殺人鬼はブルーフィッシュの夢をみる

土方かなこ

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面倒ゴト

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死体と見分けがつかないほどに汚い人間がそこら中に落ちている

サクラとノアの二人は息を詰めて路地裏に入っていった
ノアはぎゅうとサクラの手を強く握りしめた

「…いくぞ」
「うん」

中に入ればそこは掃き溜め
ひどい腐臭と何かしらの死体が目に留まる

ここは人呼んで死の町 ロイドタウン

まともな人間は一分ともたない
しかしここがサクラの生まれた地でもあった
ゆえに誰よりもここを理解している

いくつもの路地を曲がり、道ならぬ道を駆ける
その度に踏みつけた何かはもう振り返らない
さっきの男の一人は死体置き場と称したが、もっとひどい場所かもしれない

死体が発生させる毒素はこの街をじわじわと蝕んでいる
蛆がわき、伝染病は常に蔓延状態だ
それでもこの町からは出られない

「大丈夫か ノア」


ノアと出会ったのは3年前

明らかに身なりのいい少年がロイドタウンの片隅で寒さに震えて踞っているところを助けてから、ずっと一緒に生活してきた

「っうん 大丈夫」
明らかに具合が悪そうだ
焦りと不安で唇を噛む

サクラはノアを育てるためにこの町のありとあらゆる恨みをかってきた
必要なものは盗み、金のためならなんでもする

それでもノアを蝕む流行り病 ダストは日に日にノアを蝕んでいる
薬は安くないが、きちんと規定量を服薬させているのに

ノアの手を強く握り、路地を一気に駆け抜ける

すると先ほどまでの汚さは一変し、簡素なボロ小屋が連なる町が現れた


「さぁ帰ろう」

ほっとしたのもつかの間、小汚ない男が寄ってきた

「おいおい サクラよお 
おめえさん 最近はちょっと調子にのりすきじゃ
ねぇの?」

「…一体なんのこと?」
厄介なやつに絡まれたな、と後ろ手にノアの背中を叩く
隙をみて逃げろの合図だ

男はこの町でもそれなりに幅をきかせているチンピラ、ガルアという男
こいつ一人はどうにでもなるが、仲間を呼ばれる可能性がある
何よりノアを守らなくてはいけない


「おいおい しらばっくれんじゃねぇ
お前ロッジの店に盗みに入ったろ?
あいつ俺の嫁の弟なんだわ」

「へぇそうだったんだ 
でも僕はそんな店知らないし、なにもとってないよ
そもそも手に職のある僕はそうそうお金に困らないって知ってるだろ?」
「はんっ 大人を嘗めすぎなんだよ
ここらじゃ噂になってんぜ
サクラはノアの治療費稼ぎに躍起になってるってなぁ」

後ろのノアがビクリと反応したのを感じる

「…で なんのよう?」
「あっ?決まってんだろ 金出せや」

「そうするメリットは僕にはないけど」
「義務だよ義務
義理の弟の店のもんを売って得た金は俺の金と変わんねぇだろうが」

「断ったら?」
「決まってんだろ?この町のゴミどもと一緒に集積所にポイだ」

明らかにノアという人質をあてにしての発言だ

「…わかったよ でも手持ちはないから家に帰らせてくれ」
「ああ だが人質はいただくがな」

男がそういった瞬間ザッと仲間と思われる大人達の気配が現れた
 
「っノアっ 走れっ 」

サクラの合図でノアはダッと駆ける
一瞬固まる敵の隙を逃さず、目の前の男の横をすり抜け建物の細い隙間に入り込んだ

ああなるとノアを捕まえるのはこの男達では不可能だ

「ッチ お前らなに逃がしてんだ このくそ雑魚どもっ
とっとと捕まえてもってこい」

「っあぁ」
「いくぞっ」

ノアの通った道は小さな子供がやっとすり抜けられる程度の幅しかないため、男達は先回りするために町の中心に向かって駆けていく

「流石お前の腰巾着だなぁ
こんなごみ溜めでよく守ってきたもんだ」
ニヤニヤと笑い懐に手を入れる
銃か
「酷いなあ
一応ここは僕にとって故郷なんだけど」

「っくははは
運がいいにもほどがあんだろ
俺様はなぁずっと楽しみにしてたんだよ」

「楽しみ?」

「おおっ 犯罪者だけが住むことが許される町
ロイドタウンっ 夢があるじゃねえか」
手を広げて空を仰ぐ

正確には許されたではなく、閉じ込められたの間違いだ

世界終焉の始まりとも言われる大きな戦争の火蓋が落とされ治安が悪化した国には犯罪者が溢れ、刑務所は常に満員になっていった

しかしそんなやつらに与える食糧ひとつも惜しいと判断した政府はロイドタウンに放置し、勝手に死んでいくのを黙認している

周囲は厚い壁に囲まれており、出入口は一つのみ
そこさえもガンマン気取りの警察がいまかいまかと待ち構えている

「だけどなぁ俺様は許せないわけだ

こんなさいっこーにイカした町で、まだ小便くせえガキが幅をきかせてるってのはなぁ
あっちゃならねえんだよっ」
男は興奮した様子で銃を構えた

「警察に見つかったらまずいんじゃない?」
「ずいぶん余裕じゃねえのっ」

パァン と静かな町に銃声が響いた




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