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小学生『雨空 味雲』の行い
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ドアが開く音が部屋に鳴り響く。静寂は打ち破られて、静けさの住人の小さな少年は身体を震わせて縮こまっていた。その少年、雨空 味雲は完全に怯え切っていた。
ドアが開いて入ってきたのは腹だけがだらしなく揺れる中年の男。男は床を揺らしながら大きな足音を立てて味雲へと迫り寄る。怯え震える姿をその目に捉えて拳を上げて思い切り殴りつける。
いつからこうなってしまったのだろう。痛みのあまり輝かしい感情を忘れていた味雲は考えもなしに床に落ちているエアーガンを拾っていた。
小学校に入ったばかりの頃、あの頃に想いを馳せ、決して届かないあの輝かしい日々に手を伸ばし、影の中から見つめ続ける。仲の良かった友だち、彼からもらったエアーガン、その出来事が悲劇の引き金を引くような行為にでもなったのだろうか。それから始まった夫婦の不仲のために離婚、姉の天音は母に、味雲は父に引き取られて新たな生活が始まった。
その始まりこそは優しさで充ちていて、父も笑顔を塗り付けてどうにか平常を保ったまま生き続けていた。
しかしながら寂しさからか、気が付けば酒に入り浸り始め、次第に荒れていった。それはお決まりのような流れをした分かりやすい悪夢の入り口。使い方を誤れば鬼の如き人格へと変貌させる薬、人が人の快楽のために作り続けている秘薬。恐ろしきモノに取り憑かれた父、否、心の奥底から恐ろしきモノを引き出してしまっただけであろう。息子を殴りつけ、ただただ吞んだくれて怒声を上げていた。
味雲はその様子からひとつの学びを得ていた。
鬼は、人間そのものだった。
エアーガンを見つめ続ける味雲。ただのおもちゃがなにの役に立つのだというのだろう。この眠らずとも訪れる悪夢。レールの端、最終的な場所など見えないままどこまでも伸びていた。子どもの遊び道具など、悲劇の幕を下ろす為の小道具のひとつにもなりやしない。
――もう、やめよう
味雲は使えないと分かっているエアーガン、弾すら入っていないそれを構え、酒を浴びるように飲みながらニュースキャスターが淡々と伝える世間の暗い流れに向かって吠える鬼に銃口を向けた。
それは子どもながらのささやかな抵抗、恨みを紛らわすための衝動に過ぎなかった。そのはずだった。ただのおもちゃであるはずのエアーガンが別のモノへと化けていることに、味雲は気が付かなかった。
味雲はエアーガンを握りしめ、何ひとつ弾の入っていないそれの引き金を引いた。
それこそが、雨空 味雲の初めての大きな過ちだった。
ドアが開いて入ってきたのは腹だけがだらしなく揺れる中年の男。男は床を揺らしながら大きな足音を立てて味雲へと迫り寄る。怯え震える姿をその目に捉えて拳を上げて思い切り殴りつける。
いつからこうなってしまったのだろう。痛みのあまり輝かしい感情を忘れていた味雲は考えもなしに床に落ちているエアーガンを拾っていた。
小学校に入ったばかりの頃、あの頃に想いを馳せ、決して届かないあの輝かしい日々に手を伸ばし、影の中から見つめ続ける。仲の良かった友だち、彼からもらったエアーガン、その出来事が悲劇の引き金を引くような行為にでもなったのだろうか。それから始まった夫婦の不仲のために離婚、姉の天音は母に、味雲は父に引き取られて新たな生活が始まった。
その始まりこそは優しさで充ちていて、父も笑顔を塗り付けてどうにか平常を保ったまま生き続けていた。
しかしながら寂しさからか、気が付けば酒に入り浸り始め、次第に荒れていった。それはお決まりのような流れをした分かりやすい悪夢の入り口。使い方を誤れば鬼の如き人格へと変貌させる薬、人が人の快楽のために作り続けている秘薬。恐ろしきモノに取り憑かれた父、否、心の奥底から恐ろしきモノを引き出してしまっただけであろう。息子を殴りつけ、ただただ吞んだくれて怒声を上げていた。
味雲はその様子からひとつの学びを得ていた。
鬼は、人間そのものだった。
エアーガンを見つめ続ける味雲。ただのおもちゃがなにの役に立つのだというのだろう。この眠らずとも訪れる悪夢。レールの端、最終的な場所など見えないままどこまでも伸びていた。子どもの遊び道具など、悲劇の幕を下ろす為の小道具のひとつにもなりやしない。
――もう、やめよう
味雲は使えないと分かっているエアーガン、弾すら入っていないそれを構え、酒を浴びるように飲みながらニュースキャスターが淡々と伝える世間の暗い流れに向かって吠える鬼に銃口を向けた。
それは子どもながらのささやかな抵抗、恨みを紛らわすための衝動に過ぎなかった。そのはずだった。ただのおもちゃであるはずのエアーガンが別のモノへと化けていることに、味雲は気が付かなかった。
味雲はエアーガンを握りしめ、何ひとつ弾の入っていないそれの引き金を引いた。
それこそが、雨空 味雲の初めての大きな過ちだった。
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