推しに“男”だと勘違いされたけど、雑草根性で執着されてます!【全33話完結予定】

ホタカ

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第30話 “好き”だから、戦うことにしました

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その日の夜。
アキは案内された自室のベッドにいた。
ずっと泣き続け、気づけば外はすっかり暗い。
良い加減起きようとのそりと身を起こし、ふと鏡の前を通り過ぎると。


「……うーわ、ぶっさいく…」


自嘲気味に呟くアキ。
目元は腫れぼったく、肌もボロボロ。
鼻も真っ赤。完全に“泣いた顔”の人間だった。

これ程までに、自分はアレンが好きだったらしい。


「こんな時でも…ミアなら、きっと可愛いんだろうな……」


呟いた瞬間、昼間のアレンとのやり取りが脳裏を過る。
その途端、ぐらりと感情が揺れ、再び視界がにじんだ。

(……ダメだって。こんな顔じゃ、明日も仕事あるんだし)

パン、と自分の両頬を叩く。
なけなしのプロ根性だけが今の支えだった。

たとえ気持ちがめちゃくちゃでも、仕事をしなければお給金は貰えない。
ほんと、凡人の現実なんてこんなもんだから。

(……とにかく。腫れ、どうにかしよ)

冷やせるものを探して、こっそり部屋を抜け出す。
厨房でも水道でも、池でも何でもいい。
キョロキョロと探しながら廊下を歩いていると、不意に声がかかった。


「ーーーまあ、アキ様……!」
「……あ」


よりにもよって、今一番会いたくなかった人物に出会ってしまった。
夜の光に照らされたミアは、青白く輝く妖精のように美しく、思わず息を呑んだ。
…そして、その美しさが、今の自分には酷過ぎる。

(ーーーミアにはこの腫れた目元を見られたくはない)

アキが足を動かしたところで。


「っお待ちくださいませ!」


背後で小さな足音が追ってくる。


「アキ様、お願いです、お話を……」
「っあ、ごめん?今トイレ探してて……」
「アレンハルト様の件ですわ!!」


足が止まった。
振り返れば、ミアの瞳は真剣そのものだった。
そしてー……
アキの腫れた目元を見て、ミアは小さく眉を寄せた。


「……泣かれたのですね」


それだけで、ぐっと胸の奥を掴まれる。
アキは黙ったまま、ただ息を吐いた。


◇◇◇



庭園の小さなあずまやに連れられ、向かい合う形になった2人。


「やはり、アレンハルト様のこと……本気でお慕いしているのですね」


ミアの声は静かで、優しくて、でもどこか哀しい。


「…それより、どうしたの?こんな夜更けにさ」
「あ、寝られなくて…。少し、外の空気を吸いたくなったんです」


きっと、アレンの事を考えていて寝られないんだろうな。
そう思ったが、何も答えられずに黙っていると、ミアは胸元のペンダントを首から外し、開いてアキに差し出した。

そこには、絵画のように美しい家族の写真。
全員がミアに負けないほど整った顔立ちで、まるで美術館の肖像画だ。
しかし、何故急に見せられたのか分からないアキは、ミアを見つめる。それに、ミアはかすかに笑って言った。


「兄様が、いずれは伴侶を探さねばと仰っていて……。きっとアキ様を気に入られますわ」
「……え?」


もう一度よく見る。確かに、ミアによく似た美麗な男性が写っている。


「こんなにお辛い想いせずとも、兄様ならアキ様を幸せにします。だから、どうか……」


その瞬間、ジワリ、とアキの中で嫌な感情が渦巻いた。
大切な自分の兄を……こんな異世界転移者で男扱いの私に勧めて、一体どうしたいの?

(……あ、なるほど)

ミアは、優しさの皮をかぶってるけど。
結局これは、私を「別の人に押しつけて、さようなら」ってことか。


「……そんなに、諦めさせたいんだ?」


言葉に棘が滲んだ。
これ以上一緒にいたら、ミアにもっと酷い事を言ってしまいそうでアキは咄嗟に立ち上がる。


「っお願いです…!アレンハルト様のこと、諦めていただけませんか!?」


深く頭を下げるミア。
その姿で言われたら……アレンなら、靡くんだろうな。
思わず胸がずきんと痛む。

(……この子みたいに、素直に想いを伝えられたら、違ってたのかも)

でもーーー……


「……ごめん。その約束は、できないや」


そう言って、アキはミアの傍を通り過ぎた。

どんなに分が悪くても、笑われても、呆れられても。
勝ち目がない試合だって諦めたくない。
ーーーそれ程までに、“推し”ではなく、あの残念なイケメンの“アレン”が好きだから。

(アレンに完全にフラれるまで、当たって砕けてやる)

やっぱ雑草魂は、強くてなんぼだしね。
背中で、ミアの「アキ様……」という小さな声が聞こえる。
アキは聞こえない振りをして、この場を後にするのであった。


後にポツンと残されたのは、ミア。
その顔は悔しさと決意が滲んだ顔をしていた。


「……諦めませんわ……。絶対に、アキ様を連れ帰ってやるんだから」

「そして、お姉様と呼ぶのよ」
小さく呟いて拳を握るその姿は、誰にも見られる事はなかったのだけども。

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