殺人鬼はブルーフィッシュの夢をみる

土方かなこ

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図鑑

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「おいっ あっちにいったぞ!追えっ」
「すばしっこいガキだぜっ」
「俺が回り込むからお前らはあっち行ってろ」

大の大人三人が怒鳴りながら市中を駆ける
探しているのはたった1人の少年
タタタっと軽やかな足音が汚い路地裏の先に消えた

「ったく溝鼠かよあいつは」
「っうへぇ こっちはクセえや
くそっ ここはアンドラ婆さんの店の管轄だろ」
「最近多いな
 こんなとこ、あいつらの逃げ道残しておく様なもんだぜ」

忌々しそうに路地の先を睨み付ける
道には倒れた人間がいくつも転がっている

「そんならてめえが片付けな」
「いやに決まってんだろ
ありゃ生きてる人間は息できねえぜ」
苦々しい顔をする
「元々汚ねぇとこだが最近は特にひどいな
今じゃ死体置き場みてえなもんだ」

結局3人は踵を返してブツブツ言いながら自分達の店に戻っていく
それを建物の裏でじっと見つめる少年がいた

「っふー 最近しつこいなぁ あの3人
そろそろ潮時かもね」
男達が通った道を見つめて肩を竦める

「いいカモだったんだけど
野菜も肉もなかなか新鮮だしね」

シャクリっと音をたててリンゴを齧る
「んっ おいし」

「サクラー!」
「おっ ノア危ないからこっちまで来ちゃダメだって言ったろ?」

焦った様子で駆け寄る
ノアは小さな手をふって駆け寄り、無邪気に笑った


「だってサクにぃに早く会いたかったんだもんっ! ねえ今日はこれ読んでっ」
小さな胸に抱いた分厚い本をを両手で差し出す
「これは?」
「知らないお姉さんに貰ったの」
えへへと頬を染めてはやくはやく、と手を引かれる
しかし、この街で見知らぬ人に物をもらうなんて正気の沙汰ではない

「ノア 何度も言ったろ?知らない人とは関わっちゃいけないって」
膝をつき、目線をあわせ手を諭すように言う
一応不味いとは思っていたのかノアはシュンとして本をぎゅうと握りしめた

「でも これ落ちてたの それでね、拾ったの」
「うん」

「そしたらそれは私のものですってお姉さんが」
「これを?」
「そう それで返そうと思ったんだけど、もう要らないからあげるって」

「要らないからあげる?図鑑をか?」
「そうっ僕ずっと読んでみたかったの!」

ノアが握りしめていたのは所謂草花図鑑だ
このごみ溜めの様な地にはあまりにも不釣り合いなもの

「…怪しすぎないか?」
「ううっ でもっでもぉ」

悔しそうに下に俯く
それを見てズキリと胸が痛む
あぁノアにはとんと弱い自覚があるのだ

なにせかわいいの化身なのだから、この子は
同性にも関わらず、嫉妬心すらわかないほどに可愛らしい顔立ちをしている

白髪にアイスブルーの瞳が揺れ
まあるい頬と薄い唇はバラのよう
華奢な体躯にくるくるの癖毛が風にあおられ宙をまう

もはや幻想の域だ

最初見たときは天使かと思った
いや、親バカとかじゃなくてね!?


それに確かに図鑑なんてものそうそうお目にかかれるものじゃない

「…わかった でも約束な
もう絶対に一人で町には出ないこと」

「うん約束 やったぁサクにぃ大好きっ」

満面の笑みに思わず絆されてしまう
もともと好奇心が強く、勉強にも興味がある様子だった
とてもじゃないけど学校も通わせてあげられないしな

「さぁ はやく帰ろう 僕達の家に」
「うんっ」
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