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初めてのダンス
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わけがわからないまま、いつの間にか到着していたので、案内されていた間の記憶がない。
フローラが気付いた時には、城内にある大きなホールにある壇上の上に立っていた。
目の前には、貴族と思しき着飾った沢山の人々。
立食式の豪華な食事が、色とりどりに机上を飾っている。
蛮族の国などという認識は、改めなければならないのは明白だった。
フローラの隣には、王の命令を受けて迎えに来た騎士だと思っていた、金髪碧眼の男性。
二人が立つすぐ後ろには、豪華な椅子が二脚置かれていて、ホール全体が見渡せる造りになっている。
もうここまで来れば、確認しなくても分かる。ここは玉座だ。
つまり、フローラをエスコートしてくれたこの男性は――――。
(ハロルド王、なの? この優しくて、綺麗な方が?)
歓声を上げる貴族達に手を上げて応える隣人は、どう考えてもイザイアの国王でしかあり得ない。
けれど、「毛むくじゃらで野蛮な、蛮族の王」という噂からはかけ離れすぎていて、理解が全く追いつかなかった。
「一曲、踊って頂けますか?」
フローラが戸惑いと混乱の最中にいる間に、お披露目は終わっていたらしい。
緩やかな音楽が流れ始めたホールでは、人々が楽しそうにダンスを始めていた。
「私、ダンスは……」
隣から差し出された手を、取る勇気がない。
王城を出るまでの数日間で、必要最小限のマナーは叩き込まれた。
だが、基本的に後宮の外へ出る事の許されていなかったフローラは、誰かとダンスなど踊った事がなかったのだ。
「大丈夫、堅苦しい型などない。身体が動くままに、楽しめば良いんだ」
「ですが……」
故郷の国では、まず前提としてフローラには、ダンスパーティーに参加する資格がなかった。
幼い頃、一度だけこっそりと物陰から覗いた事があったけれど、きっちりと型にはまったダンスは難しいばかりで、緩やかな音楽に合わせたそれはとても綺麗だったけれど、楽しそうだとは思えなかった。
有無を言わせぬ勢いで手を取られ、連れて行かれたホールの中心では、皆がそれぞれ思い思いのダンスを、パートナーと楽しそうに踊っている。
統一性は感じられず、型がないというのは、確かに言葉通りである様子だ。
フローラが怖じ気づく前に、ハロルドの手がリードする様に腰へと回る。
緊張して固まっていたのが嘘のように、フローラの身体は導かれるまま、明るくアップテンポな曲に合わせて動き出した。
最初は、まるで振り回されている様にしか感じなくて、少し怖かった。
けれど型がないどころか、最初から最後まで同じ動きをする事さえなく、足捌きなど関係ないと言わんばかりの自由なダンスを続けている内に、どんどん楽しくなってくる。
音楽が終わった時には、「はぁはぁ」と息が切れてしまっている程激しかったけれど、気分はとても高揚していた。
「お綺麗なダンスじゃないが、こういうのも楽しいだろう?」
「はい、とても」
「ようやく、目を合わせてくれた」
真っ直ぐ視線を合わせたフローラに、ハロルドが楽しそうに笑う。
その優しい瞳は、まるで心からフローラを妻にと望んで迎え入れてくれようとしているのだと、錯覚してしまいそうになる。
「……貴方がハロルド様、なのですか?」
「あぁ、そうか。申し訳ない、確かに自己紹介をしていなかった! 俺は、ハロルド・デ・イザイア。今はこの国で、王をやらせて貰ってる。これからよろしく頼むよ、フローラ姫」
「は、はい」
「貴国とは何もかもが随分と違うだろうから、困ったことがあったら、何でも言ってくれ。出来るだけ望み通りに、対応させて貰う」
「過分なお気遣い、ありがとうございます。私では、人質として余りお役に立てないかもしれませんが、何なりとお申し付け下さいませ」
表情だけでなく、優しい言葉までかけてくれるから、そのままの意味ではないかと信じてしまいそうになる。
けれど、フローラが人質としてここに居るのは変えられない事実で有り、しかも故郷の王家から見放されているフローラは、唯一与えられた人質という役目さえ十分に果たせるかどうかも怪しかった。
