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山羊頭の魔神
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やつれ果てた男が足を引き摺りながら歩いていた。そこは長年の役目を終えた廃屋。その奥へと、ゆっくりと歩く。友を迎えるべく。
先程魔法使いに襲われた。傘を剣として振るう男子小学生。年相応の戦い方からは想像も付かぬ年不相応の強さを前に、何とか逃げて安心するもその一瞬の後に例の三原色魔法の〈東の魔女〉に追い回されて息も絶え絶えにようやく満明との約束のその場に至る浩一郎。
―本気は出せない―
それだけ呟き、軽いはずなのに重たい身体を引き摺りようやく奥に辿り着き、その場で休む。
「待たせたな」
そう言って現れた男の姿を見て浩一郎は安堵し切っていた。
「そんなに待って無い。よし、満明、今から逃げよう」
満明は水の入ったペットボトルを取り出した。
「さてと」
ペットボトルの蓋は開かれた。
「なぁ、浩一郎」
浩一郎は、満明が水を飲むのかと思っていた。
「お前さ」
しかし、そのような目的などでは無かった。
「悪魔なんだろ?」
ペットボトルの白い口は暗い地へ向けられる。
「分かるぜ」
水は地へと注がれていく。
「あの文字、読む気にもなれなかったんだ」
しっかりと彫られた溝はペットボトルより注がれる水が行き渡っていくと共にまるで月の周りで薄く輝く夜空のように青白く輝いてその存在を露わにしていく。
「もっと人に見せられる文字を書けよな」
不気味な光は円を描き、その中に幾つもの独特な文字と幾何学模様が描かれる。
「おのれ!おのれ!」
浩一郎は人の姿である事をやめた。逞しく禍々しく長い2本の角が生えた山羊の頭、骸骨と化した右半身と腕、左は腕が無く代わりに夥しい量の蛇が絡み伸び動いていて、そして多く生えた足は全て吸盤の並んだ触手のようでまさにタコのようだった。
満明はコートよりペンを取り出し手を放す。ペンは重力に身を任せて落ちて行く。
「山羊の頭をした悪魔め、お前の新しいお家に帰してやるよ」
満明を護る魔法陣は完成された。腕より伸びる蛇が魔法陣の輝きの壁を懸命に叩き続ける。
満明はかつて友だった〈山羊頭の魔神〉を睨み付けた。
『己が内に潜みし闇よ』
蛇の抵抗にタコの足も加勢する。
『外界に蔓延りし闇よ』
「な……何故だ!やめろ!!」
『秩序の内外に巣食う闇よ』
かつて友だった存在の叫びは無視し、唱え続けた。
「やめろ!よすのだ!!〈分散〉は……」
魔法陣はヒビ割れ始めていた。
『不当に固まりし闇を〈分散〉し、世界へと還し給え』
魔法陣は悪魔に破られガラスのように砕け、微かな輝きと共に薄れてそして消えて行った。
「お前に借りた物だ。返してやるよ」
〈山羊頭の魔神〉に向けられた銃より発射されし無感情な弾はその異形の額を貫いた。〈山羊頭の魔神〉は額を押さえ、断末魔の叫びをあげながらその形を崩し闇の靄となって消えて行く。
満明は気が付いてしまった。〈山羊頭の魔神〉が消えると共に、闇となって世界へと還って行くと共に自身の右腕が闇に包まれていってやがて視えなくなって行っている事に。
そこに腕があるのは分かっているが視えない、そもそも脳がその不可視の腕を視る事を拒んでいるようだった。
先程魔法使いに襲われた。傘を剣として振るう男子小学生。年相応の戦い方からは想像も付かぬ年不相応の強さを前に、何とか逃げて安心するもその一瞬の後に例の三原色魔法の〈東の魔女〉に追い回されて息も絶え絶えにようやく満明との約束のその場に至る浩一郎。
―本気は出せない―
それだけ呟き、軽いはずなのに重たい身体を引き摺りようやく奥に辿り着き、その場で休む。
「待たせたな」
そう言って現れた男の姿を見て浩一郎は安堵し切っていた。
「そんなに待って無い。よし、満明、今から逃げよう」
満明は水の入ったペットボトルを取り出した。
「さてと」
ペットボトルの蓋は開かれた。
「なぁ、浩一郎」
浩一郎は、満明が水を飲むのかと思っていた。
「お前さ」
しかし、そのような目的などでは無かった。
「悪魔なんだろ?」
ペットボトルの白い口は暗い地へ向けられる。
「分かるぜ」
水は地へと注がれていく。
「あの文字、読む気にもなれなかったんだ」
しっかりと彫られた溝はペットボトルより注がれる水が行き渡っていくと共にまるで月の周りで薄く輝く夜空のように青白く輝いてその存在を露わにしていく。
「もっと人に見せられる文字を書けよな」
不気味な光は円を描き、その中に幾つもの独特な文字と幾何学模様が描かれる。
「おのれ!おのれ!」
浩一郎は人の姿である事をやめた。逞しく禍々しく長い2本の角が生えた山羊の頭、骸骨と化した右半身と腕、左は腕が無く代わりに夥しい量の蛇が絡み伸び動いていて、そして多く生えた足は全て吸盤の並んだ触手のようでまさにタコのようだった。
満明はコートよりペンを取り出し手を放す。ペンは重力に身を任せて落ちて行く。
「山羊の頭をした悪魔め、お前の新しいお家に帰してやるよ」
満明を護る魔法陣は完成された。腕より伸びる蛇が魔法陣の輝きの壁を懸命に叩き続ける。
満明はかつて友だった〈山羊頭の魔神〉を睨み付けた。
『己が内に潜みし闇よ』
蛇の抵抗にタコの足も加勢する。
『外界に蔓延りし闇よ』
「な……何故だ!やめろ!!」
『秩序の内外に巣食う闇よ』
かつて友だった存在の叫びは無視し、唱え続けた。
「やめろ!よすのだ!!〈分散〉は……」
魔法陣はヒビ割れ始めていた。
『不当に固まりし闇を〈分散〉し、世界へと還し給え』
魔法陣は悪魔に破られガラスのように砕け、微かな輝きと共に薄れてそして消えて行った。
「お前に借りた物だ。返してやるよ」
〈山羊頭の魔神〉に向けられた銃より発射されし無感情な弾はその異形の額を貫いた。〈山羊頭の魔神〉は額を押さえ、断末魔の叫びをあげながらその形を崩し闇の靄となって消えて行く。
満明は気が付いてしまった。〈山羊頭の魔神〉が消えると共に、闇となって世界へと還って行くと共に自身の右腕が闇に包まれていってやがて視えなくなって行っている事に。
そこに腕があるのは分かっているが視えない、そもそも脳がその不可視の腕を視る事を拒んでいるようだった。
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