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第三章

85.

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✴︎
 ヘスティアは、追いながら考える。
 もし、自分が逃して魔王様、グリッドが死んだら。

『私、どうやって生きていけてばいいんだろう』

 と。
 ずっと助けてくれていた。
 私の隣で。
 私の近くで。
 私の心の中で。
 いろんなところで助けてくれた。
 だから、

『絶対に殺させない』

 その言葉がヘスティアの心にこだまする。
 そして、その言葉がヘスティアの翼となり、追い風となる。
 私は、
「ただの魔道士」
 ヘスティアは、床を蹴り、勇者、否、カロンとの距離を詰める。
「くっ!しつこいんだよっ!」
 勇者は、さらにガジェットを使い速度を上げる。
 でも、その速度にも限界がある。
 それは、
「人間が死ぬ速度以上は出せない」
 ヘスティアは、冷静にそう言って、
「ブレイバーッ!」
 ヘスティアの持つ大鎌を振り上げて、斜めに切り裂く。
 しかし、それは、ガジェットにより、避けられる。
 勇者は、そう思っただろう。
「……ガッ!」
 勇者の左足首か綺麗に切断された。
 ヘスティアは、何も言わずに追いかけてくる。
「刺客、か?」
 カロンがそう言うと、好きができたのにも関わらず追撃は来なかった。
「刺客、じゃない、だと?」
 ヘスティアとの距離は、詰められる。
 もしかしたら、ヘスティアの一撃だったのか。
 なら、いつ、どのタイミングで、
「……見せたじゃない?」
 ヘスティアは、そう言った。
 カロンは、ただ一つの答えに辿り着く。
「ま、まさか……」
 あの空振りのタイミングで残像波を放ったというのか。
「……そう」
 ヘスティアは、そう言って、大鎌を振り上げた。
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