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第17話 推しより、ウィルの紳士力が高い件
しおりを挟むアキは、先日ウィルとデートしたあのカフェにいた。
手紙の通り、店の支配人に「来客あり」と伝えたうえでウィルが来るまで待っているのだがーーー
「遅いなぁ……」
紅茶を飲み干して二杯目。
ウィルの姿はまだない。
手紙には
『先日はデートありがとう!また“前回の話”を聞きたいな。俺を呼びたい時は、前と同じ店で支配人に言付けてね』
と書いてあったらしい(ヴォルト訳)。
……本当に訳が合ってるか心配だったが、支配人はちゃんと対応してくれているので、このまま待っていて大丈夫なのだろう。
(……はぁ)
アキは窓の外に目をやりながら、最近のもやもやを整理していた。
……推しが私に冷たい。いや、最初から男と思われたし優しさはゼロだったけど。
それが、女だと分った瞬間追い出そうと躍起になってるし、仕舞いには理不尽な外出禁止令まで出してくる。
(……ひどくない?)
これが主人公ミア相手なら、アレンは怒るどころか「1人で外出は危ないですよ」とか言いながら軟禁してるはず。
一見クールなアレンが、ミアにだけ見せる独占欲と執着心。
それが、この世界の“ツンデレ騎士団長”の正しい姿だ。
(……ま、心配せずともこれからその光景を目の前で見るんだけど?)
だって、ミアと出会う最大イベント、舞踏会があるのだから。
アキは思わずため息を漏らす。
ーーーあーあ、せっかく推しに会えたのになぁ。
この目で推しのツンデレを体験できないなん………て…?
(………あれ?)
ふと気づく。
(ていうか、そもそも私って“アレン”が好きなんだっけ?)
もちろん推しは大好きだ。生活水準を下げてまで貢いできたし、妄想もした。
ご尊顔を愛で、言動を観察し、尊い…と拝んできた。
でも、それって「ファン」としてであって、「恋」だっただろうか?
(………?)
更によく考える。
こうして現実目の前にしたアレンは、顔以外、何か褒めるところがあったろうか?と。
横暴で冷たく、興味ない人間には無関心。なのに嫌いな奴には執念を見せて追い出そうとする…。
むしろ“中身ヤバいのでは?”という冷静な事実が脳裏をよぎったところで。
「おまたせ!アキちゃん。待った?」
「ーーーウィルさん!」
ガチャリと扉を開けてウィルが入ってきた。
「ごめんなさい、急に呼び出しちゃって」
「良いよ。こちらこそ中々抜け出せなくてごめん。女の子待たせるなんて紳士失格だね」
「ウィルさんが紳士じゃなければ世の中の男全員鬼畜ですよ!」
「!あはは、相変わらず面白いねアキちゃんは」
笑うウィル。
そんな会話のあと呼び出しの理由を聞いてきた。
「えー?政治談義したいって書いてあったじゃないですか」
「そうだけど…にしても、急じゃない?……また何かあったんでしょ」
と再び勘の良さを発動させた。
「……実は今騎士団で“正装”用の採寸してまして、逃げる口実を」
「…もしかして、王宮舞踏会の?」
「あ、そうです。本当はバックれたいんですが、皇太子サマの命令だとかで、仕方なく」
「……うーん、責任感じるなぁ」
何故かウィルが「ごめんね」と謝る。
アキはそんなウィルに首を傾げ「別にウィルさんのせいじゃないですけど」と言った。
「そんなにドレス着るの嫌なの?」
「嫌ですね。参加拒否できそうもないので騎士団の制服で行きます。今日逃げれれば、そうなるかなと」
「えー?勿体無くない?」
何故か口を尖らせ、不満そうに言う。
そして何か思いついたように、ウィルは手を叩いた。
「なら、今日のお仕事のお礼に、俺が服を仕立ててあげるよ」
◇◇◇
それからアキは、またもや謎の政治談義をこなし、満足そうな彼に連れられブティックへと向かった。
あの高級店……先日、アレンに連れてこられた“断固拒否ドレス回”の現場である。
案の定、支配人の女性は2人を見てフリーズする。
(ですよねー?ローブ姿の不審者と薄汚れた騎士団服の小娘が来れば固まるよね)
そう思ったが、何故か支配人は慌てて奥にアキを引きずり込むと、あっという間に採寸をし始めた。
ーーーえっ!?作るの!?
あれよあれよという間に、素早く身体中のスケールを取られるアキ。
終わったらすぐさま騎士団服を被せられ、ウィルの前に連れて行かれた。
「わあ、流石、仕事が早いね!」
「ーーーお褒めの言葉、御畏れ多いです。でん…」
「おおーっと、それ以上はやめて!それより、この子を皆が驚くほど変身させて欲しいな」
「! お任せを!我がブティック・マムの名にかけて、必ずや期待にお応え致します!」
「……えー?」
支配人の目がやたらギラついているのが怖い。
だが、それよりも気になるのは、ウィルの“立場”だった。
さっきから妙に周囲の反応が違う。
アレンと一緒にいた時よりも皆異様に姿勢が良いのだ。
ずっと同じ下っ端と思っていたのに……もしかして、有名な貴族か何かだろうか?
「ーーーあ!違う!言い忘れてましたけど、ぜひ男性用でお願いします!」
「えっ」
「えっ!」
「ぜひ!」
もう一度念押ししておく。
肝心な事を忘れる訳にはいかない。1番大切なのは、クビにならない事なのだ。
「な、何で…?」
「女嫌いの団長にドレス姿なんて見せたらクビになります。私は今の職場から離れたくないので!」
「……え?」
ナニソレ。
ウィルがポカンと口を開ける。
そして、ようやく理解できたように、柔和な笑み(口元だけ)を見せた。
「なるほどね。なら、俺からあいつに言っとくよ」
「団長に?でも…」
「大丈夫。俺交渉得意だから。アキちゃんは安心して?」
「そろそろちゃんと怒らないとね」そう言った笑顔は、いつもと変わらず飄々としていてーーーでも、少しだけ恐ろしく感じてしまった。
その意味を知ったのは、ほんの少し先の話だったけれども。
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