魔法少女部のそれがし君

気力♪

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魔法少女部のそれがし君

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これは、少年マサミとハジメという魔法少女の日常の一幕だ。

―――――――――――――――――


「魔法!それは子供だけが使える神秘の力!
魔法!それは少年少女の夢をかなえるモノ!

でも、それだけじゃない!大人だって魔法を取りもどせる!この、MAGサプリでね!」

そんな広告が、上空の飛行船から聞こえてくる。

相変わらず、妙なクスリだのが流行するものだな、と彼は考える。

彼の名は、マサミ・モモシロ。高校1年生である。
栗色の髪と目を持ち、一見すると少女にしか見えない小柄で可憐な容姿をしている。少女と呼ぶにはいささか不愛想なきらいがあるが。それでも見た目は少女のモノだ。

「マサミちゃーん!」

そんな彼をちゃん付けで呼ぶのは彼の先輩、”魔法少女部”部長 ”ハジメ・アサガオ”。マサミに負けずの小柄の、笑顔が似合う高校3年生の少女だ。彼女の黄色の髪は魔法力を持つもの特有の鮮やかな色をしている。そのことで周囲の大人からほほえましく、あるいは苦々しく思われているが、彼女は全く気にしていない。

「ハジメ先輩、なんで毎回毎回遅刻するのですか」
「……目覚まし時計が、壊れてて」
「自作にこだわるからそうなるのかと」
「浪漫がわかってない後輩だね!」

そうプリプリと怒る高3の少女。マサミは、どうしてこうも自然体で子供っぽさを残せるのかと疑問に思うばかりである。

もっとも、その子供らしさは決して悪いことばかりではないのだけれど。

「それじゃあ、魔法少女活動!行こっか!」
「今日は珍しく依頼があったのです、きちんとしてくださいね先輩」
「わかってるさ!私の”発明魔法”は今日も万全だからね!」

そうして、二人は歩き出す。

魔法少女部という名のボランティア部の今日の活動内容は、保育園の手伝いだった。

―――――――――――――――――

「おねーちゃん、遊んで―」
「それがしは男だが、了解した」
「わーい」

ハジメが少年を軽々と持ち上げてくるくると回る。それだけで少年にとってはメリーゴーランドかジェットコースターのような体験だった。ひとしきり回った後には「もっかいやってー!」や「おれもやりたいー!」といった声が響いている。

「ならば、二人ずつでいこう。少年、少女、片腕で失礼する」

「「わー!」」

そういって片手で軽々と子供たちを抱えて、またアトラクションと化すマサミ。
彼は3か月にも満たない程度だがこういった子供の相手はよく押し付けられており、その扱いも手馴れるようになってきた。

だが、興奮してくると起こってしまう事もある。この年頃の子供たちならなおさらだ。

「へん!ぼくの魔法の方がすごいもんねー!」
「あ、ずるい!私も私も!」

それは、魔法の使用。コントロールは未熟だが、だからこそ危険なのがこの年代の子供たちの魔法だ。夢を見ることを当たり前にできている彼らの魔法は、純粋で、強い。

だからこそ私立の幼稚園では高い金を払って専属の魔法対策員まだ魔法を使える少年少女を雇っていたりするのだが、民間の保育園ではそうはいかない。それでも子供たちに自由に魔法を使わせてあげたいとこんな”魔法少女部”などにボランティアの依頼を出したりするのだ。

