魔女に心を奪われて

焼魚圭

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プディングクッキング

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 それは暑く明るくも優しい日差しを降らせる太陽に見守られたような家の中でのできごと。十也は奈々美を見てあの時あの夜あの甘いことを思い出していた。プリンをスプーンで掬い、食べた奈々美がまたスプーンで掬い、十也の口へと運んでいく。
「はあ……奈々美とプリンが食べたい」
 思わず零れた言葉、それに対して艶のある声と言葉が返ってきた。
「その願い、聞き入れたわ」
 振り返ったそこには色っぽい表情をした美しい魔女の姿があった。魔女は十也に対して明らかにやましい気持ちが篭もった目を向けて、魅力的なふたり料理の計画を練り始める。
「まずは砂糖牛乳卵バニラエッセンスに茶こしにカップ、さじに計量カップを用意して」
 奈々美はカップをひとつ用意して砂糖を入れ、水を少々入れて、軽く混ぜて電子レンジに入れて温めた。それから加熱が終わるまでの十秒間、奈々美は鼻歌交じりに水と風を操り泡を作って飛ばしていた。
 それからカップを取り出して、計量カップの方に卵と牛乳に砂糖、そしてバニラエッセンスを入れてよく掻き混ぜるその時、十也がスプーンを持つ。
「十也は待っていて、作っているところなのだから」
 十也は奈々美に明るく微笑みかける。
「待ってるだけじゃなくて、一緒に作りたいんだ、思い出も一緒に」
 その暖かな言葉を受けて奈々美はニヤけ混じりの明るい笑顔を咲かせていた。
「そうね、きっと一緒に作った方が楽しいわね」
 ふたりで作る愛のプディング、それはあまりにも甘美な存在。きっと奈々美ひとりで作るよりも美味しいであろう。
 卵と牛乳、砂糖にバニラエッセンスを混ぜたものを茶こしに流してそこからカップへと移していく。
 それから電子レンジで爆発しないように見張りながら加熱して、それを冷蔵庫に仕舞って冷やすのだ。
 十也は確信していた。

 一緒に作ったプリン、思い出と一緒に味わうそれが一番美味しいのだと。

 冷やしたプリン、これからそれをあの時のように奈々美が艶やかな表情でひと口食べて、スプーンで掬って十也の口へと運んでいくのであった。
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