山羊頭の魔神

焼魚圭

文字の大きさ
6 / 7

山羊頭の魔神

しおりを挟む
 やつれ果てた男が足を引き摺りながら歩いていた。そこは長年の役目を終えた廃屋。その奥へと、ゆっくりと歩く。友を迎えるべく。
 先程魔法使いに襲われた。傘を剣として振るう男子小学生。年相応の戦い方からは想像も付かぬ年不相応の強さを前に、何とか逃げて安心するもその一瞬の後に例の三原色魔法の〈東の魔女〉に追い回されて息も絶え絶えにようやく満明との約束のその場に至る浩一郎。
―本気は出せない―
 それだけ呟き、軽いはずなのに重たい身体を引き摺りようやく奥に辿り着き、その場で休む。
「待たせたな」
 そう言って現れた男の姿を見て浩一郎は安堵し切っていた。
「そんなに待って無い。よし、満明、今から逃げよう」
 満明は水の入ったペットボトルを取り出した。
「さてと」
 ペットボトルの蓋は開かれた。
「なぁ、浩一郎」
 浩一郎は、満明が水を飲むのかと思っていた。
「お前さ」
 しかし、そのような目的などでは無かった。
「悪魔なんだろ?」
 ペットボトルの白い口は暗い地へ向けられる。
「分かるぜ」
 水は地へと注がれていく。
「あの文字、読む気にもなれなかったんだ」
 しっかりと彫られた溝はペットボトルより注がれる水が行き渡っていくと共にまるで月の周りで薄く輝く夜空のように青白く輝いてその存在を露わにしていく。
「もっと人に見せられる文字を書けよな」
 不気味な光は円を描き、その中に幾つもの独特な文字と幾何学模様が描かれる。
「おのれ!おのれ!」
 浩一郎は人の姿である事をやめた。逞しく禍々しく長い2本の角が生えた山羊の頭、骸骨と化した右半身と腕、左は腕が無く代わりに夥しい量の蛇が絡み伸び動いていて、そして多く生えた足は全て吸盤の並んだ触手のようでまさにタコのようだった。
 満明はコートよりペンを取り出し手を放す。ペンは重力に身を任せて落ちて行く。
「山羊の頭をした悪魔め、お前の新しいお家に帰してやるよ」
 満明を護る魔法陣は完成された。腕より伸びる蛇が魔法陣の輝きの壁を懸命に叩き続ける。
 満明はかつて友だった〈山羊頭の魔神〉を睨み付けた。
『己が内に潜みし闇よ』
 蛇の抵抗にタコの足も加勢する。
『外界に蔓延りし闇よ』
「な……何故だ!やめろ!!」
『秩序の内外に巣食う闇よ』
 かつて友だった存在の叫びは無視し、唱え続けた。
「やめろ!よすのだ!!〈分散〉は……」
 魔法陣はヒビ割れ始めていた。
『不当に固まりし闇を〈分散〉し、世界へと還し給え』
 魔法陣は悪魔に破られガラスのように砕け、微かな輝きと共に薄れてそして消えて行った。
「お前に借りた物だ。返してやるよ」
 〈山羊頭の魔神〉に向けられた銃より発射されし無感情な弾はその異形の額を貫いた。〈山羊頭の魔神〉は額を押さえ、断末魔の叫びをあげながらその形を崩し闇の靄となって消えて行く。
 満明は気が付いてしまった。〈山羊頭の魔神〉が消えると共に、闇となって世界へと還って行くと共に自身の右腕が闇に包まれていってやがて視えなくなって行っている事に。
 そこに腕があるのは分かっているが視えない、そもそも脳がその不可視の腕を視る事を拒んでいるようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...