「こら、魔法を使うときはきちんと周りを見てからやるものだぞ」

尚、マサミはその点では尋常でなく有能だった。誰かが傷つく前に魔法の発動を止めることのできるスピードを持っているのだから。

「「はーい!」」

そうして、いつの間にか自由に魔法を使う場になっていく校庭。空を飛び、炎が舞い、風が吹き、氷が散る。

そんな中でマサミは危なそうな魔法を子供たちに当たらないように逸らしたり、空を飛んだ子供が飛びすぎないように注意したりとてんやわんやであった。

だが、その顔はどこか楽しそうでもあった。

―――――――――――――――――

「「「ありがとーございました!」」」
「はい、みんなもマサミちゃんと遊んでくれてありがとねー!」
「それがしも楽しかった。機会があれば、また会おう」

そうして、魔法少女部のボランティアの依頼と、”発明魔法の使い手”であるハジメの依頼は終わった。

そしてマサミは見る。見送りに来ていない少年が一人、首輪をつけて憎々しくハジメを睨んでいることを。

「……先輩、今日はどうでした?」
「……うん、ダメだった」

そうして、ハジメは語る。彼女のもう一つのここに来た理由を。

「あの子、ケン君っていうんだけどさ、魔法を暴走させるしかできなくなってたんだよね。たぶん虐待のせいで」
「信じる力が、弱くなったからですか」
「うん、そう」

魔法の根幹にあるのは、少年少女の”夢を信じる力”。それは、いまだに魔法以外で確認はされていないがほとんど事実としてこの世界に知られている。

大人になることで現実を知り、夢を捨て去ることで魔法はその人間の元を離れるのだ。
それは、この世の変えられない理だった。

だが、大人になるしか選択肢のなかった子供については話が変わる。

彼らは、現実がどんなものかを思い知らされている。しかしそれでも夢を諦めきれずにいるから、魔法は使えてしまう。

自身も他者も傷つけるしかない、呪いになった魔法を。

そんなものをどうにかしようと頑張っているのが、ハジメだ。彼女の発明魔法なら、呪いを魔法に再転換する装置を作れると彼女自身は信じていた。

しかし、彼女の魔法のピークはとっくに過ぎており、出力は日に日に低下している。
全盛期の彼女の魔法でも作れなかったものを高校3年生の彼女が作れるはずはない。そう誰もが思い、彼女への支援は打ち切られている。

それでも諦めきれなかったからこそ、彼女は魔法少女部という活動をやっているのである。

「でも、一応魔法拘束輪は効いてるみたいで良かったですね」
「うん、それだけは不幸中の幸いだよ。魔力の強い子だとあれ引きちぎれちゃうからさ、その時は専用の施設に入れるしかないんだよ」

そんな言葉を吐いたハジメは、どこか寂し気だった。

「もしものことは気にせず、ひとまずボランティアの成功を祝いませんか?」
「お、それじゃあラーメン行こうラーメン!結構いろいろ試したからお腹すいちゃってさー」
「なら、大盛り系に?」
「ごめん、あのもやしの山は私には無理」
「それがしは美味いと思うのですが……」
「そもそも女の子の胃袋はあんなにいっぱい入るようにできてないの!」
「そうでしょうか?」

そう言われたマサミが示した街頭テレビでは、12歳ほどと思われる少女がラーメン10杯を軽々と食べている様子が映っていた。

「ごめん、ああいうのは別で」
「なるほど」
「マサミちゃんのなるほどって実はあんまりわかってない気がするんだよなぁ」

そんな普段通りの会話をしながら二人は食事をとり、家路についた。

その背中を追いかける、数人の影を連れながら。

―――――――――――――――――


そうして、ハジメとマサミが分かれ、ヒカルが住宅街に入り込んだその時にその影たちは動いた。

彼らの年齢はみな幼い。14かそこらの少年少女の4人組だ。

そんな彼らは、奇妙な錠剤を飲み込むことであふれ出した魔力に任せてを引きちぎる。

害意しかない、魔法の使い方だった。

「死ね、アサガオ!」

そんな声と共に放たれる4つの魔法。炎と風と雷と鋼、魔法で作られたそれは狂いなくハジメの体を貫こうとして

「あいにくと、その魔法は通さぬよ」

どこからともなく”降ってきた”、マサミの拳によって全て相殺された。

「ッ!?」
「……マサミちゃん、来なくていいって言ったのに」
「それは断る。先輩は死なせないし、この子ような子らにも人は殺させない。それがしは、そう定めている」

現れたマサミの姿は別れた時のままだ。学校指定の制服に、両手を守るグローブと安全靴。

そして、”魔法を失ったこと”を証明している鮮やかさの抜けた栗色の髪。それだけだ。

「魔法のない奴程度が、邪魔してんなよ!」
「私たちはそいつを殺して解放されたいの!」
「そいつが死ねば、また自由に魔法を使えるんだ!前みたいに!」
「……そのような夢がお主らの魔法の元ならば」

そんな縋るしかない言葉に乗せられた子供たちを見て、変わらずにマサミは拳を構える。

「その悪夢、砕かせてもらう」

その声と共に、マサミは走り出す。

その名乗りに気圧された少年たちは、逃げ腰で魔法を放つ。
しかしそんなものは”それがどうした”と言わんばかりに殴り砕かれる。

その姿は鬼神のごときものであり、生中な覚悟でしかこの襲撃を考えていなかった3人はすぐに戦意を喪失した。

それと同時に消える髪の鮮やかさ。夢を信じれなくなった証拠だった。

そして、鋼の魔法を放った最後の一人とただの拳にて相対するマサミ。

「どうして、邪魔をする?」
「殺しはさせない。そう決めた」
「この女の発明でどれほどの犠牲が出たか知っているだろう?」
「ああ、|か《・?」
「……狂人だね」
「知らぬさ、それがしはただの先輩の後輩だ」

