地下牢に閉じ込められていたシリアスキラーが20年後に突然解放されたら、勇者は、雑魚だった。

魔狼ちゃん

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第二章

45.

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✴︎
 ヘスティアは,俺の肩を思いっきり揺らして、
「なんで?なんで,覚えてないの?」
 そう叫んできた。
 警戒心も楽観視もない。
 ただ,純粋に疑問に思ったことに対し、彼女は,泣いているのだ。
 また,俺は,何か忘れたのだろう。
 あの時,言語を忘れていたのや、五天皇を忘れていた時のように、多分忘れているのだろう。
 二十年間も虚無の空間にいたら,忘れることだって多いはずだ。
 覚えていたことなんて、多分二十年前にあったらしい、戦争のこととそれに関する記憶が抜けていることは,確かに自分でもわかっている。
 だけど,それがいったいなんなのかは,俺には,わからない。
 だから,俺は,こうしてどうしたらいいのかわからないから彷徨っているのだ。
 多分,ミルともあったことがあるのだろう。
 でも,俺の記憶の中には,詳しいことは,消えていた。
 わかっているのは,英雄であったことだけ。
 本当にそれだけなはずだ。
 後から思い出すのかもしれないけれど。
「じゃ,魔王の座につきたいって言ったのは?」
「それは,三歳の頃の話か?」
「覚えてるんだ」
 ヘスティアは,そう言って、少しだけ喜んでた。
「今は,つきたい?」
「魔王の座にか?」
 ヘスティアは、頭を縦に振っていた。
「いや、つくつもりはない」
 俺は,そう言い放った。
 そもそも,魔王の座に興味があった理由は,強者と戦えるからだ。
 それがほとんど必要なくなった今,俺が魔王の座につく必要は,ないだろう。
「ねぇ、リネイアって覚えてる?」
 ヘスティアの顔色がちょっと笑顔じゃなくなった。
 多分,これが本題なのだろう。
「あぁ,そんな奴もいたな」
 俺は,そう答えた。
 リネイアは、多分、黒っぽいツノを持ってたやつだった気がする。
「あのね、リネイアが、危ないことを考えているらしいの」
「危ないことって?」
「それは,まだわからないんだけど,二十年前の戦争と同じようなことをしようと考えてるのかもしれないって思って……」
「俺に伝えにきたと」
「そう」
 ヘスティアは,そう短く言うと、
「わかった。気をつけとく」
 ヘスティアは、瞬間移動の術式の上を歩いて、
「ありがと」
 そう言って、俺の首に手を回し、俺の唇にキスをした。
 そして,彼女は、離した時、笑っていた。
 その笑顔は,最初で最後の笑顔だった。
 彼女は,その後魔法を使った魔王城に帰っていった。
 そして,俺が下を見ると、描いた術式がぐちゃぐちゃになっていた。
「術式ぐちゃぐちゃになってる……」
 俺は,そう言って一から書き直した。
 そうすぐ夜が明けそうだった。 
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