最低な出会いから濃密な愛を知る

あん蜜

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第七話 前言撤回

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 私とベンが佇むこの廊下には、静かな音しか発生していない。そこには私の顔や首筋にキスをするベンと、ただそれを受け入れるしかない私以外に誰もいないからだ。意図せず二人だけの空間と化している廊下は淡いろうそくの光によってあたたかく灯されている。

 ベンの顔が首筋から離れた。

「……………………」

 目を合わせることはできないが、彼にじっと見つめられているのはわかる。どのような顔をしているのか少し気になったが、恥ずかしさのあまり目を向けることができない。

「悪ぃ。前言撤回だ」

 前言が何を意味するのか考えながら、彼の顔へと視線を戻す。

「……前言撤回?」

「キスしねぇつったけど無理だ」

「……へっ――」

 言葉の意味を理解するよりも先に視界がベンの顔でいっぱいになる。

ちゅ――――

「!!!!」

 やさしく唇に乗せられた感触は、瞬く間に形を変えていく。

ちゅっちゅっ……ちゅぅ――――ちゅむ――――――

 ふにふにとした感触や、ふにゅっとした感触、挟まれるような感触など、やさしい刺激が唇という小さな世界の間で繰り広げられており、ベンが顔や唇を動かすたび胸が苦しくなり鼓動が高ぶっていく。

 やさしい口づけであることは同じはずなのに、さきほど婚約の儀で重ねられたキスとは何もかもが違う。実感が伴っているのだ。キスを交わしているという確かな実感が……。

 唇にキスをされ、とてつもなく嫌なはずなのに、心はそう感じていないのが不思議でならない。嫌だと感じなくてはいけないのに、やさしさやあたたかさが伝わってくるからか、流れに身を任せてしまっている。体を委ねてしまう。

(ダメなのに……早く突き放さないと……。結婚する前に唇を重ね合うだなんて、そのようなこと、絶対にあってはならないのに……守り通さなければならないのに…………)

 ベンが顔を少しばかり後ろに引き、唇が重ねられてから初めてまともに唇が離れた。
 思わず息を止めてしまっている時もあり呼吸が浅かったため、自然と口から息が漏れ出る。

「はぁ…………はぁ…………」

「たまんねぇな」

 その声とともに熱い吐息を唇に感じた直後、背中をぐいっと引き寄せられ、そのまま抱きしめられる。

「ぁっ」

 反動で小さくこぼれた声はすぐに塞がれ、再び呼吸が浅くなった。

「っ……!」

ちゅ――ぬる―――――ちゅぅ――――

 さっきまでの重ね方とは打って変わって、今度はより深く、広く触れ合っている。より繊細な場所が刺激されたせいか、背中にぞわぞわっと不思議な感覚が立ち上った直後、

「っ……~~~~っ!?」

 口の中に生温かい感触が。

「っ……っ……!!」

 中に入ってきた舌が丁寧に、時折大胆に動いていく。それと同時に私を抱きしめるベンの腕が強められ、二人の体の前面がよりしっかりと密着した。私も無我夢中でベンの背中のシャツを掴む。きくつ抱きしめ合っているという、非常に注目すべきことが起きているのにも関わらず、そこに気を留めている余裕はなかった。意識のほとんどが口内に集中しているのだ。

ぬる――ぬるっ――――

「~~~~っ!?」

 舌と舌が絡まり合い、なんともいいがたい感触に唾液が溢れ出す。

(っ…………なに……これ………………)
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