上 下
44 / 88
第二章

43.

しおりを挟む
✴︎
「あんた、何で邪魔するの?」
 ヘスティアは,羊のツノなようなものを持つ女性にそう言った。
 すると、
「いえ、主人を傷つけるものは,排除する。それが私の役目です。いったい誰がなんの目的で主人に近づこうとしているのかは,知りませんが,主人を傷つけるのであれば私は,許さないつもりです」
「また,そんな長ったらしい説明ばっかして,そんなんだからあいつに嫌われてるんじゃないの?」
 羊のツノのようなものを持った女性は、少し考えて、
「いえ,嫌われておりません。主人は,現在記憶をなくされておられます。あの日の残酷な記憶から前の記憶を」
「二十年前の話でしょ?」
 ヘスティアは,そう言った。
「そうですね。二十年前、それは,魔族と人間の戦争が激化した年の話ですね」
「激化した理由は,一つよね」
 ヘスティアは,そう言って、羊のツノのようなものを持った女性を睨んだ。
「あんたでしょ?リネイア」
 リネイアと言われた女性は,笑って、
「何をおっしゃるのですか?私がそのようなことをするはずがないでしょう?仮にしたとして,その行為が私になんのメリットを生むのかしら?」
 ヘスティアは、笑って言った。
「なんのメリット?それは,あんたが一番わかってるんじゃないの?」
「何をおっしゃるのですか?ヘスティア」
 ヘスティアは,リネイアをさらに睨みつける。
「メリット?そんなの一つに決まってるよね?嫉妬してたから殺したくなって殺して、それを見せつけて、暴走させて魔族の脅威を見せつける。それがあんたのメリットでしょ?」
「それで?まだ,メリットが見えてきませんが?」
 ヘスティアは,呆れたのかため息をつきながら,笑って、
「そんなの簡単じゃん。魔族の王、魔王の座に着くのにふさわしいお方、グリッドに、魔王という席に座らせるため。そうすれば,必然的に、人間が好きなグリッド様は,人間に嫌われる。そして,人間から距離を置かれれば,あなたが嫉妬する相手がいなくなる?ここまで,言ったら,わかる?てか、わかってて聞いてるもんね?全部あんたが仕組んだことだってことぐらい容易に判断できるよ。あんまり,私を舐めないでね?リネイア」
 ヘスティアは,そう言って、魔法を使って消えた。
 しかし,その直前に、『お前は,許さない』そう口パクしたのをリネイアは,見逃していなかった。
しおりを挟む

処理中です...