42 / 55
断末魔の残り香 涙(第三シリーズ)
深夜の友情記念撮影
しおりを挟む
高校生活、そう問われて思い浮かべるものとはどのようなものだろう。
冬子にとっては明るくて爽やかなもの、自分のような湿度の高い気配で覆い尽くされた人物からは程遠い者。そんな印象を抱きながら生きていた。
きっと訪れても同じように何も変わることなくただ現実の中でほんの一握りの人間の目にしか映らない光景を見つめながらそれを忌避し続ける人生。心霊と青春の扱いに差など見られない。どちらの方がよりおぞましいものなのか、想像すらつかなかった。
中学を卒業して、遂に怖れていたものが目と鼻の先といった距離にまで迫っていた。
机の上に置かれた写真立てを、くすんだピンクとミントグリーンの草花の彩りによって作り上げられた枠の中に納まる写真を見つめ、透明フィルム越しの光景を指でなぞる。
滑らかな心地に阻まれた向こうの世界、冬子といとこである茶髪の男女と男の彼女である目の歪んだ黒髪の美人。
茶髪のいとこの内の柔らかな雰囲気を持った男と黒髪の女の二人は想い出として切り離された向こう側の人物。いとことその彼女はどちらも過去という時間に収められ時間に置いて行かれてしまった。
「二人とも優しいから霊になんかならなかったな」
それは冬子が中学二年生の夏の話。学校の中でいとこの彼女の死体が見つかった。頭から血を流して倒れていたという報告を受け、しかしながら不思議と苦痛の顔を浮かべていなかったのだという。一方でいとこの方は死体すら残さずに消え去った。
青春という日々はあまりにも苦く、噂の味わいなどそこには既にない。
その日以来、ただでさえ苦手だった霊に対する苦手意識は更に増していた。あの二人の死を想えばそれだけ深みに嵌ってしまいそうだった。幸せの日々を抱き締め合っていた二人が残した無念、最期の最後に遺される感情など不幸の形そのものだった事だろう。同じような苦しみや悲しみ、負の後味と寒気を残して世界に留まる人々の存在を好きになろうなど無理、不可能。
底なしの影に膝まで浸かった感情で新たな人生の扉を開き、未知の景色を既知に変える。将来の為の過程の一つとして簡単に納めるつもりだった。
新しく身を置く場所のドアを開き、静かな足取りで机の方へと向かい、そのまま存在感を薄めていく。昨日は席の位置の確認や担任の教師からの挨拶程度の用しかなかったそこでこれから長い時間を費やして行く。大きな問題さえ起こさなければいい、そんな考えを携えて静かに生きる。
まるで幽霊のよう、しかしながら根の方から異なる息づかい。
気が付けば辺りは妙に騒がしく、明るみが蔓延っていた。しばらく経ってドアの開く音。スーツ姿のたくましい男が入って来た。
「出席とるぞ」
空席は皆無、それだけを確かめて教師は軽い話を始める。
それと共に訪れた暗い時間。黒板に文字を書いている女子生徒の姿が目に映る。しかしながら書いている文字がぼやけていて分からない。
一瞬目を逸らし、再び目を向けたその時には女子生徒の姿は消えていた。
辟易している存在、いつまでも傍にいる非日常との幾度目かも分からない邂逅に目を細め、頭を下げる。
そんな姿を見つめ、機嫌の良さそうな笑みを浮かべる男の姿があった。
一時限目の授業、というよりはテストを終えた途端、ニヤニヤと薄っぺらな笑みを浮かべる男が近付いて来た。
「波佐見、ふゆ」
「とうこ」
頬に力が入る、目の下の分厚いくまは青白い顔の血色をますます奪い去ってしまう。男はそんな心霊顔負けの顔色の悪い同級生を見つめながら揶揄するような声で笑う。
「冬子さ、幽霊見てただろ」
彼にも霊感があるのだろうか。そんな疑問は意味を成さない、既に確信を持っていた。
「冬子自身が成り済ませるくらい白いのに」
「うるさい」
静かな声は秋男の心に届いただろうか。この男と触れ合っていては心霊漬けの青春になってしまう。無念の想いを恐怖の体験と名付けられた娯楽の為の玩具になどしたくはなかった。
「取り敢えず、今夜来いよ、いや」
訂正が入る。今の言葉では冬子の身を引き留めるには至らないのだと思い知らされた。
「残るぞ」
そうして抵抗の余地すら与えないように、冬子の中に沈む想いを抑えつけ、無理やり思い通りの関係を手に入れた秋男は薄っぺらな笑みに波立つ輝きを差し込んでいた。
きっと一人でも実行してしまう事だろう。流石に死者に引き連れられるクラスメイトなど生み出す気にもなれずに共に待つことにした。
それから事務員に気付かれないようにコソコソと動きつつ時間を潰し、夜の訪れを待っている。
「いいか、この学校で夜に写真を撮ったらな」
その続きなど聞くまでも無く見えてしまう。心霊現象としてはありきたりなものだった。
「写るんだろう」
「当然」
それから暗くなるにつれて様々な影や軋む音が目立ち始める。人々の青春の場であるはずの、輝かしい空間であるはずのそこはこのような顔を隠し持っていたのかと思い知らされた。
それから秋男はカメラを構えて写真を撮る。まさか入学の記念写真の代わりとなるものが心霊写真とは、入学前には想像も付いていなかった。
それから数日後、白い煙のような手の映り込んだ写真を見せつけて機嫌を良くしていた秋男。その笑顔は無邪気な子供のようであまりにも不気味で仕方がなかった。
その顔が異変に歪み、助けを訴え始めたのは一年以上後の事だった。
あの日の写真を見返して冬子は目を見開く。いつの間に現れたのか、写真に白い顔が写り込み、無表情で何かを訴えかけていた。
