残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります-

気力♪

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第一戦 VSシリウス 少年と臆病者の剣《チキンソード》

ダイナという剣士との出会い

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 病室に入ってきたのは足柄と栗本。どちらも表面上は笑顔だが、足柄は明らかに怒りがにじみ出ている。
 それはやはり今回もまた死人が出てしまったという事が原因であり、それにまた関わっている琢磨についてでもあり、なにより、2度の戦いを後から知ることしかできなかった自分たちの不甲斐なさからの怒りであった。
 栗本の怒りが見えていないのは、年季の違いだろう。

「今度は結構目撃者は出てきたよ。影の狼じみた奴について」
「まぁ、あれだけ暴れてればそうなりますよね」
「……そんなに多かったのか? 狼は」

 異界ができてからずっと人狼と戦っていた裕司がそんなことを言う。人狼との素手での戦いは、他所に目を向ける余裕なぞない激しいものだったからだ。

「5匹ほど他にいました。……殺されたのは、たぶんもっといます」
「そのあたりのことも話してくれるかな? 今回は君たちがこの異界を破壊したんだから」
「……俺はバイト帰りに人狼に襲われている人を見かけて、助けに入ったことしか覚えていない。無我夢中だった……でしたから」
「あ、敬語はいいよ、楽にしてて」
「……助かります」
「俺の方は、報告書的なの書いたんでそれでお願いします」
「こっちの子は順応性高いね……さすが若さだよ」

 そういって琢磨とメディが作った報告書を読む足柄と栗本。次第にどちらも苦々しい顔になっていった。なにせ、病弱中学生が街を走り回って狼と人狼を殺したという事が状況証拠としてそろってしまったのだから。

「琢磨君、この魂が表に出る異界ってのの出典、帝大の研究論文を引用してるみたいだけどどこからそんなの引っ張ってきたの?」
「あの牧野とかいう白衣か?」
「ああ、さっきすれ違った美人さんか。友達なの?」
「……最初の事件の生き残りの方の友人だそうです」
「そっか……」
「あまり感傷に浸るな足柄、今日は後がある」

 思わず拳を強く握りしめる足柄は、栗本にそれをたしなめられていた。栗本も、何も思っていないわけではないというのにだ。

「じゃあ、いくつか質問ね。今回は異界の端に出たそうだけど、全開との違いに心当たりは?」
「……外出してなかったくらいです、心当たりは特に」
「じゃあ、非常識な心当たりは? 例えば、《Echo World》中で何かやったとか。
「そうですね……」

「前回の周でゲームオーバーの引き金を引いたのは俺でした」

 その言葉とともに大きくやらかした前回の周のことを振り返る。

 ■□■

 内部ではどうせ会話もできないのだし別行動にしようといったタクマは、ヒョウカと別れてまず武器の調達へと赴いていた。

 行先は一周目であの剣を借りた武器屋。最悪盗むのも考えつつも剣を手にしたいと思ったのだ。このゲームは、アクションの部分がかなり高難度であることがその理由だ。初心者でいきなりあの狼を倒せ、というのはいくら何でも不親切すぎるだろう。

 そうして武器屋に向かったタクマは、かなり清潔で、整っている様子からここは高級店なのではないかと思い始めた。メディの声で頼みか何かを聞いてどうにかしてもらう、もしくは盗むつもりなので、なにかファンタジーなセキュリティがあったら大変だ。そう思っていると、落ち武者のような雰囲気の中年が武器屋に入っていくのが見えた。
 どうやら高級店ではないようだと少し安心し、触れない扉を内部に入る。

 それは現在ののっぺらぼう、第0形態のアバターの特徴だ。薄い壁ならすり抜けることができるし、この世界の人間たちからは基本的に認識されない。ただし声もかけることはできない。生命転換ライフフォースにて魂を起こさないと姿は見えないのでコミュニケーションは難しいが、その程度だ。

 そうしていると武器屋の店主と中年が話始める。どうやら、臆病者の剣チキンソードを折られた奴が現れたのだそうだ。名前の酷さに少し驚くが、その二人は愉快気だった。

『武器が壊されるのって最悪だと思うんだが……』
『この世界の文化かもしれませんね、理由は想像つきませんが』

 タクマとメディはそんな会話をしながらも、周囲を見渡す。そうしていると、雑に剣が詰め込まれている樽の中に見覚えのある柄を見つけた。世界規模のループによって壊れたあの剣は直ってくれたようだった。ありがたくその柄を握ろうとするも、その手はすり抜けてしまう。これも第0形態の特徴だ。“命が込められていないモノに触れることはできない”という事なのだろう。最初の周では誰かがこの剣に命を込めてくれたのだろうか? とタクマは考える。そうならばと、そのことに感謝の念を覚えた。形だけでしかないが、死人のことは尊ぶことにしているのだ。

『提案、生命転換ライフフォースを使ってみますか?』
『ああ。触れないんじゃあ盗めもしない。なんかクエストでもあることを祈ろうか』

 そういって、自身の心の中の枷を外す。丹田から産まれる命の奔流に身を任せ、琢磨のアバターは顔形を持つ姿に変化した。

 そうして剣を手に取りその中身を確認する。頑丈さを誇示するようなぶ厚い刀身、90センチほどの長さ、その見た目に反する軽さ、そして、飾り気などどこにもないその実用特化の武骨さ。そのすべてが先日の剣であることを示していた。

