる輩も!

(誰だ? 眩しくてよく見えんが。あれ、亜里沙は?)

 約束の時間になっても亜里沙は、昇降口に現れない。

 そんな時、

「おいっ! あ、亜里沙だ!」と言う誰かの声が届いた瞬間、俺は土足のまま屋上へと走った。

 バンッと鉄製の扉を開くと、亜里沙はいた。

「あ、亜里沙? 何してんの?」

 亜里沙は、笑っていた。鉄製の柵の外で、笑って俺を見ていた。

「あ、英くーん! 元気?」

「じゃ、ねーよ! いいから、早くこっち来い!」肩で息をしながら、ゆっくりと近づく俺に対して、亜里沙は笑うのをやめ、

「来たら、ここから落ちるからね!」と冷たく言い放った。

「おい、亜···」後ろから、教師が俺と同じように息を切らしながら入ってきた。

「危ないから。早く···」

「ううん。危なくないよ。私、飛べるから」

「バ、バカなこと言ってんじゃないっ! 大泉!」教師もこわごわ言う。

「英くん、これ、ありがとね! ばいばい」

 亜里沙は、そう言うと飛んだ。

「亜里沙ーーーーーっ!!」の俺の声が、亜里沙のいた場所へと行き、下から、甲高い悲鳴と鈍い音が届いた。


 あれから1週間が経った···。

「おい、英治···」

「······。」

 ─俺は、亜里沙を失って、初めて心から泣いた。

 なんで?

 俺、お前になんかした?

 なぁ、亜里沙···。

 葬儀会場で、花に囲まれいい笑顔で写ってる亜里沙を前に、俺はただただ涙を流し続けた。

 亜里沙···

 俺···

 どうしたらいいんだ?

 なぁ···
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