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第22話 推しの執着に震え、目が覚めました
しおりを挟む「ごめんなさい、ここに人がいると思わなくて……」
「あ、いやー、変なところにいたこっちが悪いので」
まるで儚いガラス細工のように、戸惑った表情を浮かべる少女ーーーミア・ナディア。
清らかな水色の髪と、宝石のようなブルーアイズ。
誰がどう見ても、守ってあげたくなる“ヒロインそのもの”だった。
そして今、その完璧なヒロインと、推しのアレンと、そして何故かモブの私が、三角形に並んで立っていた。
(…………地獄)
なぜ、よりにもよってこんな構図になるのか。
いや、分かるよ?
小説通り、今ここでヒロインとヒーローが劇的に出会っているのだ。「異物」なのは私の方。
ーーーでも、現実何故かその“出会いの真ん中”に、私がいる。
(もうやだ。さっさと帰りたい)
これ以上見ていたくないとばかりに「じゃ、私はこれで」と踵を返そうとしたその時。
「っうぇっ……!?」
腕を掴まれた。
振り返れば、アレン。
その目はまるで、逃げようとしたネズミを追う鷹のようだった。
「まだ話は終わってない」
「……まあ!」
反射的に顔を赤らめたミアが、小さく口元を押さえた。
その反応はまるで、初めて恋愛小説を読んだ少女のように純粋で眩しい。
(“まあ!”じゃねーのよ!本来はアンタがこうされるはずなの!)
クソ、間近で見ると更に可愛いな!
ヒロイン力が高すぎて全く勝てる気がしないわ!
(てゆーか腕っ……!さっきから痛いんだけど!)
まるで遠慮も何もないアレンの力強さにじわじわ恐怖を感じたところで。
「何だか、私お邪魔なようね…。じゃあ、これで」
「っあ!待っ……」
アキの叫びも虚しく「ごきげんよう」と去っていくミア。
去り際、ミアが静かにグッと親指を立ててウインクしている姿を目撃し、「だから、違うんだって!」と追加で叫んだ。
ミアが消えてすぐ。
ぎこちなく隣に目を向けると、アレンの視線がまっすぐ自分に向けられていた。
(……何で。なんでミアじゃなくて、こっち見るの?)
「……その、団長…」
「何だ」
「先程のミアさん……良いんですか?」
「? 良いとは?」
「あ、とりあえず離して頂けません?」
そこでようやくハッと気付いたアレンがアキを離す。
つい掴まれた腕を摩り「いてて」と呟いた。
力加減おかしくない?まだ男だと思ってんの?
「あの子、行っちゃいましたけど。追いかけなくて良いんですか?」
「? 追いかける?何故だ?」
ええい、まどろっこしいわ!
「っだから!ミアの所に行きなさいよ!団長のタイプど真ん中でしょーが!」
「ーーーああ、小動物系ってやつか」
自覚があるのか、アレンはそう言った。
そして、再び笑って答えてくれた。
「小動物のように怯えて俺から逃げる女は、確かにタイプだ」
「ーーー?」
「逃げられると、追いたくなるようだ」
そう言って固まったままのアキの手を取り……その甲にキスを落とした。
その間も、燃えるような瞳はずっとアキから離さずに。
「ーーーヒッ!」
「ひ?」
「何だそれは」と不機嫌そうに眉を顰めるアレンをよそに、アキは
(マジで中身ヤバいやつじゃん)
と心の中で呟いた。
自分から怯えて逃げる女がタイプ?
どんな狂人よ、それ。
小説では、もっと優しくて、もっと紳士で、ミアのことだけを真っ直ぐ(という名の執着)に思ってた。
ーーーでも、この人は、あの“推し”じゃない。
「あ、やっぱり遠慮しときます」
「え?」
「私、紳士的な人が好きなんで。狂人勘弁。じゃ」
サッと踵を返し、スタスタと背を向けて歩き出す。
一瞬だけ振り返った先に未だ固まったままのアレンを見て、小さく心の中で呟いた。
(……“推し”って、見てるだけの存在で良かったんだな…)
ーーーそう。
私が好きだったのは、“物語の中の彼”だけだったようだ。
まあ、転職先見つけたし、もう好きにしてやるけどね!
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