冬子にとっては明るくて爽やかなもの、自分のような湿度の高い気配で覆い尽くされた人物からは程遠い者。そんな印象を抱きながら生きていた。
きっと訪れても同じように何も変わることなくただ現実の中でほんの一握りの人間の目にしか映らない光景を見つめながらそれを忌避し続ける人生。心霊と青春の扱いに差など見られない。どちらの方がよりおぞましいものなのか、想像すらつかなかった。
中学を卒業して、遂に怖れていたものが目と鼻の先といった距離にまで迫っていた。
机の上に置かれた写真立てを、くすんだピンクとミントグリーンの草花の彩りによって作り上げられた枠の中に納まる写真を見つめ、透明フィルム越しの光景を指でなぞる。
滑らかな心地に阻まれた向こうの世界、冬子といとこである茶髪の男女と男の彼女である目の歪んだ黒髪の美人。
茶髪のいとこの内の柔らかな雰囲気を持った男と黒髪の女の二人は想い出として切り離された向こう側の人物。いとことその彼女はどちらも過去という時間に収められ時間に置いて行かれてしまった。
「二人とも優しいから霊になんかならなかったな」
それは冬子が中学二年生の夏の話。学校の中でいとこの彼女の死体が見つかった。頭から血を流して倒れていたという報告を受け、しかしながら不思議と苦痛の顔を浮かべていなかったのだという。一方でいとこの方は死体すら残さずに消え去った。
青春という日々はあまりにも苦く、噂の味わいなどそこには既にない。
その日以来、ただでさえ苦手だった霊に対する苦手意識は更に増していた。あの二人の死を想えばそれだけ深みに嵌ってしまいそうだった。幸せの日々を抱き締め合っていた二人が残した無念、最期の最後に遺される感情など不幸の形そのものだった事だろう。同じような苦しみや悲しみ、負の後味と寒気を残して世界に留まる人々の存在を好きになろうなど無理、不可能。
底なしの影に膝まで浸かった感情で新たな人生の扉を開き、未知の景色を既知に変える。将来の為の過程の一つとして簡単に納めるつもりだった。
新しく身を置く場所のドアを開き、静かな足取りで机の方へと向かい、そのまま存在感を薄めていく。昨日は席の位置の確認や担任の教師からの挨拶程度の用しかなかったそこでこれから長い時間を費やして行く。大きな問題さえ起こさなければいい、そんな考えを携えて静かに生きる。
まるで幽霊のよう、しかしながら根の方から異なる息づかい。
気が付けば辺りは妙に騒がしく、明るみが蔓延っていた。しばらく経ってドアの開く音。スーツ姿のたくましい男が入って来た。
「出席とるぞ」
空席は皆無、それだけを確かめて教師は軽い話を始める。
それと共に訪れた暗い時間。黒板に文字を書いている女子生徒の姿が目に映る。しかしながら書いている文字がぼやけていて分からない。
一瞬目を逸らし、再び目を向けたその時には女子生徒の姿は消えていた。
辟易している存在、いつまでも傍にいる非日常との幾度目かも分からない邂逅に目を細め、頭を下げる。
そんな姿を見つめ、機嫌の良さそうな笑みを浮かべる男の姿があった。
一時限目の授業、というよりはテストを終えた途端、ニヤニヤと薄っぺらな笑みを浮かべる男が近付いて来た。
「波佐見、ふゆ」
「とうこ」
頬に力が入る、目の下の分厚いくまは青白い顔の血色をますます奪い去ってしまう。男はそんな心霊顔負けの顔色の悪い同級生を見つめながら揶揄するような声で笑う。
「冬子さ、幽霊見てただろ」
彼にも霊感があるのだろうか。そんな疑問は意味を成さない、既に確信を持っていた。
「冬子自身が成り済ませるくらい白いのに」
「うるさい」
静かな声は秋男の心に届いただろうか。この男と触れ合っていては心霊漬けの青春になってしまう。無念の想いを恐怖の体験と名付けられた娯楽の為の玩具になどしたくはなかった。
「取り敢えず、今夜来いよ、いや」
訂正が入る。今の言葉では冬子の身を引き留めるには至らないのだと思い知らされた。
「残るぞ」
そうして抵抗の余地すら与えないように、冬子の中に沈む想いを抑えつけ、無理やり思い通りの関係を手に入れた秋男は薄っぺらな笑みに波立つ輝きを差し込んでいた。
きっと一人でも実行してしまう事だろう。流石に死者に引き連れられるクラスメイトなど生み出す気にもなれずに共に待つことにした。
それから事務員に気付かれないようにコソコソと動きつつ時間を潰し、夜の訪れを待っている。
「いいか、この学校で夜に写真を撮ったらな」
その続きなど聞くまでも無く見えてしまう。心霊現象としてはありきたりなものだった。
「写るんだろう」
「当然」
それから暗くなるにつれて様々な影や軋む音が目立ち始める。人々の青春の場であるはずの、輝かしい空間であるはずのそこはこのような顔を隠し持っていたのかと思い知らされた。
それから秋男はカメラを構えて写真を撮る。まさか入学の記念写真の代わりとなるものが心霊写真とは、入学前には想像も付いていなかった。
それから数日後、白い煙のような手の映り込んだ写真を見せつけて機嫌を良くしていた秋男。その笑顔は無邪気な子供のようであまりにも不気味で仕方がなかった。
その顔が異変に歪み、助けを訴え始めたのは一年以上後の事だった。
あの日の写真を見返して冬子は目を見開く。いつの間に現れたのか、写真に白い顔が写り込み、無表情で何かを訴えかけていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる