上 下
4 / 4

ゲイシー

しおりを挟む
プシャア と真っ赤な血が吹き出して男が倒れる

生暖かい血液はどんな極悪非道な人間でも変わらない
見た目はこんなに違うのに中身は結局同じなんだね、僕たち

地を蹴り男達の裏をかき次々とナイフできりつけは蹴り飛ばし、踏みつける

「っかはっ」
「っうぐ 」

「おいおい
本当にいたぜ こいつがロイドタウンの処刑人狩りか」

愉快そうな声が通りに響く

声のする方を見るとフードを目深にかぶったガタイのいい男がこちらに近づいてきていた
その男はおどけたように首をすくめる 

「だけどちょっとガッカリだぜ
もっと熱くなるような殺しを見せてくれよ」

ハラリと落ちたフードから見えたのは狂暴そうな表情
頬に黒い星の刺青と舌ピアス
つり上がった眉にアイスブルーの瞳
何よりも目立つ赤いバングル
…運がいいな今日は

それをみたガルアの仲間がざわめきたつ

「おいっあいつぁ」
「あぁ最近巷で噂だったキラー野郎か」
「処刑人になったってぇ噂は本当だったみてぇだな」

サクラはずっと狙っていた獲物が目の前に出てきたことに驚きながらもナイフを握る
実はサクラの任務の殆どは、この赤いバングルを着けてロイドタウンに来るもの達の暗殺依頼ばかりだ

通称 処刑人
ロイドタウンには本来死罪確定級の犯罪者を、この町の人口の口べらしのために放たれることがある
その際に目印で赤いバングルを着けさせられる



「…キラースターのゲイシーでしたっけ?」

「新聞のゴミカスどもはそう呼んでたが、俺様はあんまし気に入っちゃいねぇぜ」

それよりも、と手を広げてニコリと満面の笑みを浮かべる
強面の男の笑みは不気味に映った

「お前はどっちだ?」

「どっち?」

「決まってんだろ 食うか?食わないのか?」

敢えて何を、とはきかない
そういえば殺人レストランを開いて捕まったんだっけ

「食べませんよ」

そうか、と呟き今度はビジネスマンの様な爽やかな顔つきになる
こうして見ると意外に顔が整っている
表情でこうも変わるとは

「じゃ 取引しねぇか

処刑人サクラどの」

そう言って手を差し出す
完璧な微笑は仮面を思わせた
正気の沙汰ではない

しかしその温度差に戸惑ったら最後、一瞬でナイフの先が目の前に突きつけられた

ヒリリと空気がはりつめる

目をそらせない、すこしでも気を緩めたら殺される
ゲイシーはニヤリと笑いナイフを下ろす

 「…どうせここに来たなら一番つえぇ奴とヤりたくてなぁ
噂じゃお前はここらへんじゃ随分有名だったぜ
処刑人狩りのキッズキラーがいるってな」
 
「みんながみんな貴方のように大犯罪を犯してはここにこないんですよ
中には殺人鬼が外にうろついてるだけで、眠れなくなるような可哀想な人もいるんです」

ゲイシーは赤いバングルを見せつけるように撫でる

「これをつけてると処刑人って呼ばれるらしいな
つまりなんだ、ここでは何人殺しても正義になるわけだ」

「まぁそう聞こえますよね
だけど、それを着けてここで生き残るのは至難のことですよ」

「ま、確かに目立つわな
でもいいぜ 俺がここに来た理由は仲間を見つけることだしな
お前だって涼しい顔してるが、結局は同じだろ?」
同じの意味もきかない
ああ、嫌だな、この人と話すの

「…あいにく僕は人を殺して快楽は得られませんね」

そう言うと怒った様子で叫び始める
完全に情緒不安定だ

「なら 何故殺すっ

持論だが殺しができるやつは大抵他のことはなんだってできる
金儲けのためならこんな効率が悪いことはねぇぜ 
リスクはあるし、後片付けも面倒だ
だけど殺すんだ 殺したいからだっ そうだろっ?」

興奮のせいで顔が赤くなっている

「…貴方はさぞかし育ちが良かったんですね」

「あぁ?」

「僕はこの仕事をするかしないか選べなかった
ただそれだけのことなんですよ」

興奮したゲイシーと静かに語るサクラ
はりつめた空気の中両者とも決して目を反らさない

「…病気と犯罪者だらけのこの町では子供は殆ど生き残れないんです
もし本気で育てるなら一歩も外に出さなくたって安心できないくらい

だけど僕はいきなり外に放り投げられて、お金を稼げるのはこれしかないと教わりました」

ナイフを握りニコリと笑う

「もう10年になるんですね」

まだ幼い僕には考える時間も余裕もなく、目の前の何かにしがみついて生きていくしかなかった

しかしそうしても結局利用されて死ぬ子供達を一体何人見てきたことか

サクラの微笑にゾクリとするとゲイシーは野性的勘で何かを察したのかニタリと笑う

「久々に手応えありそうだなぁ」 

「ま、これも仕事のうち、かな」

はりつめた空気がピシャリと割られた音がした





しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...