「お、コイツ良いモン持ってるな。坊主、名前は?」
「はい、明太子タクマです」
「「明太子?」」
「人生の先生からのリスペクトと好みです」
「好みかよ」
「儂としては先生とやらが気になるがのぅ」

 そう話しながらもかなりの体力を消耗するタクマ、生命転換ライフフォースは生命そのものを消費するのだ。

「ていうかいつまで全開にしてんだお前、抑えろ抑えろ」
「……起こし方は覚えたんですけど、抑え方わからないんですよ」
「その強度の命を扱えるのにそれか。随分な剣士だな」
「ま、そのうち慣れるさ。で、お前さんの目的はその剣だろ? 見た目からして金はねぇみたいだが、どうすんだ?」
「とりあえず幾らなのか確認したかったんです。良い剣ですから」

 その言葉に目の色が変わる店主。それを見てクツクツと笑う中年。タクマは気に入られたようだ。それもそのはず、タクマの選んだその剣こそが臆病者の剣チキンソード。新参の騎士が扱う剣であり、戦い慣れた者にしかその本当の価値はわからない隠れた名剣なのだから。

「そいつに値段はねぇよ。売りモンじゃねぇからな」
「自分にできることなら何でもします。どうかこの剣を俺に」
「なら、そこのそいつと一合合わせろ」
「……はい!」

 そうして剣を抜くタクマと、「俺の意見は無視かよ」と呟く中年。そのどちらにも殺気と見まごうばかりの剣気があふれ出ていた。正確には、タクマの剣気に合わせて中年が調整しているだけなのだが。

 それが理解できているからこそ、タクマは小細工なしの全力の一刀で挑むことを選んだ。正面からではどうあがこうと勝ち目はない。だからこその正面突破だ。

 タクマの学んだ格上殺しの剣の本質は、相打ちにこそあるのだから。

「一応忠告しておくけど、そんな剣だと長生きできないぜ」
「どうせ死ぬなら恥なきようにと学んだもので」

 そうして、タクマの一撃が放たれる。最短最速の大上段。それは確かにタクマの全力であった。

 しかしその剣は柔らかく、そして美しく中年により受け流された。その剣に込められた力がどこに消えたのかタクマにはわからないほどの絶技だった。

 だが、まだだと思ったその時にタクマの首筋に剣が添えられる。文句なし、完全無欠のタクマの敗北だった。

 そうして、自然と剣を収めた二人。

 中年は真摯にタクマの目を見て、タクマはそこに感じた人生で2度目の感覚を噛み締めながら礼をした。己が歩めない剣の道、しかしそうだとしてもそれがこの至上の剣士に対しての礼だと信じて作法通りに丁寧に。

「手合わせ、ありがとうございました。いずれまた挑ませていただきます」
「……いや、コイツは驚いた。てっきり食って掛かるもんだとばかり」
「情けで長らえた命です。それに礼を尽くさないのは鬼以下の畜生と学びましたので」

 そういってタクマは剣を見る。傷や痛みがないことを確認して鞘に戻し、店主へと渡し、頭を下げた。

「いずれ、精進の後に」
「いや、その必要はねぇよ。その剣はお前に譲ってやる。一つ頼み事を聞いてくれるならな」
「よろしいんですか?」
「ああ、ただし破ったなら承知しねぇぞ」
「南の廃砦に妙なのが住み着いたって話だが、騎士団は今いろいろあって動けねぇ。だからそいつを調べてきてくれ。報酬はその剣で前払いだ。どうする?」
「承りました」
『ですが、私たちはこの世界の地理をほとんど知りません。地図を頂けますか?』
「メディさん、いきなり出てくるなって」
「妙なのに取り憑かれているのなお前。地図はこれだ。こっから出て、こっちの道なりに行けば廃砦だ」

 なんだかこのゲームの方々の順応性が高すぎるような気がするタクマと、AIは悪霊の類なのだろうかと少し思考のリソースを割いたメディは地図を見る。

 森の中に作られた道を行けばそう迷わずにたどり着けそうだ。

「じゃあ、行ってきます」
「あ、途中までは俺も行くわ。坊主は生命転換ライフフォースの使い方がアレだからな、道中で多少修正してやるさ」
「よろしくお願いします! 師匠!」
「今はダイナと名乗ってる。そっちで呼んでくれむず痒い」
「はい、ダイナ……し、師匠」
「……いや、まさかまた呼ばれるとはな。台無し師匠」

 どうやらあからさまに偽名なダイナは、誰かに台無し師匠と呼ばれた過去があるようだ。タクマは決して狙ったわけではなく、さんと付けるには尊敬の念が強く、しかし先生と呼びたい人は一人だけなので、どうしようか迷った挙句のことだった。台無し師匠などとまだこの時のタクマは思っていないのだから。

 もっとも、わずか10分で「酒場に寄り道をしよう!」と言い出すことでその認識は覆るのであるが。
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