せめて役立たずのフローラに対し、最初だけだとしても優しく接しようと努力してくれるハロルドや、嘘でも歓迎の態度を示してくれたこの国の人々の期待を、裏切らない様にしたい。
「待て。人質、とは?」
深々と頭を下げたフローラの身体を引っ張り上げ、正面まで視線を上げさせたハロルドは、やけに真剣な表情をしていた。
いつの間にか音楽は消え、周りで楽しく踊っていた人々も、不安げに二人の様子を窺っている。
たとえ一夜限りの嘘だとしても、せっかく皆が歓迎ムードを演出してくれていたのに、それさえ台無しにしてしまった。
申し訳なくて、再び俯いてしまいそうになるフローラだったが、ハロルドがそれを許さない。
「申し訳ございません」
「謝罪の言葉が聞きたい訳じゃない。人質とは、どういう意味なのかと聞いているんだ」
「言葉の通りです。和平の為の人質として、私を望まれたのでしょう?」
近年力を付けてきているイザイア国が、次々と隣国に攻め込んでいると、かねてから噂されている。
真実、イザイア国と同盟を結ぶ国々は、この数年の間に急速に増えていた。
占領支配ではなく同盟という形を取っているのは、単に侵略された国の民達の不満を爆発させない為の軍事戦略の一つで有り、実質的にはイザイア国が実権を握っているとも言われている。
人質として嫁ぐ先の情報として、フローラが教えられた通りならば、イザイアはいずれ故郷である魔法の国にも、攻め入るつもりなのだろう。
野蛮な蛮族の国だと聞かされていたのも、力なき者は奴隷のように扱われると聞かされていたのも、フローラを怯えさせようとする継母の誇張が大きかったのかもしれない。
けれど、実際にイザイア国が持つ武力は強大であり、全てがただの噂だと切り捨ててしまうには、真実みがあり過ぎた。
元より、故郷の国にフローラの居場所はなかったし、虐げられていた立場だったのだ。
人質として隣国に送られたのだとしても、扱いはそう大きく変わらない。
けれどもし、魔法が発展している国の王女として、強い魔法の力を求められているとしたら、その期待には応えられないのである。
その点で、フローラが役立たずである事は確定していた。
使えないと判断されて殺されても、文句は言えない。
ただ、フローラ一人が犠牲になるだけで、戦いへの抑止力になるのならば、それはそれで良かった。
フローラが気付いた時には、城内にある大きなホールにある壇上の上に立っていた。
目の前には、貴族と思しき着飾った沢山の人々。
立食式の豪華な食事が、色とりどりに机上を飾っている。
蛮族の国などという認識は、改めなければならないのは明白だった。
フローラの隣には、王の命令を受けて迎えに来た騎士だと思っていた、金髪碧眼の男性。
二人が立つすぐ後ろには、豪華な椅子が二脚置かれていて、ホール全体が見渡せる造りになっている。
もうここまで来れば、確認しなくても分かる。ここは玉座だ。
つまり、フローラをエスコートしてくれたこの男性は――――。
(ハロルド王、なの? この優しくて、綺麗な方が?)
歓声を上げる貴族達に手を上げて応える隣人は、どう考えてもイザイアの国王でしかあり得ない。
けれど、「毛むくじゃらで野蛮な、蛮族の王」という噂からはかけ離れすぎていて、理解が全く追いつかなかった。
「一曲、踊って頂けますか?」
フローラが戸惑いと混乱の最中にいる間に、お披露目は終わっていたらしい。
緩やかな音楽が流れ始めたホールでは、人々が楽しそうにダンスを始めていた。
「私、ダンスは……」
隣から差し出された手を、取る勇気がない。
王城を出るまでの数日間で、必要最小限のマナーは叩き込まれた。
だが、基本的に後宮の外へ出る事の許されていなかったフローラは、誰かとダンスなど踊った事がなかったのだ。
「大丈夫、堅苦しい型などない。身体が動くままに、楽しめば良いんだ」
「ですが……」
故郷の国では、まず前提としてフローラには、ダンスパーティーに参加する資格がなかった。
幼い頃、一度だけこっそりと物陰から覗いた事があったけれど、きっちりと型にはまったダンスは難しいばかりで、緩やかな音楽に合わせたそれはとても綺麗だったけれど、楽しそうだとは思えなかった。
有無を言わせぬ勢いで手を取られ、連れて行かれたホールの中心では、皆がそれぞれ思い思いのダンスを、パートナーと楽しそうに踊っている。
統一性は感じられず、型がないというのは、確かに言葉通りである様子だ。