そうして、次第に大きくなっていく魔法の威力。

撃ち込まれた鋼は巨人となり、鍛えただけのマサミを追い詰めていく。

それでも、マサミは下がることをしなかった。
巨人の体躯が大きくなったとしても、それがどうしたと殴りぬく。

そこには、”人間の可能性”という一つの夢が確かにあった。
ハジメという少女が信じている、魔法の源を。

「ねぇ、あなた。どうして私を殺したいの?」
「知れたこと。私の親はあなたの発明に殺された。それだけ」
「そっか……ならごめん。その理由なら私の命は渡せない。だから――」

魔法解放リリースマジック!カウント30!マサミちゃん!」
「ああ。魔装まそう転身てんしん!」

そうして、マサミの衣服が変化する。ハジメの発明魔法により作られたこの改造制服は、彼女の承認をもってマサミを超人にする魔法駆動装甲パワードアーマーと変わるのだ。

その姿は、夕焼け色の機人。頭部を覆うフルフェイスの兜に、全身を覆うラバーのような材質のインナー。そして、各部に取り付けられている魔鋼の鎧。そのすべてが夕焼けを思わせる色合いだった。

その鎧の名は、黄昏。夢の終わりの寸前にハジメが見る光だった。

「また、その魔法で人を殺すのか?アサガオ!」
「殺させぬ。死なせぬ。そのためのそれがしだ」

そうして、30秒間の激闘が始まる。

鋼の巨人を作り上げる少女、その数は8。その異常な量の巨人はそれぞれが単純な構造の武器で武装している。
だが、その魔法の行使には反動があるようで、当の本人は頭を抱えて床に転がっていた。

それでも、巨人たちから伝わる殺意は消えず、マサミを無視してひたすらにハジメの元に走り出していた。

そして、そのすべてがただの蹴りにて両断された。8つの巨人に8つの蹴りだった。

やったことはシンプル。黄昏の脚部装甲の鋭さを利用して鋼の巨人を蹴り斬っただけ。

そのしでかしたことの常識外れっぷりに少女は笑い、最後の一撃にと鋼の矢でハジメを狙う。

その弾丸は当然のようにマサミに握りつぶされる。「化け物どもが」という捨て台詞と共に少女は意識を失った。

それと同時にマサミの黄昏は元に戻る。ただの制服へと。

「カウント30、特に問題はなかったな」
「……うん。それで、この子はどうするの?ほかの3人は逃げたみたいだけど」
「いつもの病院に投げ込んで、それで終わりだ。中学生の魔法の使い過ぎなどどこにでも転がっているモノだろうしな」
「……マサミちゃんは、本当に優しいね」
「それがしは殺しを止めただけだ。そこの理由を考えられるほど要領は良くない」
「ほんとう、優しいんだから」

そうして、今回ハジメ・アサガオ殺人未遂は公にされず、14歳前後の少女が一人魔法の使い過ぎで入院した程度のことになった。

それを可能にしたのはハジメの作り出した修復ドローンの力である。砕かれたりした道路などは3分と待たずに元通りになったがゆえにどこにも被害者はいないのだ。

それが、マサミとハジメの日常だった

―――――――――――――――――

「それで、マサミちゃん。体の具合はどう?」
「すこぶる快調だな」
「……本当に魔法みたいだよねマサミちゃんの体って。黄昏って別にパワーアシストそんなに強くないのに」
「鍛えた体があれば、だいたいのことはできる」
「それ絶対ないから」
「そうだろうか?」
「……本当になんでマサミちゃん魔法使ってないんだろうなー」
「夢がないのだから、使えるはずもなかろうに」
「マサミちゃんが常識を語らないでお願い」
「そうか」
「そうなの」

翌日、月曜日の放課後。二人は部室で先日のボランティアのレポートをまとめつつ戦闘をしたマサミのことを調べていた。

いつものこととはいえ、マサミの体を入念にチェックするハジメの真剣な様子には違和感しか覚えない。そんな考えをしたマサミの顔を睨んで、「このやろー」とじゃれついてくるハジメ。

魔法少女部は、ハジメの命が狙われた後だというのに不思議と平和だった。






―――――――――――――――――


これは、両親を戦争で亡くした少年マサミと、その戦争の引き金を作ったハジメという魔法少女の日常の一幕だった。


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