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始まり

呪いの一族の娘への呪い

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 禍々しい大剣による攻撃をビニール傘で受け止め左に流す。
「傘だと思って甘く見てたら辛みに舌をやられるぞ大剣使い」
「はっ、俺は呪い使いだ! あとなんだその頭刹菜を感じる言葉の使い方!」
「刹菜の仲間だからな!」
 上に振るわれる大剣を飛び退いて躱し、ビニール傘による一撃を脇腹に放り込む。男は飛ばされ再び地へと叩き付けられる。大剣はその手を離れ、武器は闇に散り消えなくなった。一真はビニール傘を男に突き付けて言った。
「隙を見せたな隙間で魅せろ、と言っても男の隙間なんか見たくないがな」
 男は鋭い笑みを浮かべて言った。
「俺は準備出来てる、後ろ見てみろよ!」
 一真は振り向かずビニール傘でもう一度斬りつける時、それと同時、男は右手から翼を広げる禍々しき闇を放った。その闇を追うように一真が振り向いたその先に立っているその人物はメガネをかけた少女。
「一真ぁ! お前の想定外のお荷物の女に感謝だぜ」
 那雪の慎ましい胸に闇が入り込み、那雪は胸を押さえて蹲る。
「その呪いは死の呪い! そこのそいつは3日後死ぬ」
 一真はもう一度男を斬りつけようとするも男は透けて行き、傘は身体を通り抜ける。次第に消えて行くその姿を見ている事しか出来ないのであった。



 ただ立っているだけの那雪の腕を引いて家に入って一真はかつて窓ガラスが張られていたそのドアを見つめる。
「これは酷いな……でもシャッター閉まるみたいでよかった。俺の家なんか人が住む事を想定してない外気感だからな」
「それ壊れただけだよね」
 シャッターを降ろして一真は冷蔵庫を漁り始めた。
「取り敢えず晩ごはん作るか」
 那雪は一真を見おろして一言、「いらない」とだけ言う。
「何でだよ、男のメシなんか食えるか! みたいな?」
「別にそうじゃない。私は人を不幸にする事しか出来ないし私がいなくなってももうきっと誰も困らないから」
 一真は那雪を睨み付ける。
「誰も困らない? いいや、俺が困るね!」
 那雪の手を優しく包み込み、続きを言う。
「言っとくが俺は味方は誰一人死なせないから! きみは俺の味方だ! 今決めた! 名前は? どこ住み? あっ、ここ住みか」
 那雪は微かに笑い、その名を語る。
「私の名前は唐津 那雪、高校2年生で友だちはいないわ」
「そっか、じゃあ、なゆきち! こう呼んでいいな、なゆきち」
 そして一真は台所に立って包丁を握ったのであった。
 今宵ある人物の元を訪問する為に2人で落ち着いた時間を過ごす為に。
 味噌汁と野菜炒めとご飯、ただそれだけの簡単な料理は那雪にとっては久々の他人の手料理。ただそれだけで嬉しかった。
「なゆきちには言ってなかったな、今夜ある人物のところを訪ねるからな。今のなゆきちはなんていうかめちゃくちゃ危なっかしい」
 軽い呪いに触れただけでも死への願望を抱く程に影響を受けたその少女は放っておけばすぐにでも自殺してしまうかもしれない、そう判断しての事だった。
「あと俺の家をどうにか探す手伝いをしてもらわなきゃいけないな」
 そう言って少しの間、休んでいた2人であった。
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