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第22話 忘れられぬ過去

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 俺達は、採掘場の山頂で、周りに広がる景色を堪能しながら昼飯を堪能した後、その山頂の少し足場の悪いところへ踏み入れ、それぞれ課題を立て、戦う訓練に勤しんでいた。リリアと分身のアザミが対峙している場所から少し離れ、ルシルが短弓ショートボウを練習している隣で、俺は小弩リトルクロスボウを練習していた。

 右手で持ち、左手で弦を引き、フックに掛ける。矢をつがえ、両手で構えて狙いをつける。クロスボウの利点は、的を狙う際に弦を引き続ける必要がなく、銃と似た感覚で使えることだ。いや別に、俺は実銃を撃った経験はないが、狙う時に力を込め続ける必要がないのは扱い易かった。小弩リトルクロスボウの弦は片手で引けるほどなので、大して強くないが、入門用として持ってこいだった。そして引き金を引く。

 矢は軽く風を切って飛び、木の幹に軽い音を立てて、浅く刺さった。狙いは隣の木だったんだが。そっちの木に、矢が刺さる。隣を見ると、隣のルシルもこっちを見ていた。

「動いている的にも、当てられるようにしないといけないですね」
「俺はまず、真っ直ぐ飛ばせるようにならないとな」

 互いに笑みを交わす。少し離れたところでは、アザミと、分身のアザミが素手で組み手を行っている。本体のアザミが間合いを詰める。分身のアザミが背中を向ける。本体がハッとして表情を浮かべて歩みを止める。分身の姿が消える。すぐに分身が本体の後ろに姿を現す。向きは変わっていない。本体の背中を捉えている。〈転移〉縮地だ。

 分身が本体の背中に手をかける寸前、本体の姿が消え、分身の背後に現れる。分身は後ろに蹴りを放つ。本体の腹に分身の足の裏が迫るが、本体はすでに両腕を構えていた。放たれた足の裏を両腕で受け止める。本体の体が少し後ろへ泳ぐが、分身は後ろ蹴りを放った体勢で、蹴り足が浮いている。

 分身はその体勢のまま本体の後ろへ〈転移〉縮地。しかし本体は分身が姿を消すと同時に後ろへ振り向いていた。そして分身の軸足へタックルをかける。テイクダウン。ここからは、グラウンド戦だ。

 分身は倒されながらも、両脚で本体の胴体を押し留め、ガードポジションを取る。本体は分身の両脚をそれぞれ外から抱え込み、そのまま分身の上半身へにじり寄りながら、分身の腰を浮かせる。

「ガードになってないぞぉ」

 本体は右手を分身の股間に潜り込ませる。

「ひゃああああん。ま、参ったー」

 分身は両腕を広げた。本体はそのまま、股間に潜り込ませた右手を動かす。

「参ってる! 参ってる! 参ってるってー」

 本体はニヤリと笑って手を離した。それぞれ小一時間ほど訓練に励んだ。俺が小弩リトルクロスボウと残りの矢を片付け、ルシルと一緒に他のみんなのところへ戻ると、二人の分身のアザミはすでに消えていて、本体のアザミは、上半身のホルターネックを鎖骨の上までずらされ、おっぱいを露わにしたまま、膝の下までずらされたスパッツを直しているところだった。

「いやぁ、訓練に熱が入っちゃって」
「何の訓練をしていたんだ」
「節度は守らないと駄目ですよ」

 輪になる三人娘の外で、俺は空を見上げた。太陽が傾き始めている。

「そろそろ山を下りよう」

 みんな荷物をまとめ、行軍陣形を組む。アザミは今日五人目と六人目の分身を出した。今日一日で、かなりのことを経験できた。命をかけた戦いに臨むのはまだ先だが、この手応えから考えると、準備に二週間は要らないかもしれない。後は明日、今日の疲労がどれくらい回復するかだ。

