上 下
66 / 132
ホムンクルス計画

解放

しおりを挟む
 箒はふたりを乗せて進んで行く。それは如何なる仕組みなのか、魔法の世界とは理解しがたい奇跡の星々の集い。奈々美はある大きな扉の前で洋子を降ろす。
「これから頑張って突き進んで勝つのよ。私は他に用があるから先に行くけれども大丈夫かしら?」
 洋子は明るく澄んだ笑顔を浮べて答えた。
「大丈夫、行ってきます」
 扉を開いたそこには白衣を着た人々が立ちはだかっていた。
「侵入者に〈亡霊の魔女〉の縄がとかれたらしいがお前か! 特定の魔力、〈北の錬金術士〉と同じ魔女の力でなければとけないようにしていたはずがまさか魔女がいるなんて」
 洋子は静かに一歩、また一歩踏み出していく。靴が地を踏む度に床から飛び散る白と黒の星々。洋子は恐ろしい程に暗い瞳と口を大きく横に広げて醜い笑みを浮かべる。美しい顔が如何にしてそれ程までに崩れてしまうのだろう。研究員たちは恐れに押されてしまったのか後退りをしていた。
「どうして逃げるの? 女の子がこんなに近くまで来てあげてるのに」
 研究員の内の1人が震える声で頼りなく叫ぶ。
「く……来るな、来るな化け物!」
 洋子は表情を崩さないまま言う。
「ふーん、可愛い女の子に対してそんな事言うの、遠回しな告白? だったらやめた方がいいよ」
 近付いていく。足がまた一歩、星を散らしながら進み行く。無機質な距離は縮んで行き、やがては研究員たちの近くへと。
 研究員の一人が魔法を撃つも、星によってかき消されてその星は金平糖へと代わって行った。
 洋子がその金平糖を手に取って食べるこの仕草、それも研究員の恐れにしかなり得ない。
「さようなら」
 そう言って洋子は手を振って星々を飛ばす。研究員たちはみな昏倒して何ひとつ動きを取らない。
 洋子は目の前で縛られている少女を見て、縄をナイフで斬ったのであった。その少女、刹菜はいつも通りにニヤけていた。
「ありがとう、この親衛隊たちは護る女の子の事をこんなにも粗末に扱うんだ、誰も大切にしないのは目に見えてる」
 そう言いながら眠る研究員たちを足で何度も小突いていたのであった。
しおりを挟む

処理中です...