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風使いと〈斬撃の巫女〉

北と東/斬撃と魔力庫

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 それは暗い森の中に建てられた一軒の家、〈東の魔女〉東院 奈々美は暗い空を家の中から見上げながら十也の帰りを待っていた。
-帰って来ないわね、迷ってしまったのかしら-
 迷ったのならば一大事、奈々美は玄関へと向かい、靴を履く。
 家を出たそこに待っていたのは一枚の紙、それは屋根に吊してあり、力無く風に揺られていた。
 紙を手に取り読み上げた。
「あなたが誘拐したホムンクルスは返していただいたの。あなたのは犯罪なの、法で裁かれろなの、次会いたければ自首して法廷でなの! それが嫌なら魔女研究所で『奈々美ホイホイ』使ってやるの!」
 その文章から犯人はいとも容易く断定された。
「あの女……〈北の錬金術士〉め」
 奈々美は手に持っている箒にまたがって空を斬る勢いで飛び始めるのであった。





 そこは暗い街、鈴香と手を繋いで歩く怜。
 今の人生の形は正しいのか、間違えているのか分からない。しかし、怜はきっと正解だ、大正解なんだ。そう叫ぶことであろう。
 怜の温かな手を小さな可愛らしい手で握る鈴香は幸せのそよ風に包まれて、太陽よりも明るい笑顔を浮かべていた。
「凄い表情してるな」
「怜が……一緒…………だから」
 人々の波はあまりにも激しく、人が密集した街は騒がしい。
 そんな人の多い街中、怜は飛び交う感情の中に恐ろしく鋭い視線を感じた。
 怜は世にも稀なほどに凶悪な笑みを浮かべて殺意の元へと歩き始めた。
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