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決戦3日前
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煙は宙を舞い、不快な臭いを漂わせていた。女の手にはさまれた煙草。そしてそれを吸う形の良い唇。その全てが似合っていた。
「ふぅん、3日後、その時が来たらアナタの運命の舟は動き出す。どちらに舵を切るつもりかしら?もし、向こう側に付こうと言うのなら……」
満明の喉元には透き通る氷の剣が迫っていた。満明は剣を手で払い、コーヒーを飲み干す。
「分かっている。アレを見てまで良き友でいようなんてそんなおめでたい頭じゃない。アイツは自分が狂っている事にも気づけぬ程に狂いに溺れきった愚か者だ」
真昼は煙草を灰皿に擦り付けた。舞う煙は広く薄く、空間に消えて行く。
「良い返事よ」
そこは珈琲の香りを多大に封じ込めた空間。白髪に経験の数だけ顔に刻まれた年季の入った深い皺。60の年は生きてきているであろう老人が豆を砕いていた。
そんな老人が真昼に問う。
「貴女はまたオンラインゲームの友だち仲間を増やしたのかね?最近貴女のゲーム仲間の皆さましかいらっしゃらなくなったのだが。……ゲームが終わった後が恐ろしいのう」
「安心して。マスターの生命よりは長い歴史を歩み続けるから。少なくともあの組織が壊滅するまでは終わらないね。仮に壊滅してもヴァレンシアちゃんに子どもが出来るくらいまでは続くだろうな」
魔法使いに関係する事柄をオンラインゲームと誤魔化す真昼を見て満明はつい笑う。吹き出さざるを得なかった。
「笑ったな。その余裕が憎たらしいわ。でもまぁ、今の方がステキね。負け犬社会人の一員でしかなかった頃よりもずっとずっと……輝いてる」
「あぁ、やめられないな。これがかつては負け犬として散るはずだった漢の……そして生まれ変わった俺の宿命ってやつか。ヴァレンシアだったか。お迎え出来たら良いな」
真昼は微笑んだ。その顔は意地が悪そうで、しかし、優しさに包まれた淡い昼のようなものだった。
「お迎え出来たら、じゃないわ。迎えるの。私の勘は初めから告げていたわ。アナタにはゴミの掃き溜めなんかよりも闇の中で戦っている方が似合ってる。掃除するのは闇のセカイの中の愚かな闇、アナタの闇で穢れた闇を掃除するのよ。そしてゴミなんかよりも女を抱きなさい。恋愛的には無理になっていたって、愛情を込める相手は残ってる
……闇に染まった手でも闇を纏う人々は抱けるもの」
満明は真昼に言った。
「ところで、知ってると思うが相手は果てしなくとんでもないヤツなんだ。だから色々と手伝って欲しい事がある。倒す術は持ってるから時間を作れたら、と思ってな。まずはそのペン、相手は世俗から離れているような野良魔法使いだ。新しいものは知らないと自分で言ってたし、何よりそれ持って探偵気取りをやっても悟られなかったんだ。コイツに他の術式を組めば目くらましくらいにはなるぞ」
真昼はペンを振った。
「これ?そうね、もっと使える方法があるわ。きっとアナタ好みの戦いになるわ」
真昼は妖しく微笑み、満明に背を向けて歩き出した。これから魔力を分け合う事が出来るという一族に頼る。ただそれだけ言って。
✡
他の建物があまりにも貧相に見える程の立派な日本家屋。黒い屋根と同じ色合いの背の高い壁。その壁から覗く立派にそびえ立つ松の木。そんな屋敷の様は全ての者に財産の存在を誇示しているかのよう。そんな家の高い壁の囲いの中に少し凹んだ所があり、そこに入り口らしき造りの門と呼び鈴がある。太陽は空を照らし、青い空と周りの景色はこの家を目立たせる為にあるかのようだった。
真昼は真顔で呼び鈴を押す。
3回、3回、7回と押して行く。
「んな表情で遊ぶなよ。病んじまったのか?じゃなくて機嫌損ねられたら終わりだぞ?明らかにお土産渡せば応じるような相手じゃないだろ」
そう注意する声を無視した。門より現れたその存在は見た目は普通のサラリーマンだった。
真昼はサラリーマンに言う。
「あのさぁ、魔力分けてくれない?私じゃなくて、彼に」
男は満明を睨み付けるように見つめ、口を開いた。
「その男、一般人だろう?なら無理だ。破裂するぞ」
満明の背筋に寒気が走り、全身に広がり震え上がった。もちろんまだ死にたくなどなかった。
「別に彼自身に魔力を注げとは言わないわ。道具にならどう?ペットボトルの水とか良いんじゃない?」
男は訊ねる。
「何故そんなものが必要なんだ?」
答えようとする真昼を手で制して満明は言った。
「俺は魔法使いの卵、まだ生まれてすらなかっただけに騙されたんだ。浩一郎は金が無いと言った。でもそれだけじゃなかったんだ。追われ追い詰められてやつれて魔法使いにも嫌われて全てを敵に回しただけのやつだったんだ。そんな隠し事をするから友だちのはずの俺にも嫌われるんだって、そう言ってやりたいな」
「ふん、一般人ながらに覚悟はあるようだな。なら応じぬわけにも行かないな。ほら、道具を出せよ」