「ふうぅ……」

 隣を歩くリリアの動きが重い。

〈強化〉エンハンスは切れたの?」
「まだ六本挿している。緊張感が薄れたせいだろう。維持が難しくなってきた」

 リリアは額に汗を浮かべていたが、疲労のせいだけではないようだ。

「そんなに気持ちいいの?」

 後ろからアザミが声をかける。

「いや、そういう訳では……」
「じゃあ、苦しいの?」
「いや、どちらかと言えば、気持ちが良いという表現になるが……」

 リリアが額に浮かべた汗が別の意味も持つようになってきた。アザミはニヤニヤしながら頷いている。

成長レベルアップの杭よりは大人しいんだよね?」
「当たり前だ」
「あんなすごいのだったら、身動き取れなくなっちゃいますよ」

 ルシルが身をすくませる。

「あ、聖騎士の資格は大丈夫なのですか?」
「今挿している場所なら問題ない」

 今挿している場所は、背中と鳩尾と両腕と、左右の太腿だ。

「場所によるんだね。……ひょっとして、リリアがお尻弱いのって」
「違う! ……いや、それは昇格で……」
「昇格?」

 アザミは首を傾げた。

「聖騎士の昇格もすごいの?」
「も?」

 今度はリリアが首を傾げた。

「昇格ってすごいのですか?」

 横からルシルが尋ねた。成長レベルアップはすごかった。一団パーティの結成もすごかった。昇格では一体何をされるのか。

「ルシルと勇者は昇格したことないんだよね。忍者と聖騎士の昇格は多分違うと思うんだけど、忍者のはねぇ、すごかったよ」

 アザミは苦笑いしている。

「聞きたい?」
「聞きたいです!」

 ルシルが身を乗り出す。俺も聞きたい。

「いいでしょう」

 アザミは少しかしこまり、そして語り始めた。

 今から五年前、アザミは忍者の里に居た。忍者の里は王都からずっと西にある、森の中の小さな街だ。建物は木造が多いが、石造りの壁で囲まれている。

 忍者の里とは言っても、忍者しか居ない訳ではなく、戦士が武具作成の能力で忍者の武具を作っていたり、踊り子が衣装作成の能力で忍者の衣を作っていたり、他にも僧侶や錬金術師など、一通りのクラスが居る。

 アザミは忍者頭ニンジャマスターの孫娘であり、生まれた時から主職メインクラスが武闘家、副職サブクラスが魔法使いで、忍者に必要な組み合わせを満たしていた。

 幼い頃から英才教育を施され、元服の儀式を迎える前にレベル1への成長レベルアップを果たし、元服の儀式を迎える頃には、昇格に必要な経験値を稼いでいた。里の宗家の子女は、元服の儀式に引き続いて昇格の儀式を行うのが習わしで、間に合わなければ、跡継ぎの候補としての順位を下げられてしまう。

 元服の儀式は宗家の屋敷で厳かに行われた。一門が集まる中へ、アザミは晴れ着を纏って現れる。晴れ着といっても、鮮やかな色合いの浴衣のようなものらしい。そして一門の前で舞を披露する。それは芸術や娯楽の要素も持ちながら、元服しようとする者の、身のこなしを確かめるものでもあった。

 踊り終えると、晴れ着を脱ぎ捨て、一門に全裸を晒す。元服しようとする者の、成長具合を確かめてもらうためである。晒した瞬間、一門から感嘆の声が漏れたという。今よりは小振りながら、同じ年頃の娘を圧倒するおっぱいが姿を現したからだ。己の体を武器とする忍者にとって、それは重要な要素であり、流石は宗家の孫娘だった。

 そして忍者頭ニンジャマスターの前へ進み出て、両膝を着いて伏せる。忍者頭ニンジャマスターは頷き、傍に置いていた忍者の衣一式をアザミの前に出す。それをアザミが恭しく受け取ると、元服の儀式は終わりとなる。まだ身に着けない。まだ忍者になっていないからだ。

 アザミは忍者頭ニンジャマスターである祖父と、母親と一緒に、屋敷の裏から神殿へ向かう。神殿も木造であったが、金色の神の鳥の像は祀ってあった。魔法円は神殿の奥の間の石畳の上に刻まれていた。祖父と母親が立会人となり、アザミは魔法円の上に全裸で仰向けになった。

 祈りに入る前、母親はアザミに一言だけ声をかけた。忍者は、いかなる時にも、いかなる場所でも、己の体をただの武器として扱えなければならないのよ、と。それはこれまでの修行でも聞かされてきた言葉だった。アザミは頷き、目を瞑り、祈りに入った。

 やがてアザミは、真っ暗な空間を全裸で漂っていた。すでに成長レベルアップは一度経験している。黄色い光が集まってきた。天使だ。アザミの四肢にそれぞれ一体ずつ天使が抱きつく。アザミは一瞬体を強張らせた。まだこういうことに十分馴れていなかった。初めての成長レベルアップの時は、訳が分からないまま頭が真っ白になっていた。

 体の力を緩め、天使達に身を委ねる。右腕に組み付いている天使がアザミの右のおっぱいへ手を伸ばす。左腕に組み付いている天使が左のおっぱいへ。右脚に組み付いている天使は右のお尻へ。左脚に組み付いている天使が左のお尻へ。そして五体目の天使が、少し口を開けて舌を出し、アザミの股間へ顔を近づける。

 左右のおっぱいが違うタイミングで揉みしだかれ、乳首をこね回される。アザミの心拍数が上がっていく。左右のお尻も撫で回される。アザミの呼吸が速くなっていく。そして股間が舐め上げられる。アザミの口から吐息が漏れる。

 アザミは全身に汗を滲ませていた。天使達の手の動き、そして舌遣いが強くなっていく。アザミの乳首が硬く尖っていく。股間から雫が滴る。声が大きくなり、止まらなくなってくる。

