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風使いと〈斬撃の巫女〉

奈々美と仲直り

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 一真が運転する車はくねくねうねうねとカーブをする道を必要以上に曲がり、不自然な動きをしていた。刹菜は那雪を抱き締めて言葉を声に出していた。
「なんだよこの車! なんでこんなに変な曲がり方してんだ一真、もしかしてキミにしか見えない壁でもあるのか」
 シートベルトを着けていても那雪を抱きに行った時点で延ばし過ぎて意味を成さない。那雪は刹菜に抱き付かれる感触に顔を赤くしていた。那雪の体型からすれば刹菜は紙一重の差、どんぐりの背比べとは言えども少しばかり柔らかなのであった。
「全く、女の子を乗せてる自覚も無いのか?」
「悪い、俺の運転が下手なばかりに」
 那雪はひと言、指摘を浴びせる。
「口に集中しないで運転に集中して」
 それからぎこちなく進み行く車はみんなをあの日本家屋へと運んで行った。
 一真は車を停めてキノコを持って呼び鈴を鳴らす。
 ドアがズレて行って現れた魔女に一真は頭を下げた。奈々美は一真が手に持っているキノコを見つめて微笑む。
「……そう、この前のことを謝るつもりでいるのね。そこまでしなくてもあのことはもう許しているわ。あれはお互い様なのだから」
「それでも、ごめんなさい」
「いいから入って。折角来たのだからゆっくりしていって」
  そしてみんなで家に入って行く。
「このオンボロ家屋、築何十年だよ。ホントにふたり暮らしなのか? 何か化けて出て来たり」
「心霊スポット説は要らないわ、刹菜」
 刹菜の言葉を切って言葉を挟み込む奈々美。そんな奈々美の後ろに隠れるようにしがみつくように服をつかんでいた十也は前に出て来てお辞儀をする。
 そんな姿に対していつも通りのニヤけ面を浮かべる刹菜。
「奈々美の彼氏くんだったね、そこの〈エッチの魔女〉はキミに対して何か純粋を奪うようなことはなさっていないか?」
 十也は顔を赤くして首を横に振る。刹菜はニヤけを強めた。
「じゃあいいんだ。そこの『お姉さん』が何かやらかしたらいつでも私に相談して。『おばさん』はいつでも相談に乗るから」
「年齢とか生きた年数とかどうなっているのかしら」
「魔女ならほぼ歳取ってないからまだ若いんじゃないかなって思ってな。まさにそんな少年に対して同い年のような恋心を抱いちゃうような」
 ニヤけながら余計な言葉を軽々と放つ刹菜の頭を一真が引っぱたく。刹菜はそんな一真を涙目で見つめて頭を押さえた。
「パワハラめ、訴えてやる」
「うっせ、刹菜、くたばれ」
 暗い空の下で弱めの輝きを放つ奈々美の家は今日も明るかった。
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