3 / 9
第3話:街の規律
しおりを挟む
ライオネルと別れたあと、アメリアとリリアは一緒に街へ向かった。
「宿を探さなきゃね」
リリアが地図を指さす。
「この通りの先に、評判のいい宿があるの。少し歩くけど、静かで落ち着ける場所だよ」
アメリアは頷き、肩に掛けたバッグを少し直した。
「うん、行こう」
通りを歩いていると、元気な声が響いた。
「お姉さんたち!癒しの雫だよ!疲れもふっとぶ、奇跡の一滴!」
アメリアは立ち止まり、声の主を見つめた。昼間、街の入り口で見かけた青年だ。
アメリアは興味深そうに青年に尋ねた。
「これは、あなたが作ったの?」
青年は首を振った。「違うよ。僕は売る係。作ってるのは、あっちの少年」指さす先には、長い前髪が目を隠し、フードを深くかぶった少年が小さな机に座り、紙や小瓶を丁寧に並べている。
「彼は味覚魔力分析の才能を持ってるんだ。僕は手伝ってるだけ」
アメリアは目を丸くした。「味覚魔力分析……?」
リリアは微笑む。「才能の一つ。材料の成分や魔力の流れを味わって分析できるの。だから薬の調合や道具の作成に役立つのよ」
その時、黒い制服を着た検査官が歩いてきて少年を止めた。
「待ちなさい。認可印のない品を売るのは禁止だ」
少年は慌てて首を振る。
「ち、違うよ!これはちゃんと安全な——」
「安全かどうかは君が決めることじゃない」
検査官は淡々と小瓶を没収し、周りの人々に向かって告げる。
「この街で販売をするには商人組合の検査を受けること。守らない者には罰金だ」
場の空気がしんと静まる。青年は悔しそうに唇をかんで、辺りを片づけ走り去っていった。
「そんな……」アメリアは手を伸ばしかけて止める。
リリアが肩に手を置き、静かに言った。
「これがこの街のルールよ。自由に見えて、秩序の下に成り立ってるの」
アメリアは小さな肩をすくめ、通りを歩きながらつぶやいた。
「自由に見えるけど、ルールは厳しいんだね……」
「そう。外から来た人には分かりにくいけど、守らないと街全体が混乱しちゃうからね」
通りには光る小瓶や紙のように薄い石、色とりどりの布や果物が並ぶ。アメリアはそのひとつひとつをじっと見つめる。
「……魔力道具も、才能を持った人が作ってるんだよね」
リリアはうなずく。
「そう。作るには才能が必要だけど、使うのは誰でもできるの。だから街の人も、便利な道具に慣れてるんだ」
二人が宿の前に着くと、古い石造りの建物が静かに佇んでいた。木の看板には『宿屋ローズヒル』の文字が刻まれている。
「ここね。落ち着ける場所だって評判なの」
アメリアは少し胸を弾ませながら頷いた。
「うん、行こう」
扉を開けると、柔らかい光が差し込む落ち着いた空間が広がっていた。
木の床はきれいに磨かれ、壁には温かみのある絵画が飾られている。
奥からは宿の主人と思しき女性が顔を出し、優しく微笑んだ。
「いらっしゃい。二人部屋は二階ですよ。荷物は私どもで運びます」
アメリアは小さく会釈をして、リリアに続いた。
階段を上がると、二人分の小さな部屋が用意されていた。
木の匂いと温かい光に包まれ、アメリアは少し安心する。
「ここなら落ち着けそうだね」
リリアが荷物を置きながら言った。
アメリアは窓の外を眺める。
街の石畳、通りを行き交う人々、香ばしい匂い――すべてが昨日までの世界とは違った。
「……街にはルールがあるんだよね……さっきの検査官のこととか」
小さな声でつぶやくと、リリアがうなずいた。
「そうなの。自由そうに見えて、守らなきゃならないことはちゃんとあるんだ」
「例えば?」
リリアは少し考えて答えた。
「商人組合の決まりとか、才能を持つ人が作ったものの扱いとか……魔法道具や薬の販売も、ちゃんと認可が必要なの」
「なるほど……」
アメリアは昨日見た“癒しの雫”の青年や味覚魔力分析の少年のことを思い浮かべる。
――なるほど、だからあんなに慌てていたのか。
リリアはふと微笑んで言った。
「才能って、誰もが持ってるわけじゃないし、使い方も人それぞれよ」
「…リリアは?」
「ん?」
「リリアは才能とか、持ってるの?」
リリアは少し考えてから、目を細めて笑った。
「少しはあるかもね。でも、まだ目立つほどじゃないかな」
アメリアは肩をすくめながら微笑む。
「そう……私も何か才能があるのかな」
「それは、きっとこれからわかることだよ」
リリアは優しく答え、ベッドに腰かけた。
アメリアは肩に掛けたバッグを置きながら、今日一日の出来事を思い返す。
森を抜け、草原を歩き、街にたどり着き、色んな人と出会った。
不安もあったけど、少しずつ理解できたこともあった。
「明日から、どうなるんだろう……」
窓の外では、夕陽が街の屋根を柔らかいオレンジに染めていた。
「宿を探さなきゃね」
リリアが地図を指さす。
「この通りの先に、評判のいい宿があるの。少し歩くけど、静かで落ち着ける場所だよ」
アメリアは頷き、肩に掛けたバッグを少し直した。
「うん、行こう」
通りを歩いていると、元気な声が響いた。
「お姉さんたち!癒しの雫だよ!疲れもふっとぶ、奇跡の一滴!」
アメリアは立ち止まり、声の主を見つめた。昼間、街の入り口で見かけた青年だ。
アメリアは興味深そうに青年に尋ねた。
「これは、あなたが作ったの?」
青年は首を振った。「違うよ。僕は売る係。作ってるのは、あっちの少年」指さす先には、長い前髪が目を隠し、フードを深くかぶった少年が小さな机に座り、紙や小瓶を丁寧に並べている。
「彼は味覚魔力分析の才能を持ってるんだ。僕は手伝ってるだけ」
アメリアは目を丸くした。「味覚魔力分析……?」
