君と旅をするために

ナナシマイ

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1章 旅は始まっている

嬉しい時間

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 タックスの丘でたくさんのフレニアを採取したわたし達は、湖の西側にある低い山の中にいました。
 次の街までは少し距離があるので、今夜はここで野宿をすることにします。結界を張って寝袋の準備をしていると、フレッド君が、「ちょっと良いか?」と話し掛けてきました。

「明日だが、街に入る前にこの大量のフレニアをどうにかしてくれ」

 ……え?

「俺はリュックに花を付けたまま街に入りたくないし、お前は公共の調合室を使いたくないだろう?」
「わぁ、調合の時間を貰えるのですか!? さすがはフレッド君です、ありがとうございます!」

 うきうきしながらにんまりと笑うと、「俺が許可するまでも無かったか……」とフレッド君は溜め息をついていました。
 と、とにかく、明日の予定はフレニアの調合に決定です!



 次の日。日が昇り、辺りが薄っすらと明るくなった頃にわたしは目覚めました。フレッド君も起きたばかりの様子で、寝袋を片付けていましたが、すぐこちらに気がつきます。

「お前、こういう時ばかりちゃんと起きるのな」

 やはり溜め息をつかれてしまいましたが、今日は調合の日ですからね。わたしだってやる時はやるのです。
 簡単に朝食を済ませ、リュックの中から二つの布袋――大事な調合セットです――を取り出します。いくつか空の小瓶と、フレニアの花も一緒に抱えました。

「じゃあ俺は鍛練してくる。近くにはいるつもりだが、何かあったらすぐ呼べよ」
「わかりました。フレッド君も気をつけてくださいね」

 彼が少し離れた場所で身体を動かし始めたのを確認したら、調合の準備開始です。
 一つめの布袋の中身は、三枚の金属板と一本の金属棒。その全てにロツという紫色の宝石が填められて、中には魔法陣が刻まれています。
 もう一つには、液体や粉の入った小瓶がいくつか。

 まずは金属棒の宝石に魔力を流します。棒は一瞬ぽうっと光り、次の瞬間にはナイフの形になっていました。宝石に刻まれた魔法陣によるものです。それからフレニアの花を一本持ち、“気”と魔力の様子を確認します。

 “気”は自然そのものの力です。それは生命力であったり、強い感情の力であったりもします。

 魔力とは、その“気”を生き物が扱うことができる形に変換したものです。魂を持つ者が“気”に触れると、その許容量まではほぼ自動的に、魔力へと変換されていきます。
 つまり、魂を持つ生き物というのは基本的に、多かれ少なかれ魔力を持っているのです。

 また、その性質を示すものに属性があります。
 実体と“気”、魔力は互いに影響を及ぼし、たとえば湖の近くは水属性の“気”が多くなりますし、逆に火属性の“気”の中では物が燃えやすくなるのです。

 とにかく、フレニアにも魂があれば魔力を持つ「魔花」という事になりますが……いえ、本当は確認するまでもなくわかっていましたが、魔力はありませんでした。元の風属性に加えて水属性の“気”を持つだけの、正真正銘、ただの花です。
 魔花であれば扱いを変えなければいけませんが、今回は普通に、金属板の上で花、茎、葉に切り分けていきます。

「先に、魔法具を作ってしまいましょうか」

 “気”を含みやすい植物は回復薬にすることができます。その植物が持つ“気”と同じ属性の魔力を回復してくれるのです。
 アルレの回復薬が良い値段で売れるのは、“気”を含みやすいどころか、吸い込むという性質による回復速度の速さ。それに加えて、全属性に対して有効な万能回復薬だからなのです。

 というわけで、このフレニアからは風と水の回復薬が作れるのですが、一旦後回しにします。
 実は、フレニアには部位によって専用の用途があるのです。属性が増えたことで、変わった性質が見られるでしょうか? ……ふふ、これは楽しみですね。

 切り分けた花を手に取りました。四枚の花弁で一組、遮音結界の魔法具を作ることができます。空気を揺らすことで範囲の内外で音を断絶する、所謂、盗聴防止用の結界です。

「あ、蜜……」

 早速花弁を取り外そうとして、蜜の採取を忘れていた事に気がつきました。フレニアの花の蜜は、とても甘いのにさっぱりとした口当たりで、ミルクに入れても、お菓子に使っても美味しいのです。
 けれども、“気”を多く含む蜜の採取は少し手間がかかります。
 花が花粉の運び手に望むのは、花粉が余計な属性の“気”に触れないよう運ぶこと。花の持つ“気”の属性の魔力で雄しべを包んであげないと、蜜が出てこないようになっているのです。

 早速杖を出し、自分の魔力を、風と水の属性だけになるよう変換しました。それで雄しべを包むと蜜腺が開きます。
 風魔法で蜜を吸い上げて小瓶に入れると、その量の少なさに愕然としてしまいました。だって、二滴分くらいしか無いのですよ? わたしの頭よりも大きな花なのに、たった二滴って……。これでは、普通のフレニアと変わらないではありませんか!
 がっかりしつつも全ての花から蜜を採取すると、何とか小瓶一本弱くらいの量になりました。試しに少しだけ、舐めてみましょうか。

 ……そう、これです! この甘さ!

 期待通りの美味しさに、思わず顔が緩みました。とろけるような甘みを口の中で少し転がしてみましたが、少量なのですぐに溶けて飲み込んでしまいます。

「……えっ」

 飲み込んだ瞬間、カッと全身の血が熱くなりました。けれどもそれは一瞬で、何もなかったかのように熱は引きます。

「……?」

 慌てて自分の身体を確認し、念のため毒探知の魔法も使ってみましたが、特に異常は無さそうです。ほぅ、と息を吐きます。よくわかりませんでしたが、これで遮音結界の魔法具を作ることができますね。

 別の金属板の宝石に魔力を流すと、板が変形して鍋になります。
 そこへ一組の花弁を入れ、小瓶に入った鈍い金色の粉をひと振り。鍋の中を混ぜながら、花弁が浸るまで魔力を注ぎました。
 それから花弁に、少し複雑な魔法陣を描きます。
 遮音結界の魔法、魔法具の形を決める魔法、魔法陣を物体に固定しておく魔法、それから魔力を流しやすくする魔法などを組み合せたものです。

 魔法陣を発動させると、鍋の中の魔力が少しずつ減っていきます。それを調節しながら金属棒で混ぜていると、少しずつ花弁が圧縮されて、鎖で繋がった、四つの立方体ができあがりました。

「見た目は問題なさそうですね」

 ということで、性能の確認をしましょう。
 魔法具は、魔法使いではない、魔力を少ししか持たない人でも使えるようにするものでもあります。確認のために流す魔力は、わたしにとってはごく微量。というより、流し過ぎないように注意する必要があります。

 魔法具が発動すると、わたしを中心に四つの立方体が散らばり、薄いヴェールの様なものに囲まれた結界が張られました。立方体を手で動かせば、その通りに結界も動きます。

「わぁ、かなり広い範囲を囲めますね」

 限界まで広げたところで、結界の外側に魔法陣を描き、適当に音を鳴らします。

 パァン!

 あれ、聞こえますね。失敗でしょうか……? 水属性が含まれている事で上手く遮断できないのか、と原因を考えましたが、一応最後まで試してみることにします。
 今度は結界の外側に出て、内側に先程と同じ魔法陣を描いて発動させます。

 ……。

 面白い結果に、わたしはにっこりと笑いました。

「おい、今変な音がしたが大丈夫か?」

 声に振り向くと、フレッド君が心配そうな顔で立っていました。仕留めたのでしょう、手には鳥を持っています。空を見上げると、太陽は結構高い位置にありました。

「実験をしていただけなので、大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます」
「昼にするぞ」

 フレニアの茎を何本か渡すと、フレッド君は鳥とフレニアの炒め物を作ってくれました。
 わたしは隣で、余った茎を使って回復薬を作ります。……料理、苦手というわけではないのですけれど。調合の方が、楽しいものですから。

 美味しい昼ご飯を食べながら、わたしは午前中の成果を話すことにしました。
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