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風使いと〈斬撃の巫女〉

仕切り直し

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 カフェイン茶番劇から30分以上が経過して、ようやく席に戻って本題へと入る。
「確か不良たちの事でしたわね、それなら恐らくあなた方のお見立て通りですわ」
「雑魚が束になって魔力を共有して大技放つのか?」
「んなわけあるか、刹菜は黙ってろ」
 刹菜が口を開けば話の進行は止まる、一真の知る世界の真理のひとつである。
 お嬢さまは小さく形のいい口に右手を添えて優しく笑う。
「案外近いものでしてよ? 要は若葉家の魔力庫の代理を作る計画。質の似た魔力、つまり性格による魔力の出し方やその雰囲気それらをある程度合わせて精神を一纏めにして魔力庫代理を作る計画ですわ。不良を集めて仲間として生活させてそれを一纏めにしてそして機械に閉じ込めて集められた魔力を他の魔法使いたちが使う、これで魔力の多い魔法使いが沢山出来ますわね」
 つまり、今回の計画を成功させてしまうと野良魔法使いはきっと皆殺し、今屋敷にいる人全員に迫る危機なのだ。
 止めるには恐らく魔導教団に忍び込むしかない。内部に入って破裂させる、それしか思い浮かばなかった。
 お嬢さまはカップを机の上に置いた。そして立ち上がり、言の葉を放つ。
「いけませんわ、侵入者」
 一真は言った。
「どれだけ警備雑なんだ」
 刹菜は答える。
「お嬢さまは世間知らずなんだ、きっとみんな良い子だから誰も悪さしない、みたいな」
 お嬢さまは笑い、歩き、そして振り向くように視線を向ける。
「これは私の可愛いスパイたちの正体は分からないものの、私が放ったってことはお分かりのようですわね」
「ふふん、つまりキミは命を狙われてるんだね。踏み込み過ぎたな。好奇心は猫を殺す、猫は7つの生命を持つ、イギリス製の教訓さ」
「ただのことわざだろ」
 遅れて戻ってきた執事がこの事態と会話を耳にしてお嬢さまを止めようと言葉を練る。
「お嬢さまはお座りになられて下さい。招かれざる客人は私が掃除しておきます」
 しかし、お嬢さまは微笑み指を振りながら言うのであった。
「私が行きますわ。たまには運動も必要でしてよ」
 そして、お嬢はいなくなった。
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