残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります-

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第三戦 VSアルフレシャ 自称王女と螺旋の槍

異界殺人鬼タクマの日常の終わり

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 ロビーにて開かれた異界への門。
 その中の白いエリアには、必死の形相で剣を振るうタクマと、それを適当にあしらうダイナがいた。

「おいおいおい、いつもの自由さが消えてんぞ?」

 ダイナがそんな軽口を叩ける程度には、タクマの剣は精彩を欠いていた。ありとあらゆる手段での殺人論理のもと殺しにかかるのがいつものタクマであったが、今はひたすらにゲートの切れ味と生命転換の出力でのごり押しになっていた。

 それは、今のタクマの精神の余裕のなさに起因する。 

 タクマの現実は今、日常とは程遠いところにあった。

 ■□■

 事の始まりは、あの異界事件の映像が流れ出た時の事だ。琢磨はそれをさほど重要視していなかったが、そんな狂人の理屈が世間一般の常識になるわけもなく、琢磨は多くの”善意の人”達の標的にされた。

 SNSは当然として、動画などのメディアにて”明太子タクマ”という一人のプレイヤーへのバッシングは強まっていた。

 しかしそれだけなら、タクマは耐えられただろう。何せ原因は自分にあり、その主張は当然のモノだったのだから。

 だが、”善意の人”たちはそこで終わることはなかった。

 異界殺人鬼風見琢磨はなぜ生まれたのか? その答えはVRゲームにある。そんな世論から多くのVRゲームは規制された。琢磨の恩師のいるVR剣道も早々に寄生されてしまったのだ。
 そのことで、琢磨を憎む声は増えた。

 異界殺人鬼風見琢磨はなぜ生まれたのか? その答えは彼の境遇にある。そんな世論から琢磨の通っていた院内学校や中学校に及び、多くの調査がなされた。その結果見つかった”様々な問題を抱える子供に対しての対策”が過剰なのではないかという声の下、少なくない制度が縮小、あるいはなくなった。
 そのことで、琢磨を憎む声は増えた。

 異界殺人鬼風見琢磨はなぜ生まれたのか? その答えは彼の人間関係にある。そんな声から琢磨の知り合いたちは標的にされ、自然と琢磨を敵視するようになった。
 同じように敵と戦った自衛隊や警察を含めた旧ボランティアスタッフ、現”特殊空間対策連合部隊”の皆もその罪を受け入れさせるべきだと声高に叫んでいる。
 大切な姉を琢磨に殺された裕司は理性では納得しながらも琢磨に対して怒りを抑えられないでいた。
 そして、琢磨の最も大切な人たち。氷華と凪人は多くの”善意の人”からあらぬ疑いをかけられ、誹謗中傷を浴びせられ、まともな生活を送ることができなくなっていた。凪人の治療を待つ多くの患者の中に、あるいは奇跡の生還者御影氷華に勇気をもらった多くの人の中に、琢磨を憎む声を上げる人がいた。


 そして、それら多くの人々の暴走が大きなうねりになった結果、琢磨の、凪人の帰る家は放火された。やったのは、琢磨に家族を殺された近所の駐在だった。

 その火はすぐに消し止められることはなく、琢磨の家の多くのモノを、多くの日常の思い出を焼き払っていった。実の両親からの形見のモノたちも含めて。

 それが最後のトドメとなり、琢磨は風見の家から出ることを決めた。
 篠崎以外に誰にも行先を告げることはなく、一人で。両親の遺産を食いつぶしていきながら。

 そうして、バイクで様々なところを逃げ回りながら《Echo World》にログインしているのが、今のタクマであった。

 ■□■

 ある日、プラクティスエリアにあてもなく向かおうとした琢磨の眼前にその異界への門は現れた。
 周囲を見回すも、このゲートに気づいたものはいない。そして、そのゲートには見覚えがあった。
 タクマがダイナに導かれて通った、あのゲートだ。

『マスター、どうしますか?』
「行こう。行かない理由は俺にはない」

 そうしてタクマは躊躇いもなくゲートへと入る。

 そんなタクマを待ち構えていたのは白い部屋で横になってビールを飲んでいる現代衣装のダイナだった。
 タンクトップに腹巻と、少しリラックスが過ぎている気はするが。

「師匠、何の用ですか?」
「まぁ、いろいろあってな。お前に頼みたいことができた」
「……頼みたいこと?」
「おう、代わりにっちゃなんだが。成功報酬として異界の情報を開示する用意がAIの嬢ちゃん……マテリアにはあるらしい。だがまぁ、お前にはいらんだろうがな」
『マスター、明らかに態度が異常です。今までも隠していませんでしたが、ダイナ様が運営側のNPC、AIであることを明言しています』
「その辺はいいだろ。今回もどうせ適当だろうし」
「おう、よくわかったな」
『ダイナ様、そこは認めるべきではないかと。私が言う事ではありませんが』

 そんな言葉にからりと笑った後で、ダイナは一言こういった。

「依頼内容は、聖剣の捜索と調査だ。この前の週での戦いのときに目覚めたヤツがあった」
「……聖剣?」
『あの世界における聖剣とは、自身の武器のことを指すのではないのですか?』
「ああ、合ってるぜ。正確に言うなら聖剣ってのはどんなものにも目覚めうる”聖剣現象”を指した言葉だ。人の魂に触れたモノが、意志と力を目覚めさせるもんだよ」
「……その聖剣現象ってのはがどうだってんです?」
「もし、その目覚めたモノが”生命いのちの聖剣”だった場合は……世界が滅ぶ」

 そんな言葉を、あっさりと吐くダイナ。先ほどまでのおちゃらけている様子は消えていた。

「……どういうことですか?」
「お前たちの世界を襲っている連中の狙いは”生命の聖剣”のもつ世界の命に干渉する力だ。それをもとに世界規模の捕食を起こすつもりなんだよ。あの馬鹿は」
『VR世界から、現実世界への侵食……』

 プログラムにて生まれた存在であるメディはその”甘い夢”に対して心惹かれるものがなかったわけではない。頭の中からではなく、隣でこの妙なマスターを支えてみたいという願いはずっとメディの中にはあったからだ。

 だが、その程度ではメディの決められた、そしてメディ自身が決めた役割を放棄することを良しとはしなかった。

「メディ?」
『大丈夫です。マスター……ダイナ様、それは、ダイナ様が直接赴くことでは解決しないのですか?』
「ああ。俺は奴のゲートによって起こされた残響の一部だからな。肝心なところで動けねぇ」
『それは、マスターがしなければならないことですか?』
「嬢ちゃんの想定では、聖剣が目覚め始めるのはあと5つは試練を超えた後だったらしい。それまでに見込みのある奴らをこっち側に引きずり込むつもりだった。……だが、今はお前さんしか使える駒がいねぇ。防衛はまず無理だろうな」
「師匠の怠慢じゃないですか」
「そう言うな。本当の命がけの殺し合いへの適正を持ってる奴なんかそうそういねぇんだよ。生半可なやつはむしろ邪魔だ……って、話が逸れたな。それで、受けるか?」
「もし受けなかったら?」
「そんときゃ、別の奴に頼むさ。Mrs.ダイハード、だったかね?」

 その瞬間、タクマはダイナに対して勝てる勝てないを考える前に切りかかっていた。

「ざけんな、氷華は命がけの戦いを望んでるような"こっち側"の奴じゃねぇんだよ」
「望んでなくても、やらなきゃ死ぬならやるだろあの嬢ちゃんは」
「……そうか、なら受けるさその話。──けど、あんたに八つ当たりくらいはさせてもらう」

 そうしてタクマは全力でダイナへと切りかかっていき、10分ほどで倒れ伏した。

 それは実のところ戦いにはなっていない。
 ダイナからタクマへの奇妙な修行と、慰めだった。

 ダイナの剣にあったのは、立ち直れという一つの意志だけ。
 そんなまっすぐな剣と切りあっていたのだから、タクマは多少元の自分を取り戻すことができて当然だろう。

 実際修行の終り頃では殺戮に対しての戦闘論理構築は戻っており、ダイナの腕に浅い切り傷一つを付けるほどの奇策を編み出して見せるほどだった。

 それに対しての反撃でタクマは吹き飛ばされ、地面に転がされ剣を突き付けられているのだが。

 そんな状況で、タクマはダイナにモノを言う。

「あんた、最初からこうするつもりだったんですか?」
「まぁ、剣を振ってりゃいろいろ頭から抜けるだろ」
『私にはまったく理解できませんが、今の戦闘によりマスターのストレス数値が軽減したのは事実です。感謝します、ダイナ様』
「おうおう、感謝しろ」
「そういうところで妙に子供っぽいから威厳がなくなるんですよ、ダイナ師匠」

 そんなやり取りの後に、タクマはダイナの申し出を受けた。

 聖剣の探索、調査。そしてそれが"生命の聖剣"であるならば、奪取すること。それがタクマへのオーダーだった。

 ■□■

 ダイナから"聖剣現象"と”生命の聖剣”のデータを貰ったタクマは、一人ロビーに出る。

 周囲の視線が煩わしいが、それでも切りかかってくるものは少数であったためにタクマは気にせず前の周の動画を見ていると、ふと周囲の音が止んだ。

『マスター、顔を上げてください』
「時間がない。このまま話すよ」

 そんなタクマの前に現れたのは、ヒョウカだった。

「タクマくん、ちょっといいかしら?」
「よくない。だから帰れ」
「嫌よ、ようやく見つけたのだもの。私の愛してる人を」

 そんな言葉を堂々と話すヒョウカはの仮面は、どこか弱弱しかった。
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