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ホムンクルス計画

奈々美、エレンとの対面

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 箒は奈々美を運んでいく。奈々美は箒で飛んでいく。広い入り口を見付けてそこへと入ろうとするも閉じられた扉は開く気配もない。
 奈々美は肩にかけているカバンに手を入れて何かを探り、そして目的の感触を確かめて取り出した。
 植物の種。
 奈々美は種を握り締めて誰にも言葉の詳細を聞き取れない聞き取らせない、そんな小さな声で呪文を唱える。言の葉は種から葉を、幹を、実を育て上げて姿をこの世界に現す。
 植物は実を落として実の中の種は育っていって更に数を増やしていく。
 扉を叩き、増えて、叩き、増えて、叩いていく。
 植物たちの強烈な打撃と増殖は奈々美の言葉に従ってのもの。無機質な廊下は自然に覆われていく。頑丈な扉は次第に壊されていく。
「植物たち、そう、それでいいの。私はひとりの彼氏を救うために動いているの。自由を得たばかり、空を羽ばたく為の翼の使い方すら知らないままでは死なせはしないのだから」
 部屋の奥を護る扉は遂に壊されて口を開ける。
 奥に待っていたのは奈々美の予想通りの人物。金髪と白い肌、そして長身の外国人、〈北の錬金術士〉エレオノーラ・セヴェロディヌスカがフラスコを手にして椅子に座っていたのだ。
「はろーなの、と言いたいけどあなた古臭そうな日本人なの。日本語以外分からなそうなのね」
 エレンのひと言に対して笑みを浮かべた奈々美。
「言っておくけれども私は極東に住まう魔女、〈東の魔女〉東院 奈々美よ。ハローなんて言われても波浪しか分からないわ、こんにちはと言っていただかなければ分かりやしないもの」
「分かってるの! 知ってて言ってるの! 刹菜と同じなの」
 怒り狂い叫ぶエレン。奈々美は美しい瞳を細めて妖しい笑みを浮かべる。
「短文単位で重ねる言葉は〈西の魔導士〉ヴァレンシア・ウェストみたいね。でもヴァレちゃんの方が上手だったかしら」
 その言葉はエレンに向けられつつも、その瞳は最早エレンの心など見ていなかった。姿だけを捉えていた。
 まるでこれから情も向けずに踏みにじる相手を見ているように。
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