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風使いと〈斬撃の巫女〉

お嬢さま宅へ

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 夕暮れの屋敷、そこに3人の人物が訪れていた。
 何も知らされずに連れて来られた那雪だけが妙な表情をしていた。一真はいつも通りビニール傘を持っていた。
「そんなに雨が心配なら折りたたみ傘でも持って行けばいいのにな」
 刹菜の無駄口に一真は「傑作だな」とひと言だけこぼす。
「ここが不良たちの謎をつかんだお嬢さまの屋敷なんだな?」
「お嬢さまがつかんだんじゃない、スパイの手柄だから」
「どっちでもいい」
 屋敷へと入るべく、刹菜は呼び鈴を三度鳴らす。
「鳴らし過ぎだろ」
「広くて聞こえないかも知れないだろ? 呼び鈴の音も分からない金だけしか取り柄の無い馬鹿かも知れないだろう?」
「馬鹿はお前だ刹菜」
 これでただの冷やかしだと思われてしまってはここで計画失敗。更に呼び鈴を鳴らそうとする刹菜の手を一真はつかんで止める。
 それから18秒、それだけの時を殺して開かれる扉。そこから現れたのは白いドレスを纏った美少女であった。美少女は口に手を当てて感情抑えめの上品な声で笑う。
「誰が押したのかすぐに分かりましてよ。おバカさんは分かりやすくていいものですわね」
「お嬢さまだからって『ですわ』だなんて漫画の読み過ぎじゃないか?」
 煽る刹菜の口を塞いで一真はお嬢さまに要件を伝えた。お嬢さまは微笑んで頷き、そして答える。
「折角ご来館いただきましたのに立ち話なんて失礼に当たりますわね。どうぞお入りになられて。久方ぶりの客人ですもの、当然歓迎致しますわ」
 そして大きな館へと歓迎された3人は暗く大きなその口に飲み込まれていった。
 中は異世界のよう。天にてシャンデリアが輝き地は鮮やかな赤のカーペットが敷かれていた。刹菜は一真の手を払い除けて那雪に声をかける。
「どう? こんなところに住んでみたいって思った?」
 那雪はしばらくの間、豪華な空間に心を捕らわれていたが、我に返った瞬間、ゆっくりと首を横に振る。
「こういうところもいいけど、落ち着く方が好きだから」
「同感、キミも私と同じで脇役が似合ってるな」
 そう答えた刹菜の表情は感情でも隠していたのか、この上なく強くニヤけていた。
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