その言葉を聞いて、真昼は満足気な笑みを浮かべて水の入ったペットボトルを差し出した。
「ふぅん、3日後、その時が来たらアナタの運命の舟は動き出す。どちらに舵を切るつもりかしら?もし、向こう側に付こうと言うのなら……」
満明の喉元には透き通る氷の剣が迫っていた。満明は剣を手で払い、コーヒーを飲み干す。
「分かっている。アレを見てまで良き友でいようなんてそんなおめでたい頭じゃない。アイツは自分が狂っている事にも気づけぬ程に狂いに溺れきった愚か者だ」
真昼は煙草を灰皿に擦り付けた。舞う煙は広く薄く、空間に消えて行く。
「良い返事よ」
そこは珈琲の香りを多大に封じ込めた空間。白髪に経験の数だけ顔に刻まれた年季の入った深い皺。60の年は生きてきているであろう老人が豆を砕いていた。
そんな老人が真昼に問う。
「貴女はまたオンラインゲームの友だち仲間を増やしたのかね?最近貴女のゲーム仲間の皆さましかいらっしゃらなくなったのだが。……ゲームが終わった後が恐ろしいのう」
「安心して。マスターの生命よりは長い歴史を歩み続けるから。少なくともあの組織が壊滅するまでは終わらないね。仮に壊滅してもヴァレンシアちゃんに子どもが出来るくらいまでは続くだろうな」
魔法使いに関係する事柄をオンラインゲームと誤魔化す真昼を見て満明はつい笑う。吹き出さざるを得なかった。
「笑ったな。その余裕が憎たらしいわ。でもまぁ、今の方がステキね。負け犬社会人の一員でしかなかった頃よりもずっとずっと……輝いてる」
「あぁ、やめられないな。これがかつては負け犬として散るはずだった漢の……そして生まれ変わった俺の宿命ってやつか。ヴァレンシアだったか。お迎え出来たら良いな」
真昼は微笑んだ。その顔は意地が悪そうで、しかし、優しさに包まれた淡い昼のようなものだった。
「お迎え出来たら、じゃないわ。迎えるの。私の勘は初めから告げていたわ。アナタにはゴミの掃き溜めなんかよりも闇の中で戦っている方が似合ってる。掃除するのは闇のセカイの中の愚かな闇、アナタの闇で穢れた闇を掃除するのよ。そしてゴミなんかよりも女を抱きなさい。恋愛的には無理になっていたって、愛情を込める相手は残ってる
……闇に染まった手でも闇を纏う人々は抱けるもの」
満明は真昼に言った。
「ところで、知ってると思うが相手は果てしなくとんでもないヤツなんだ。だから色々と手伝って欲しい事がある。倒す術は持ってるから時間を作れたら、と思ってな。まずはそのペン、相手は世俗から離れているような野良魔法使いだ。新しいものは知らないと自分で言ってたし、何よりそれ持って探偵気取りをやっても悟られなかったんだ。コイツに他の術式を組めば目くらましくらいにはなるぞ」
真昼はペンを振った。
「これ?そうね、もっと使える方法があるわ。きっとアナタ好みの戦いになるわ」
真昼は妖しく微笑み、満明に背を向けて歩き出した。これから魔力を分け合う事が出来るという一族に頼る。ただそれだけ言って。
✡
他の建物があまりにも貧相に見える程の立派な日本家屋。黒い屋根と同じ色合いの背の高い壁。その壁から覗く立派にそびえ立つ松の木。そんな屋敷の様は全ての者に財産の存在を誇示しているかのよう。そんな家の高い壁の囲いの中に少し凹んだ所があり、そこに入り口らしき造りの門と呼び鈴がある。太陽は空を照らし、青い空と周りの景色はこの家を目立たせる為にあるかのようだった。
真昼は真顔で呼び鈴を押す。
3回、3回、7回と押して行く。
「んな表情で遊ぶなよ。病んじまったのか?じゃなくて機嫌損ねられたら終わりだぞ?明らかにお土産渡せば応じるような相手じゃないだろ」
そう注意する声を無視した。門より現れたその存在は見た目は普通のサラリーマンだった。
真昼はサラリーマンに言う。
「あのさぁ、魔力分けてくれない?私じゃなくて、彼に」
男は満明を睨み付けるように見つめ、口を開いた。
「その男、一般人だろう?なら無理だ。破裂するぞ」
満明の背筋に寒気が走り、全身に広がり震え上がった。もちろんまだ死にたくなどなかった。
「別に彼自身に魔力を注げとは言わないわ。道具にならどう?ペットボトルの水とか良いんじゃない?」
男は訊ねる。
「何故そんなものが必要なんだ?」
答えようとする真昼を手で制して満明は言った。
「俺は魔法使いの卵、まだ生まれてすらなかっただけに騙されたんだ。浩一郎は金が無いと言った。でもそれだけじゃなかったんだ。追われ追い詰められてやつれて魔法使いにも嫌われて全てを敵に回しただけのやつだったんだ。そんな隠し事をするから友だちのはずの俺にも嫌われるんだって、そう言ってやりたいな」
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その言葉を聞いて、真昼は満足気な笑みを浮かべて水の入ったペットボトルを差し出した。
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