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第十一話 ブラウニー伯爵家
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日が暮れる頃、馬車はブラウニー伯爵家の門をくぐり、敷地内へと進んでいった。
(ここが……ベン様のご実家…………)
馬車から降りるや否や、私の体は宙に浮いた。
「きゃあ!?」
がっちりとした腕の中にすっぽりと抱えられたまま、屋敷の大きな扉がどんどん目の前へと迫ってくる。
「ベン様!?」
返事のないまま扉が開かれ、そのまま中へと入っていく。
「親父ー、お袋ー」
ベンの大きな声が響き渡ると、わぁっという声とともにぞろぞろと屋敷の者たちがあちらこちらから現れた。「ベン様お帰りなさいませ!」「もしや、そちらのお嬢様が……!?」色んな声とともに多くの視線が向けられ、顔に熱が上がる。
「ベン様っ……降ろしてくださいっ……!」
「なんだ、照れてんのか」
「違いますわっ! 恥ずかしいのでございます!」
(こんな……お姫様抱っこをされた状態で……っ! きゃぁぁ……見られている……大勢の方に見られている!!)
ぎゅっと目を閉じてこの場を凌ごうと試みる。しかしそれは不可能なわけで……。
「これはこれは、随分と可愛らしいお嬢さんを連れて来たもんだ」
「本当ですこと」
優しい声色に、まさかという気持ちが込み上げ、恐る恐る目を開ける。
「親父、お袋! すんげー可愛いだろ。婚約者のソフィアだ」
わぁぁっ、とまたもや歓声のような明るい声が響き渡る。
私の目はばっちりとお二人の姿を捉えており、今、ベンのご両親と顔を合わせているという事実を突きつけられる。
(このような状態で挨拶しろと!?)
顔が青ざめ掛かったところで、ベンはすっと私を降ろした。
「……!」
姿勢を正し、一度唾を飲み込む。
「初めまして、ソフィア・グレインと申します」
「ソフィア君か、よく来たね。私は父親のジョージ・ブラウニーだ。よろしくね」
「母親のハンナよ。ソフィアさんいらっしゃい」
「はい……ありがとうございます……」
緊張で心臓がおかしくなりそうだ。それでも、ベンの言うとおりお二人とも穏やかで優しそうな雰囲気のため、それだけで肩の荷が軽くなった。
食事の際も、このような場に不慣れなのが表に出てしまっているのか、こちらが返答に困るような質問を受けることは一切無く時間は過ぎていった。
一見順調なようにも思えるが、
『ソフィアさんを娘として迎えられる日が待ち遠しいわぁ』
『妻はお嫁さんと親子のように街で買い物をするのが夢だったんだ』
そう言われた時、私はなんと愚かで浅はかな考えをしていたのかと自分に呆れた。最初から解消するつもりで婚約するだなんて、そんな馬鹿げた話があるわけない。こんなにも喜んでくださっている姿を目の前にして、今更どうやって解消することができるのだろうか。
用意された部屋でひとりベッドに入ると、それまで我慢していたものが大きなため息として吐き出された。一人は自由だ。どれだけため息を吐こうが誰からもとやかく言われずに済む。
「はぁーーーー…………」
どうしたものか。当初の予定通り、参加したその日のうちに相手を見つけることができ、翌朝には会場を出発することができた。そしてその相手は私が嫌なら解消すればいいと本気で言っている。全て計画通りで望み通りなのに……。
「あぁ…………私って、どうしてこんなにも間抜けなのかしら……」
(お姉様のように聡明だったら……ううん、例え聡明でなくとも昔からわがままを言わず社交的な場に出ていれば…………)
令嬢として生まれた以上、避け続けることは不可能だとわかっていたはずなのに。
「はぁぁ……………………」
一人きりの部屋に、ため息ばかりが溶けていく。
考えるべきことが山ほどあるからか、目はぱっちりと冴えて中々寝入ることができなかった。
(ここが……ベン様のご実家…………)
馬車から降りるや否や、私の体は宙に浮いた。
「きゃあ!?」
がっちりとした腕の中にすっぽりと抱えられたまま、屋敷の大きな扉がどんどん目の前へと迫ってくる。
「ベン様!?」
返事のないまま扉が開かれ、そのまま中へと入っていく。
「親父ー、お袋ー」
ベンの大きな声が響き渡ると、わぁっという声とともにぞろぞろと屋敷の者たちがあちらこちらから現れた。「ベン様お帰りなさいませ!」「もしや、そちらのお嬢様が……!?」色んな声とともに多くの視線が向けられ、顔に熱が上がる。
「ベン様っ……降ろしてくださいっ……!」
「なんだ、照れてんのか」
「違いますわっ! 恥ずかしいのでございます!」
(こんな……お姫様抱っこをされた状態で……っ! きゃぁぁ……見られている……大勢の方に見られている!!)
ぎゅっと目を閉じてこの場を凌ごうと試みる。しかしそれは不可能なわけで……。
「これはこれは、随分と可愛らしいお嬢さんを連れて来たもんだ」
「本当ですこと」
優しい声色に、まさかという気持ちが込み上げ、恐る恐る目を開ける。
「親父、お袋! すんげー可愛いだろ。婚約者のソフィアだ」
わぁぁっ、とまたもや歓声のような明るい声が響き渡る。
私の目はばっちりとお二人の姿を捉えており、今、ベンのご両親と顔を合わせているという事実を突きつけられる。
(このような状態で挨拶しろと!?)
顔が青ざめ掛かったところで、ベンはすっと私を降ろした。
「……!」
姿勢を正し、一度唾を飲み込む。
「初めまして、ソフィア・グレインと申します」
「ソフィア君か、よく来たね。私は父親のジョージ・ブラウニーだ。よろしくね」
「母親のハンナよ。ソフィアさんいらっしゃい」
「はい……ありがとうございます……」
緊張で心臓がおかしくなりそうだ。それでも、ベンの言うとおりお二人とも穏やかで優しそうな雰囲気のため、それだけで肩の荷が軽くなった。
食事の際も、このような場に不慣れなのが表に出てしまっているのか、こちらが返答に困るような質問を受けることは一切無く時間は過ぎていった。
一見順調なようにも思えるが、
『ソフィアさんを娘として迎えられる日が待ち遠しいわぁ』
『妻はお嫁さんと親子のように街で買い物をするのが夢だったんだ』
そう言われた時、私はなんと愚かで浅はかな考えをしていたのかと自分に呆れた。最初から解消するつもりで婚約するだなんて、そんな馬鹿げた話があるわけない。こんなにも喜んでくださっている姿を目の前にして、今更どうやって解消することができるのだろうか。
用意された部屋でひとりベッドに入ると、それまで我慢していたものが大きなため息として吐き出された。一人は自由だ。どれだけため息を吐こうが誰からもとやかく言われずに済む。
「はぁーーーー…………」
どうしたものか。当初の予定通り、参加したその日のうちに相手を見つけることができ、翌朝には会場を出発することができた。そしてその相手は私が嫌なら解消すればいいと本気で言っている。全て計画通りで望み通りなのに……。
「あぁ…………私って、どうしてこんなにも間抜けなのかしら……」
(お姉様のように聡明だったら……ううん、例え聡明でなくとも昔からわがままを言わず社交的な場に出ていれば…………)
令嬢として生まれた以上、避け続けることは不可能だとわかっていたはずなのに。
「はぁぁ……………………」
一人きりの部屋に、ため息ばかりが溶けていく。
考えるべきことが山ほどあるからか、目はぱっちりと冴えて中々寝入ることができなかった。
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