フローラが怖じ気づく前に、ハロルドの手がリードする様に腰へと回る。
緊張して固まっていたのが嘘のように、フローラの身体は導かれるまま、明るくアップテンポな曲に合わせて動き出した。
最初は、まるで振り回されている様にしか感じなくて、少し怖かった。
けれど型がないどころか、最初から最後まで同じ動きをする事さえなく、足捌きなど関係ないと言わんばかりの自由なダンスを続けている内に、どんどん楽しくなってくる。
音楽が終わった時には、「はぁはぁ」と息が切れてしまっている程激しかったけれど、気分はとても高揚していた。
「お綺麗なダンスじゃないが、こういうのも楽しいだろう?」
「はい、とても」
「ようやく、目を合わせてくれた」
真っ直ぐ視線を合わせたフローラに、ハロルドが楽しそうに笑う。
その優しい瞳は、まるで心からフローラを妻にと望んで迎え入れてくれようとしているのだと、錯覚してしまいそうになる。
「……貴方がハロルド様、なのですか?」
「あぁ、そうか。申し訳ない、確かに自己紹介をしていなかった! 俺は、ハロルド・デ・イザイア。今はこの国で、王をやらせて貰ってる。これからよろしく頼むよ、フローラ姫」
「は、はい」
「貴国とは何もかもが随分と違うだろうから、困ったことがあったら、何でも言ってくれ。出来るだけ望み通りに、対応させて貰う」
「過分なお気遣い、ありがとうございます。私では、人質として余りお役に立てないかもしれませんが、何なりとお申し付け下さいませ」
表情だけでなく、優しい言葉までかけてくれるから、そのままの意味ではないかと信じてしまいそうになる。
けれど、フローラが人質としてここに居るのは変えられない事実で有り、しかも故郷の王家から見放されているフローラは、唯一与えられた人質という役目さえ十分に果たせるかどうかも怪しかった。
せめて役立たずのフローラに対し、最初だけだとしても優しく接しようと努力してくれるハロルドや、嘘でも歓迎の態度を示してくれたこの国の人々の期待を、裏切らない様にしたい。
「待て。人質、とは?」
深々と頭を下げたフローラの身体を引っ張り上げ、正面まで視線を上げさせたハロルドは、やけに真剣な表情をしていた。
いつの間にか音楽は消え、周りで楽しく踊っていた人々も、不安げに二人の様子を窺っている。
たとえ一夜限りの嘘だとしても、せっかく皆が歓迎ムードを演出してくれていたのに、それさえ台無しにしてしまった。
申し訳なくて、再び俯いてしまいそうになるフローラだったが、ハロルドがそれを許さない。
「申し訳ございません」
「謝罪の言葉が聞きたい訳じゃない。人質とは、どういう意味なのかと聞いているんだ」
「言葉の通りです。和平の為の人質として、私を望まれたのでしょう?」
近年力を付けてきているイザイア国が、次々と隣国に攻め込んでいると、かねてから噂されている。
真実、イザイア国と同盟を結ぶ国々は、この数年の間に急速に増えていた。
占領支配ではなく同盟という形を取っているのは、単に侵略された国の民達の不満を爆発させない為の軍事戦略の一つで有り、実質的にはイザイア国が実権を握っているとも言われている。
人質として嫁ぐ先の情報として、フローラが教えられた通りならば、イザイアはいずれ故郷である魔法の国にも、攻め入るつもりなのだろう。
野蛮な蛮族の国だと聞かされていたのも、力なき者は奴隷のように扱われると聞かされていたのも、フローラを怯えさせようとする継母の誇張が大きかったのかもしれない。
けれど、実際にイザイア国が持つ武力は強大であり、全てがただの噂だと切り捨ててしまうには、真実みがあり過ぎた。
元より、故郷の国にフローラの居場所はなかったし、虐げられていた立場だったのだ。
人質として隣国に送られたのだとしても、扱いはそう大きく変わらない。
けれどもし、魔法が発展している国の王女として、強い魔法の力を求められているとしたら、その期待には応えられないのである。
その点で、フローラが役立たずである事は確定していた。
使えないと判断されて殺されても、文句は言えない。
ただ、フローラ一人が犠牲になるだけで、戦いへの抑止力になるのならば、それはそれで良かった。
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