 アザミの脚に組み付いている天使が、それぞれの脚を膝を曲げながら持ち上げ、左右に開いていく。アザミの股間に顔を埋めていた天使が顔を上げ、離れる。そしてアザミの背後に回り、後ろから右手をアザミのへそに伸ばす。激しい呼吸でうねるへその穴の縁を撫で上げると、そのまま股間へ指を進めていく。

 一方左手はアザミのお尻へ伸ばす。そしてピクピクと痙攣している穴の縁を指先で撫で回す。アザミが一層大きな声を上げる。指先はそのまま会陰を伝って、雫が滴る割れ目に辿り着き、音を立てて掻き出していく。

 アザミは、こんなに攻め立てられたのは初めてだった。為す術もなく声を上げ、目を見開き、手の指も足の指もいっぱいに開き、押し寄せる高まりに、身構え方も分からずその時を待った。その時――。

 いきなり辺りが明るくなった。忍者の里のど真ん中に居た。アザミの周りにみんなが居て、みんながアザミの様子を見ていた。天使達に抱きつかれ、両脚を広げられ、雫を滴らせ、声を上げている様子を見ていた。

「えっ? えっ? えっ? 駄目ーっ!」

 アザミは激しく首を左右に振るが、押し寄せる高まりは止まらない。裸なら里の者に見せている。先程も一門に披露したばかりだ。それでも、全ての里の者にではない。身内や友達、親しい知り合いばかりだ。まして、悦楽に溺れる姿など、他人に見せるという概念すらなかった。それが今、見知らぬ者が注目する中で、良く知っている者が注目する中で、余すところなく公開されてしまう。

「いやっ、いやっ、いやっ、ああああ!」

 なんとか堪えようとするが、どう力を込めても高まりは膨れ上がるばかり。そして――。

「くああああああ!」

 アザミは公衆の面前で、体を仰け反らせ、激しく股間からほとばしらせた。

「ああああ……」

 アザミは体で心地良い余韻を味わいながら、心は呆然としていた。しかし、天使達はそんなアザミにお構いなく、再び攻め立てる。

「あっ、あっ、あっ、あっ」

 一度火が点いた体を五体もの天使に攻め立てられ、抑えられるはずもない。

「くああああああ!」

 アザミは再び股間からほとばしらせた。その後も天使達の攻めは止まらない。その攻め加減は絶妙で、アザミは一瞬意識を飛ばされるものの、すぐに意識を取り戻す。そしてみんなに見つめられた状況を意識させられる。

 アザミはどうして良いか分からなかった。体はとても気持ちいい。しかし全てを見られてしまう。我を失いかけていた。その時、見つめているみんなの中に母親の顔が見えた。そして、母親の言葉を思い出した。

 忍者は、いかなる時にも、いかなる場所でも、己の体をただの武器として扱えなければならない。

 そうだった。これは忍者への昇格の儀式なのだ。乗り越えなければならない。そのためには、今この心に渦巻く羞恥心を捨てなければならない。やるべきことを見つけ、アザミはその瞳に光を取り戻した。

 その間も天使達の手は止まらない。また高みへ押し上げられていく。この波は避けるべきなのか? そうではない。耐えるべきなのか? そうではない。乗るべきものだ。みんなに見られている? そうではない。みんなに見せつけているのだ。これは、みんなを魅了している状況なのだ。

 あの男はどうだ? あたしを見ながら自分の股間を抑えているじゃないか。あの少年は? あたしのおっぱいから目を逸らせない。あの少女すら、あたしの股間を見て己の股間に手を伸ばしている。

 アザミは笑みを浮かべた。そして左手をぐっと動かすと、左腕に組み付いていた天使は抵抗せずに離れた。アザミは自由になった左手で、己の左のおっぱいを揉み上げる。そして右手をぐっと動かすと、天使が離れ、右手も自由になる。アザミはその右手を、己の股間に伸ばす。脚に組み付いていた天使も離れた。

 全ての天使が離れても、アザミは両脚を開いた姿勢で、左手で己のおっぱいを揉みしだき、右手で己の股間を刺激する。アザミはみんなの表情を確かめながら声を上げ、手の動きを強めていく。そしてみんなに見せつける。

「くああああああ!」

 アザミは自分で達した。その途端、みんなの姿は消え、暗闇も晴れ、神殿の奥の間の、魔法円の真ん中で目覚めた。母親は笑みを浮かべていた。祖父は前屈みになっていた。それを見てアザミは笑った。流石に起き上がれなかった。股間の周りはびしょびしょになっていた。

 起き上がれていたら、祖父の股間に手を伸ばしていただろう。アザミは何度か祖父に稽古をつけてもらったことはある。いつもかなわなかった。しかし、別の戦い方なら、祖父すら手玉に取れるかもしれない。それを思うと、笑みがこぼれた。

 これが、アザミが俺達に話してくれた、忍者への昇格の顛末だった。
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