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前編
しおりを挟む「キミの行為はあまりにも目に余る! だから、キミを勇者パーティから追放する!」
ここは、ファームの街の冒険者ギルドの酒場。そこでは、“ある意味名物と化している”勇者エルのパーティメンバー追放劇が始まっていた。
今日の追放対象は、魔剣士ソウル。魔法の力のこもった剣“魔剣”を巧みに操るこのファーム有数の実力者だ。
「ど、どうしてだエル! 理由を教えてくれ!」
「え、えっと……そう! キミの女遊びは目に余る! そんな人間が勇者パーティにいるなんて言語道断だよ!」
この時点で、ギルドの空気は緩んだ。
初めからさほど緊張などしていなかったのだが、万が一がある! と賭けをしていた連中が大穴狙いの奴を煽っているのがソウルの目には見えた。
「ああ、わかった。追放は受ける」
「そっか、よかった。あ、安心して! 次にソウルが行けそうなパーティには心当たりがあるんだ!」
「俺もある。というわけでグレース、面接頼む」
「え?」
「採用で」
「え?」
そうして、ソウルは次のパーティへの面接を受けて、そのパーティのサブリーダーである魔女グレースは即採用を決定した。
「改めて、俺はソウル、魔剣士だ。勇者エルのパーティに加わることができて光栄だ!」
「流れ作業的に帰ってきた⁉︎」
「だっていつものことだし」
ちなみに、ソウルが追放されるのはこれが24回目、パーティで最も“少ない”回数だ。
「しかし俺とは久しぶりだな」
「エルが空回ってバカをするのはいつものことですが」
「扱いが雑! 僕だって真剣に考えてるんだからね!」
「「それは知ってる」」
「だったらちゃんと僕の意思とか尊重してよぉ!」
そう言ってテーブルをバンバン叩くエル。その様子を呆れたような目でソウルとグレースは見ていた。
◇ ◆ ◇
そうして、若干13歳のエルの感情を無視してわいわいと安酒を飲むソウルとグレース。
現在、勇者エルのパーティのメンバーは6人。そのうち、研究やら修行やらバイトやらで忙しく3人はこのギルドの酒場にはいない。
だが、それでも勇者エルの扱いは変わらなかった。
「あーもう! 僕も飲む!」
そう言って自棄になったエルはブドウジュースを飲み、そして安酒の匂いだけで場酔いしてへろへろになった。
「なんでだよぉ。僕が追放って言ったんだから素直に聞いてよぉ」
「で、今日はどうしたのさ」
「……聞いちゃったんだよ」
「何を?」
「ソウルみたいな剣士は、僕には勿体無いって」
「「……へぇ?」」
瞬間、ソウルとグレースの体から酔いが抜ける。
「僕もよく分かるよ。ソウルは強いし、カッコいいし、頼もしいし、ちゃんと“助けられるやり方”を考えてから動けるし」
「だからさ、ソウルはちゃんとした勇者の元で、世界のために力を振るうべきだって思うんだ」
「だから、僕のパーティにいるべきじゃないんだよ、ソウルは」
そんな泣き言を、エルは言う。
エルの気持ちは、自己評価の低さから生まれている。それは、100人の勇者の中で最も弱い事が発端だ。
他の勇者には力がある。聖剣や精霊の加護、召喚獣や変身デバイス。人型ロボットに戦闘機、果ては巨大宇宙戦艦まで。なんでもありだ。
だが、エルにはそれがない。
特殊なスキルも、強力なステータスも、無敵の装備も何もない。
ただの、数合わせの勇者。それがエルに与えられた評価だった。
だが、そんなことはどうでもいい。
「エル、何度も言うが俺たちは好きでお前の仲間をやってんだ。だからちょっと待ってろ」
「ええ、少し眠っていてください」
「うん……」
そうして、場酔いだけでエルは眠る。そんなエルの頭をひと撫でして、ソウルとグレースの二人は酒場を出る。
行先は、エルの聞いたという妄言を言った人物のいる“っぽい”連中のたむろする酒場。
「行くぞグレース」
「ええ、ソウル」
「「俺/私たちの勇者を舐め腐りやがったクソどもは、徹底的に潰してやる」」
そうして、その酒場。“アウトブレイク”へとたどり着いた二人は、とりあえずの挨拶でスイングドアを店の壁まで吹っ飛ばす。
「な、何だテメェらは⁉︎」
「こ、コイツラは勇者エルのパーティ⁉︎」
「最悪だ! ソウルとグレースじゃねぇか!」
「誰だ! 地雷踏んだのは誰だぁ!」
「えー、皆さんに言っておくと、この中に俺たちの勇者エルを舐め腐りやがったクソがいます。名乗り出るなら、全員潰します」
「勿論、名乗り出なくても潰します。当然ですよね? すぐに否定しなかったと言うことは私たちのエルに対してそんな事を内心思っているという事なのですから」
「雑魚勇者の何がいいんですか? 数合わせに呼ばれただけのガキなんですから、選ばれたなら私だって勇者やれますよ」
そんな事を宣ったのは、最近ファームの街にやってきた冒険者。Sランクの実力者である『斬鉄のシグルーン』だった。
瞬間、酒場の面々は動き出した。あるものが酒場の壁を蹴り壊し、そこから脱兎の如く脱出する。逃げ切るまでにかかった時間はわずか3秒。
その間にシグルーンは抜刀し、ソウルの一撃を受け止めていた。
「……この一撃、やっぱSランク級じゃないですか」
「勇者パーティの一員だぞ? 当たり前じゃねぇか」
そうして、ソウルは“己の体から魔剣を抜剣する”。
持ち主の体内に寄生して、その生命力を喰らう魔剣が、このソウルの剣だった。
「何故そんな力をこんな辺境で腐らせる⁉︎勇者に囚われる必要なんざ無いだろうに!」
「お前みたいな“力”しか見てない奴には、一生分からねぇよ」
そうして、ソウルとシグルーンは切り合いを始める。
シグルーンの剣は軽やかで、鋭い。対してソウルの剣は一撃の重いタイプだ。
自然とシグルーンが攻勢に出て、ソウルは守勢となる。
しかし、シグルーンの剣は全てソウルに防がれた。
シグルーンの剣は鉄をも切る。しかしそれは一撃一撃の正確さがないという事ではなく、一撃一撃全てが鉄をも切れる正確無比な斬撃という意味だった。故に、ソウルの魔剣といえどまともに受けたら斬られるだろう。
だから、ソウルは受け流し、弾き、躱していた。
「やはり、お前は良いぞ魔剣士ソウル! その剣も! 力も! 強者のモノだ!」
「お前がどうしてそんなに力だの強者だのに拘るのかは知らん。だがな……」
「強いだけの雑魚が、粋がってんじゃねぇよ」
その言葉とともにソウルは魔剣を手放し、シグルーンの顔面に拳を叩き込む。
その拳はシグルーンの鼻をへし折り、一撃でその意識を奪い取った。
「グレース、他の連中は?」
「結界魔法で閉じ込めています。どうしますか?」
「……今回はこの女がイキっただけみたいだから、見逃してやろう。それと治療も頼む」
「賠償金は少ない方がいいですもんね」
「本当にな」
「「あぁ、また賠償金の為に働かされるのか……」」
そんな言葉をこぼしてから、いつものように二人は帰るのだった。
◇ ◆ ◇
明けて翌日。ソウルとグレースはいつものようにギルドからの厳重注意と賠償請求を受け、ギルドクエストを強制的に受注させられるのだった。
「ねぇ、ソウル、グレース。僕言いたい事があるんだけど良いかな?」
「どうした? エル」
「いっつも言ってるけどさぁ!」
「喧嘩する前にはちゃんと話し合わないとダメだから! 問答無用で殴ったりしたら何も分からないよ!」
「「本当に申し訳ない」」
「その言葉、僕何回聞いたかなー?」
その時のエルには、さほど迫力はなかった。ただ、それ以上に自分たちを心配してくれているのだと分かったソウルとグレースは、自然と思った。
この日常が、守るべき世界なのだと。
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