リリアは微笑む。「才能の一つ。材料の成分や魔力の流れを味わって分析できるの。だから薬の調合や道具の作成に役立つのよ」
その時、黒い制服を着た検査官が歩いてきて少年を止めた。
「待ちなさい。認可印のない品を売るのは禁止だ」
少年は慌てて首を振る。
「ち、違うよ!これはちゃんと安全な——」
「安全かどうかは君が決めることじゃない」
検査官は淡々と小瓶を没収し、周りの人々に向かって告げる。
「この街で販売をするには商人組合の検査を受けること。守らない者には罰金だ」
場の空気がしんと静まる。青年は悔しそうに唇をかんで、辺りを片づけ走り去っていった。
「そんな……」アメリアは手を伸ばしかけて止める。
リリアが肩に手を置き、静かに言った。
「これがこの街のルールよ。自由に見えて、秩序の下に成り立ってるの」
アメリアは小さな肩をすくめ、通りを歩きながらつぶやいた。
「自由に見えるけど、ルールは厳しいんだね……」
「そう。外から来た人には分かりにくいけど、守らないと街全体が混乱しちゃうからね」
通りには光る小瓶や紙のように薄い石、色とりどりの布や果物が並ぶ。アメリアはそのひとつひとつをじっと見つめる。
「……魔力道具も、才能を持った人が作ってるんだよね」
リリアはうなずく。
「そう。作るには才能が必要だけど、使うのは誰でもできるの。だから街の人も、便利な道具に慣れてるんだ」
二人が宿の前に着くと、古い石造りの建物が静かに佇んでいた。木の看板には『宿屋ローズヒル』の文字が刻まれている。
「ここね。落ち着ける場所だって評判なの」
アメリアは少し胸を弾ませながら頷いた。
「うん、行こう」
扉を開けると、柔らかい光が差し込む落ち着いた空間が広がっていた。
木の床はきれいに磨かれ、壁には温かみのある絵画が飾られている。
奥からは宿の主人と思しき女性が顔を出し、優しく微笑んだ。
「いらっしゃい。二人部屋は二階ですよ。荷物は私どもで運びます」
アメリアは小さく会釈をして、リリアに続いた。
階段を上がると、二人分の小さな部屋が用意されていた。
木の匂いと温かい光に包まれ、アメリアは少し安心する。
「ここなら落ち着けそうだね」
リリアが荷物を置きながら言った。
アメリアは窓の外を眺める。
街の石畳、通りを行き交う人々、香ばしい匂い――すべてが昨日までの世界とは違った。
「……街にはルールがあるんだよね……さっきの検査官のこととか」
小さな声でつぶやくと、リリアがうなずいた。
「そうなの。自由そうに見えて、守らなきゃならないことはちゃんとあるんだ」
「例えば?」
リリアは少し考えて答えた。
「商人組合の決まりとか、才能を持つ人が作ったものの扱いとか……魔法道具や薬の販売も、ちゃんと認可が必要なの」
「なるほど……」
アメリアは昨日見た“癒しの雫”の青年や味覚魔力分析の少年のことを思い浮かべる。
――なるほど、だからあんなに慌てていたのか。
リリアはふと微笑んで言った。
「才能って、誰もが持ってるわけじゃないし、使い方も人それぞれよ」
「…リリアは?」
「ん?」
「リリアは才能とか、持ってるの?」
リリアは少し考えてから、目を細めて笑った。
「少しはあるかもね。でも、まだ目立つほどじゃないかな」
アメリアは肩をすくめながら微笑む。
「そう……私も何か才能があるのかな」
「それは、きっとこれからわかることだよ」
リリアは優しく答え、ベッドに腰かけた。
アメリアは肩に掛けたバッグを置きながら、今日一日の出来事を思い返す。
森を抜け、草原を歩き、街にたどり着き、色んな人と出会った。
不安もあったけど、少しずつ理解できたこともあった。
「明日から、どうなるんだろう……」
窓の外では、夕陽が街の屋根を柔らかいオレンジに染めていた。
0
あなたにおすすめの小説
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
【完結】平民聖女の愛と夢
ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。
聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。
「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」
と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。
【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします
ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに
11年後、もう一人 聖女認定された。
王子は同じ聖女なら美人がいいと
元の聖女を偽物として追放した。
後に二人に天罰が降る。
これが この体に入る前の世界で読んだ
Web小説の本編。
だけど、読者からの激しいクレームに遭い
救済続編が書かれた。
その激しいクレームを入れた
読者の一人が私だった。
異世界の追放予定の聖女の中に
入り込んだ私は小説の知識を
活用して対策をした。
大人しく追放なんてさせない!
* 作り話です。
* 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。
* 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。
* 掲載は3日に一度。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる