雨音は鳴りやまない

ナナシマイ

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第二章

ペンは木で、手紙は鳥で(2)

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 魔法石。それは、飽和するほどの魔力を込めることで物体を変質させたものである。
 土や砂のような無生物から、草花、鳥、はては人間まで、なんでも魔法石にすることができるという。

 魔力を込めて魔法石を作るときにクァジを演奏することで魔道具の特性が加わり、魔法石を核とする魔道具ができあがるのだ。

「――つまりアクゥギは、イェレキに魔力を込めて魔法石にし、そこに改めて楽器としての特性を加えて作った魔道具、ということになる」

 ……なんだか信仰心に欠ける言いかただな、とわたしが思うのと、コホン、と壁ぎわに立っているウェファが咳払いをするのは同時だった。
 そのウェファを一瞬見遣ったデジトアは、溜め息でもつきそうな表情で付け足した。

「……クァジに込められた美しさにより、魔道具の形や性質は異なる。これは、神が一人ひとりに合わせて与えてくださるからだ」

 わたしはこの世界に神さまがいることを知っている。ヒィリカは神さまを呼び出していたし、わたしも神さまに話しかけられたのだ。だから今デジトアが言ったことも本当なのだろうと納得できる。
 けれども、いざ神さまに会う方法を探すためにやってきた木立の舎では、人と神さまの距離が遠いように思えた。
 神話とか、伝説とか。そういう遠い領域の話のような。

 そんなことを考えているうちに、デジトアの話は魔法石のことへと移っていた。

「魔法石の大きさにもとの物体の大きさは関係なく、込めた魔力の量による。周りと比べてみなさい。イェレキはほとんど同じ大きさだったが、魔法石の大きさは異なるはずだ」

 カフィナとラティラとわたしとで、フラルネにはめた黒い魔法石を見せ合う。
 いちばん大きいのはわたしの魔法石だ。カフィナとラティラは同じくらいで、少しラティラのものが大きいだろうか。

「こうしてみるとレイン様の魔力の多さがよくわかります」
「カフィナ様も随分と多いですね。わたくしはスダ・マカベの娘として申し分ない魔力量だと言われて育ちましたけれど、あなたもそう変わらないではありませんか」

 カフィナは自分でも魔力が多いほうだと言っていた。
 ラティラが多そうだということも想像がつく。
 それよりも多いわたしの魔力というのは、いったいなんなのだろう。

「魔法石にするために必要な魔力の量も物体の大きさには関係ない。無生物より有生物のほうが多く必要であるし、込める物体自体が魔力を持っている場合は、さらに必要となる。……その分、魔法石としての質も良くなるが」

 そこでデジトアは、口の端をほんの少しだけ持ち上げて薄く笑った。ゾク、と背筋が寒くなったのはわたしだけではないはずだ。

「最も魔法石にすることが難しいのは、人間だ。魔力を多くもっている生物であり、そもそも、魔法石を得るために他人に魔力を向けることなどあり得ぬからである。よって人間が魔法石になる場合というのは、もともと魔力を多く持つ者が突発的に増えた魔力を扱いきれなくなったときであろう」

 パッとわたしに視線が集まる。
 確かにいちばん不安なのはわたしだ。魔力は多いらしいし、上手く扱えないことはここにいる全員に知られている。

 このように目を向けられることがわかっていたのか、デジトアはわたしを見ながらその薄い笑みを重ねた。
 ……怖い。石ころにはなりたくない。

「そのためのラッドレだ。これは必要以上に漏れた魔力を吸収してくれる」

 しかし、そう言って彼が触れたのは、耳飾りだった。
 わたしも自分の耳飾り――ラッドレに触れる。外してはいけないというのは、そういう役割があったかららしい。



 次の日からは、ヌテンレの作成がはじまる。
 各土地の林、その外側には本物の森――家や建物ではなく、ただの木が生えている場所――があって、そこで魔道具の作成に必要な材料を見つけるのだ。ヌテンレの場合は、木の枝である。
 材料にはできるだけ自分に合ったものを使ったほうが良いため、イェレキやフラルネの金属のような加工に技術が必要な物以外は自分で用意するのだという。

 土地ごとに分かれての行動だ。なんでも、土地によって魔力の性質が異なるかららしい。
 いつも通りジオの林の共用棟にある食堂で昼食をとり、そのまま外に出て集合する。教師たちも出身地で分かれているのだが、そのなかにデジトアの姿を認めたわたしたちの足が一瞬止まったことは……仕方ないだろう。

「……デジトア先生はジオの土地出身だったのですね」
「わたくしもはじめて知りました。ほかの先生がたは食堂でお見かけしていますけれど、デジトア先生には会ったことがありませんもの」

 わたしとカフィナのほかにも、子供たちがコソコソと囁き合っているのが見えた。
 デジトアはそんな様子を気にも留めずに共用棟から出てきたわたしたちを招集する。森へと出発だ。
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