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風使いと〈斬撃の巫女〉

その女の魔法知識

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 輝きは周囲の空気をも焼き払う。燃える本たち、棚も4つ砕け散っていた。
「同時に7つの物質を破壊する魔法、残りの3つも最早息はしていないはず」
 少女は深く咳き込み、右手が黒く変色していることを確かめた。少女は左肩より伸びる翼を一度羽ばたかせて埃や木屑、塵芥共を払い除ける。
「穢れに触れ過ぎるのはいけないものね」
 天使の姿ではこの世の全てを制圧出来る、それと同時にこの世界の全てが毒でしか無かった。
 少女は改めて前を向いて目を見開いた。驚愕のあまり開いた口が力なく開きっ放しになっていた。
「……生きてる」
 刹菜は肩で息をして、後ろに控える那雪と一真に余裕の無い表情で叫ぶ。
「満明を呼んで! 悪魔くらいしかアレには対抗出来ない」
 その表情は普段の刹菜とはあまりにもかけ離れたもの。そんな刹菜を那雪は初めて見たのであった。いつもの冗談すら言う余裕が残されていないことを感じ取って那雪は一度だけ頷いて振り返り駆け出す。
「俺は残る、刹菜。絶対に死なせないからな」
「ダメだ、コイツ相手には数そのものが邪魔にしかなり得ない」
 少女は妖しい笑みを浮かべていた。
「どうしてそこまで分かったのか」
 刹菜は乾いた笑みを浮かべる。
「そんなに強いのにどうして図書館に引きこもり続けるのか、その手の天使ならガヴリエルが想定される」
「で?」
 その発言は何一つ少女天使の表情を動かしていなかった。
「でもさ、ホンモノじゃあないのは最初から分かってる。模倣者だろう? 図書館に引きこもらなければ知識を持っていられない欠陥品め」
「欠陥品、そうかもね。私に与えられた天使の権限は『建物に収まる知識を全て掌握すること』だけ」
 一真は駆け出した。そう、ここでは知識の数だけ敵が増えるも同然なのだから。
 天使は杖を振る。
 そして左手に氷の剣を握り締めるのだった。
「真昼さん……裏切ったな」
「減らず口、私の権限を見破っても尚そう言う?」
 仲間の力の模倣。天使は足を地より微かに離し、浮いた状態で素早く近付いてきた。
 刹菜は本を開き、あるページを押さえる。
「創造、距離」
 天使と刹菜は離されていく。存在しないはずの距離が開いていく。この空間は現実では理解出来ないもので溢れていたのであった。
 刹菜は天使の力に奪われたニヤけを取り返して相手に向けてこう放つのであった。
「刹菜、オペレーションエクスキューション! 今日もまた……死に損なうとしよう」
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