呪う一族の娘は呪われ壊れた家の元住人と共に

焼魚圭

文字の大きさ
2 / 132
始まり

ビニール傘

しおりを挟む
 床に蹲っていた那雪はやがて立ち上がり歩き出す。木目の床は所々に傷が入っていてそれなりの年季を感じさせる。
 ドアを開き歩いていく。そして窓へと近づいていく。まるで何かに引き寄せられているようで、恐怖する頭と何も考えていない身体がそれぞれ切り離されているようにも思えてくる。
 那雪は壊れた家を見てから明らかにおかしかった。謎の力の雰囲気に怯えると共に何故だか魅入られていてその瞳に宿る感情は2つの色が混ざり合っている。
 那雪が窓ガラスに触れたその時、那雪は後ろへと吹き飛ばされた。ガラスによって薄く裂かれた指の皮は覆っていた血の飛沫を散らせた。那雪は何も考えていなかった。完全に魔力に魅入られてしまっていたのだった。
「はぁ!? この程度でトランス状態かよ! お前の父親はロクに魔法の訓練の一つもしてくれてないようだな!」
 散り行くガラスが夕陽をはね返して光を放つ。そこに立つ男は毛皮のコートを着ていた。今は5月、明らかに季節外れ。しかし、それすらも考えている余裕もない那雪はただ気になる事を訊ねた。
「魔法? そんなものあるの?」
 男は小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「まさかここまでとはな! こりゃあ殺しがいもない、なぁ! かつて唐津近辺の裏世界を魔法で治めてた唐津一族の子孫さまよぉ!」
 男は恨みを込めて吐き捨てるように言う。
「こんな地域にまで来て平和ボケしやがって! 今すぐ殺してやる!!」
「ふふっ」
「あぁ? 何笑ってんだ?」
 そんな現実離れした景色と会話を経て那雪は目を見開いて言った。
「じゃあ……殺してよ。どうせ私なんかどこにいても人に不幸を撒き散らすことしか出来ないお荷物なんだから」
 予想外の返答に男は肩を竦めて目を閉じ首を左右に振る。
「ダメだこりゃ、壊した家の呪いの余韻だけで完全に堕ちてやがる。呪い一族同士戦いたかったんだが、それも叶わないならせめてお前の望みだけでも叶えてやるとするか」
 男の周囲には黒々としたオーラが渦巻き、禍々しい力が周囲を満たした。
ー呆気ない終わり、でもいても迷惑なら……これでいいやー
 男は力を練り上げて作り上げた闇色の禍々しい大剣を構えて那雪目掛けて振り下ろすべく、一歩踏み出した。そのまま那雪を睨み付け、振り下ろそうとしたその時、男の身体は右に飛ばされ倒れていた。
「なんだ!」
 那雪は外に立つ青年の姿を見た。立ち上がる事すらも忘れたままその青年の姿に魅入っていた。茶髪のくせ毛はあどけなさを残した好青年のような顔の明るさをより一層引き立てている。そんな男が右手に握っているビニール傘は剣のような持ち方であまりにも不釣り合いで不格好。
 飛ばされた男は立ち上がり、青年に驚きをぶつける。
「おい! 前原一族の一真! お前死んでなかったのか!」
 一真、そう呼ばれた青年は睨み付ける事が似合わぬ瞳で男を睨む。
「あの程度で死ぬと思ったか? 俺の魔法は物質強化だ。呪いが発動したときに咄嗟に傘たちを使って防いでなきゃお前の言った通りだっただろうな」
 一真はビニール傘を男に向ける。
「呪い使い! お前だけは許さない! お前のせいだ」
 那雪は一真に同情していた。家をも破壊されたのは流石に可愛そうであった。
「お前のせいでな! 父さんの酒コレ全部ぶっ潰れたんだよ!」
ーえぇ!? 家よりお酒?ー
「よくもやってくれたな! あと4ヶ月! あと4ヶ月ではたちだったのに!! 俺のオトナの野望をよくも潰してくれたな飲み物の恨みはお前の呪いの数倍深いぞ」
 男は今度は一真を鼻で笑った。
「家より酒かよアホか! いいぜ! 前原家と唐津家のコンビの子を同時に潰すチャンスだ!」
 男は立ち上がり、大剣を構えて一真と向かい合ったのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...